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試験開始




 小一時間程走り、クロヴィスの運転するクルマは無事に目的地である冒険者協会エルドラ支部へ辿り着いていた。


「ここが……」


 駐車場にクルマを停めてもらい、俺は辺りを眺める。

 クルマから下りて見上げると、冒険者協会の支部は中々にご立派な佇まいであった。奥にはドームのような建物もあり、戦闘試験をするには申し分ない広さだ。


「――お疲れさまでした、クロエ様。私はここで待っておりますので、終わり次第合流致しましょう」


「試験にどれくらいの時間がかかるかわからないので、クロヴィスはどこかで暇潰ししていても全然大丈夫ですよ」


「クロエ様のお気遣いはとても嬉しいのですが……今、私は分身体を行動させておりまして、むしろジッとしていた方が楽なのです」


「あ、そうなんですね。でしたら待機をお願いします」


「ええ。では、お気をつけて」


「はい、行ってきます」


 俺はクロヴィスと別れ、1人で冒険者協会へと足を踏み入れた。

 協会の中に入ると、冒険者志望らしき人達が数十人いた。皆、それぞれ緊張していたり余裕そうだったりで椅子に座っている。


 大理石の床を歩き、正面にあるカウンターへ。

 いくつか窓口があったが、先ほど受験者っぽい人が声をかけていたところへ俺は進んだ。協会の制服を着たお姉さんに俺はこえをかける。。


「――あの、冒険者資格取得試験の受付はこちらであっていますか?」


「ええ、そうですよ。志願の方ですか?」


「はい」


「わかりました。では、志願書の提出をお願いいたします」


 受付のお姉さんに言われ、俺はクロヴィスと協力して作った志願書を取り出した。


「はい、確かに。試験は筆記、実技、魔力測定の順に行います。以上の結果により、最終試験である実戦試験へと進めるかどうかが決まります。その後、全ての試験の結果を踏まえた上で合否とランクが決まりますので、そのつもりでお願いしますね。説明は以上ですが、何か質問はありますか?」


「ええっと――」


 何か聞いておくことはあるだろうか。

 少しだけ考えてみたが特に見当たらないな。


「大丈夫です」


「わかりました。それでは、受験票を持ってあちらのスペースでお待ちください」


 言って受付のお姉さんは案内してくれた。

 ちなみに、手渡された受験票には番号が振ってあった。

 なんだか生前の高校や大学受験を彷彿とさせるが――。

 今となってはいい思い出だな。

 

「はい、よろしくお願いします」


 俺はぺこりとお辞儀をして、待合スペースの方へ向かった。

 なんだかお姉さんが微笑ましそうにこっちを見ていたが……、俺が小さいから記念受験だと思われているのだろうか。確かに待合スペースにいる人達は明らかにそれらしい装備をしているし、見るからに武芸者っぽい人が多い。そんな中に俺なんかが混じったら浮くのはしょうがないか。


 待合スペースには、冒険者志望の人達が数人いた。

 見渡すと、緊張している人の割合の方が多そうだった。

 まあ、冒険者とは職業だから、いわばこの資格取得試験は就職活動みたいなものだからな。気が張るのは仕方ないだろう。


 という俺も緊張してきた。

 俺の場合は魔力測定の結果が一番気がかりである。無事にアブソーブリングが機能してくれればいいんだけど。あれだけエヴリーヌさんが頑張ってくれたんだし、何とか平均値で突破したいところだ。


「あなたも試験を受けに来たの?」


 と、何者かに声をかけられた。

 少女だった。杖らしきものを背負っているし、魔法使いなんだろう。

 青色の髪を肩くらいまで伸ばし、ローブに身を包んでいる。帽子も魔法使いが被ってそうな大きなやつだ。THE魔法使いって風貌だな。


「そうですよ」


 と、俺が答えると魔法使いの少女は驚いた。


「えっと、失礼かもだけど一応年齢を聞いてもいいかな?」


「10歳です」


 ――という設定である。

 実際は年齢不詳だが。


「10歳……。確かに冒険者の中には若い人が大勢いるっていうけど、10歳で冒険者を目指す人がいるっていうのは驚いたなぁ……。あ、もちろん記念受験とかでは――」


「ないですよ。本気で冒険者の資格を取ろうと思っています」


「おおう……。今時の女の子は強いんだなぁ……。えっとね、実は私、これで3度目の受験なんだ。最初に受けたのが半年前だったかな。だからそろそろ受かりたいところなんだけど、あたし、実戦が苦手で……。ほら、見ての通りあたし魔法使いだからさ、近接戦闘が苦手なんだ。だからペアの人が同じ距離で戦うタイプの人だと、厳しいというか……」


 急に自分語りを始めた魔法使いの少女。

 しかし、ペアとはどういうことだろうか。

 気になるので、聞いてみることにした。


「ペアとは、どういうことですか?」


「ああ、最終試験のことだよ。最後の試験は実戦形式なんだけど、誰かとペアを組むことになるの。だから、あたしみたいな魔法使いが似たような距離で戦うタイプの人と組んじゃうと試験の突破が難しくてねぇ……」


「なるほど……。最後の試験は二人一組で行うんですね」


 これは初耳だった。

 試験前に良い情報を聞けたかもしれない。


「そうそう。だから運要素もあるんだよ~」


 言いつつ、軽くため息をつく魔法使いの少女。


「――っと、まだ自己紹介してなかったね。あたしはエルー・ミュール。魔法使いだよ。あなたは?」


「クロエです」


「クロエちゃんだね。よろしく。――っと、そういえば聞きたかったんだけど、クロエちゃんの目の色って片方赤いけどもしかして……」


「ええ。私は魔族ですよ」


 俺はキッパリと答えた。

 別に隠す必要もないし、それに眼を見れば誰だってわかることだしな。


「そ、そうなんだ。魔族ってほら、帝国だと特によく思われてないから……なんというか、大丈夫? 嫌な目にとかあってない?」


 心配そうにそんなことを聞いてくるエルーさん。

 普通に軽蔑されるかと思ったけど、そうじゃないようだ。


「全然大丈夫です」


 先日冒険者ギルドで因縁つけられたばかりだが、俺の怖~い仲間が追い払ってくれたので特に被害はなかった。


「そ、そっか。よかったよ~。ほら、エルドラって魔族達を工場で奴隷のように働かせているって有名だから。さすがにクロエちゃんみたいな可愛い子にそんなことをさせたりしないよね、うん」


「そ、そうですね……はは……」


 乾いた笑いが漏れた。

 さすがに以前その工場で働いていましたとは言えないな。


『――それでは、冒険者資格取得試験を行います。受験者の方は奥の部屋へお進みください』


 建物内にアナウンスが流れた。

 いよいよ試験が始まる。俺は冒険者を生業にするわけでもないので他の人よりも多少はリラックスして受けれるが、エルーさんはだいぶ緊張しているようだった。


「い、いよいよだね。お互い頑張ろうね!」


「はい。頑張りましょう」


 エルーさんと別れ、部屋の中へ。

 さあ、まずは第一関門の筆記試験だ。

 一応勉強はしてきたから、なんとかなると信じたい。

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