冒険者について
その夜、夕食の席にて。
俺はみんなにこれから行っていくことについて説明した。
簡単に言うと、使徒であるヴェロニカさんに近づくために同じ冒険者になります。そんな感じのことをみんなに話した。
ゼスさんとレベッカさんは自分も冒険者になりたいと言っていた。正直な話、それはアリだと思った。依頼をこなせば報酬は貰えるし、魔物討伐とかの内容だったら腕も磨けて一石二鳥だ。この世界で冒険者の資格を持っておくことはとても有意義だろう。さすが花形の職業と言われているだけのことはある。
ちなみにオレリアさんは普通に賛成してくれた。というか、この人俺が言うことに対してあまり反対意見を言わないのだ。何を言っても大体肯定してくれる聖母のような性格なのである。若干のバブみを感じる。
クロヴィスとヨルムンガンドは言わずもがな。現場にいたし、反対ならとっくにそう言っていることだろう。まあ、ヨルムンガンドにダメだと言われても無視しそうだけど。
てなわけで、夕食後。
俺はクロヴィスが持ってきた冒険者の手引きなるものを読んでいた。
中身には冒険者という職業に就いて事細かに書かれていた。その歴史や成り立ち、存在意義や職業価値など様々だ。
そして、冒険者にはランクがある。ヴェロニカさんのランクはDだ。これは低ランク帯にあたる。依頼の受注制限なんかもあって、どうやら任せられる依頼は難易度の低いものばかりのようだ。もちろん、仕事の内容で報酬も変化するので、難易度が低いということは報酬もそれ相応になる。冒険者の実力によって、依頼内容は変化し報酬も変化する……というのは分かりやすい構図だろう。
ちなみに、最高位のSSSランクの冒険者に対しての依頼は国から直々のものだったりするらしい。個人でも企業でもなく国からの依頼となると報酬もかなりのものだろう。ただ、依頼の難易度はかなり高いようで邪竜のような災厄級の魔物の討伐依頼なんかもこれに含まれる。SSSクラスになるとその中でも特に難しいものになるんだとか。数はかなり少ないみたいだが、どんな依頼内容なのか気になるところだな。
さらにページを読み進めていると、興味深い内容を発見した。
それはクランというグループの存在だ。冒険者たちで徒党を組んで協力し合い依頼をこなしていくらしい。1人で請け負うよりも仲間と受注した方が以来の達成率も上がるだろうし、効率も上がるだろう。理にかなったシステムだ。報酬は山分けだろうけど、ソロでやるよりかは心強いだろうな。
「冒険者達のグループ、クランか……」
そういえば、名簿にそんな項目あったな。
ヴェロニカさんもクランに入っているように記されてた気がするけど……。
となると、ヴェロニカさんにも仲間がいるということか。
「そんなにぼんやりと呟いてどうしたんだ?」
「あ、オレリアさん。まだ部屋に戻ってなかったんですね」
一階のリビングでくつろいでいた俺のところへ、オレリアさんがやってきた。どうやら風呂上がりのようで髪が濡れている。毎日鍛錬しているというのに汗臭さはなく、むしろ女性特有のいい香りがする程だ。
「リビングの灯りがついていたからな。気になって様子を見に来たらキミがいたということさ」
言いつつ、オレリアさんは俺と同じソファに座る。
俺の横で、オレリアさんも本を開いた。最近ハマっていると言っていた小説だろう。
「…………――」
「…………――」
しばらくゆっくりとした時間が流れた。
お互いに読書をし、沈黙も不快じゃない空間。
こうやって気を使わなくていい相手というのは大切な存在だと思うのだ。生前にはそんな人俺にはいなかったから、余計にそう感じる。
一通り冒険者の手引きを読み終えた俺は、伸びをした。
冒険者について、ある程度の理解は得れたと思う。
ただ、それは別の世界からやってきて、書物の知識で手に入れた価値観だ。丁度隣にはこの世界で生きてきたオレリアさんがいることだし、ちょっと聞いてみよう。
「――あの、オレリアさんは冒険者についてどう思いますか?」
「ん? ああ、さっき夕食時に言っていた件か。先程も言ったが、クロエが冒険者になるのなら私は応援するだけだぞ?」
「えっと、すみません。そう言う意味ではなくてですね、冒険者という職業についてオレリアさんはどう考えているのかなって」
「ああ、そういうことか。う~ん、端的に言えば面白い連中かな。自由気ままで奔放、そんなイメージがあるな。それに強いやつもたくさんいる。そういえば昔手合わせした冒険者も、かなりの手練れだった。そいつも気さくでとっつきやすい性格だったっけか。――とまあ、私が考える冒険者像はそんな感じだ。彼らも一枚岩じゃないだろうし、色んなやつがいるだろうから一概にそうとは言えないだろうが」
「自由気ままで面白い……か。なるほど、ありがとうございました。参考にしますね」
今日絡んできたガラの悪い連中も冒険者の中にはいる。ただそれは、客観的に見ればごく少数なのかもしれないな。
「役に立ったのならよかった。――と、もうこんな時間か。あまり遅くならないうちに寝るんだぞ」
そう言って、オレリアさんは俺の頭をひと撫でしてリビングから出ていった。
俺も、本を片して部屋へ戻るとしよう。
明日はエヴリーヌさんが屋敷にやってくる。魔導具とやらで魔力を隠蔽し、無事に冒険者の資格を取得できればいいのだがさてはてどうなることやら。