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進むべき道





「――お疲れ様です、クロエ様」


「受付のお姉さんには少しだけって言ったのに……。はぁ、今回は本当に疲れました……」


 冒険者ギルドの受付嬢に散々な目にあわされ、軽く息が上がる俺。

 正直、ガエル達と模擬戦をした時よりも疲れたかもしれない。


 とまあ、それはさておき、いらぬ邪魔が入ってしまったがこれからどうヴェロニカさんを捜すべきか。と、考えつつも俺はとある予感を感じていたりする。


「あそこで少し休憩しましょう」


 ギルドから出て近くの公園のベンチに腰掛けつつ、俺は一息ついた。


「お気づきかと思いますが――」


 俺の考えを読んだかのようなタイミングでクロヴィスが口を開く。


「先ほどのフードの方。あの方がヴェロニカ様です」


 その口からは、想像通りの言葉が出てきた。

 やはり、俺の勘は間違っていなかったようだ。


「一瞬目が合って、何か驚いたような反応をしていたのでそうかなとは思ったんですがやはり――」


 フードのせいで顔がよく見えなかったので確信はなかったが、予想は当たっていたらしい。


 力が失われていなければ顔を知らなくとも使徒を感じ取れるのだろうが、こうも弱体化していると感知すら難しいようだ。まあ、クロヴィスは声でわかったようだが……。


「フードを被っていたのは吸血鬼ヴァンパイアだからでしょうか? 日の光が苦手とか……」


「それもあるかもしれませんが、一番は顔を見られたくないからでしょうね。先ほどの一幕をみて分かる通り、魔族は人間達によくない扱いをされてきました。全員が全員ああいうタチの悪い人間ではありませんが、堂々と魔族ですと周りに晒しながら冒険者を続けるのは大変なはず。恐らく、ヴェロニカ様はなるべく自分の存在を隠したかったのではないでしょうか」


「……それはなんというか、悔しいですね」


 魔族だから、隠れながら仕事をしないといけないという事実。

 工場のような半分奴隷のような労働環境なら隠す必要もないだろうが、冒険者のような花形な仕事は、やっぱり周りの視線が痛いのだろう。


「似たような境遇の方は他にもいるでしょう。その人たちのためにも、我々は一刻も早く魔族の国を造らなければなりません」


「ですね。ヴェロニカさんを仲間にすることも、その一歩です」


 使徒を集め、力を蓄えるのだ。

 長い道のりになりそうだが、エリーゼさんのためにも頑張らなければ。


「しかし仲間にするとは言ったものの、逃げられちゃいました。さすがに間が悪かったでしょうか?」


「それなのですが、ヴェロニカ様はなんといいますか、あまり素直じゃないと言いますか、少々反抗的な性格と言いますか……。まあ、そんな感じのお方なのでクロエ様を見つけたからと大人しく声をかけてくるタイプではないのです。間が悪かったのもあるでしょうが、普通に声をかけていても逃げられた可能性は高かったかと」


「なるほど……。やはり、エリーゼさんから聞いていた通りの人みたいですね」


「根は良い方なんですが……。意地っ張りなところが玉に瑕でしょうか」


「となると、スムーズには行かない、か……」


 まあ、俺も簡単に仲間に戻ってくれるとは思っていなかった。

 何かきっかけがあれば進展しそうだけど、どうするべきか。


「――それで、具体的にこれからどうするのだ? ヴェロニカとやらを仲間にするのだろう?」


 ヨルムンガンドの問いに、俺は頷いた。

 今まさにそのことを考えているわけだが。


「エルドラにわざわざ来てくれたんです。その気が全くないというわけではないはずですよね。となれば、やはりこちらからアクションを起こすほうがいいと思うんです」


「私もその方が良いかと」


「クロヴィスもそう思いますか。なら、こちらから動くのは確定で後はどうするかですね」


 自然と距離を詰めていくのは至難の業だ。

 陽キャなら簡単に出来るんだろうけど、俺にそんなコミュ力はないのである。


「我にいい考えがあるぞ!」


 と、またもや唐突にそんなことを宣うヨルムンガンドくん。

 すっごく思い付きなことを言いそうだけど、今はヨルムンガンドの意見ですら欲しい状況なので大人しく聞くとしよう。


「はい、ヨルムンガンドくん」


「うむ。ヴェロニカとやらは冒険者をしておるのだろ? なら、クロエも冒険者になんて一緒に戦えばいいのではないか?」


 自信満々に言うヨルムンガンド。

 確かに、ヴェロニカさんは冒険者として生計を立てている。なら、俺も同じ位置に立てば自然と距離は近くなる……か?


「……悪くはない、かも?」


 しかし、冒険者ってそんなに簡単になれるものだろうか。

 この世界の冒険者の仕組みをよく知らないので、何とも判断しづらいな。


「ふむ。冒険者になってヴェロニカ様との接点を増やすというのは悪くない案かもしれません。幸い、冒険者協会の支部がエルドラにもあるので資格もこの街で入手可能です」


「それは僥倖ですね。それに、クロヴィスが前向きに考えているのであれば私的にも安心です」


「有りがたきお言葉……。しかし、問題はクロエ様が武力面において強すぎるということでしょうか。ご存じの通り、冒険者にはランク制度というものが存在します。仮にクロエ様が冒険者になる場合、ランクは恐らく最上級ランクのSSSになるでしょう。無論、その枠組みですらクロエ様には不釣り合いでしょうが――。とまあ、それはさておき、ヴェロニカ様のランクはDですので、活動を共にするためには近いランクでなければなりません」


「なら、資格取得の際に手加減をすればいいのでは?」


「その通りなのですが、魔力測定検査などもあるので力を完全に隠しきるのは少々難しいのです。方法があるとすれば――」


 と、クロヴィスが何かを言いかけた時に、何者かが声をかけてきた。


「――おや、なんだか面白そうな話をしているじゃないか」


 声の主は、先日ガエルと一緒に屋敷にやってきたエヴリーヌさんだった。

 俺の魂を転生させるための禁断魔術を行使してくれた人物である。

 エルドラの魔術師部隊の隊長で魔導兵器開発に携わる科学者でもあるスペックだけで見たらかなりハイスペックな女性だ。


「エヴリーヌさん! どうしてここに?」


「ああ、ちょっと野暮用で街に出ていただけさ。個人的に開発している魔導具の調整で必要な材料があったのでね。その帰り道に偶然君達を発見したんだ。――それで話は戻るんだが、検査で魔力を隠蔽できればいいのかい?」


「ええ。ちょっと事情がありまして、冒険者の資格を取るにあたってランクを低くしたいんです」


「はは、確かにクロエ君が冒険者になろうものならSランク以上は必至だろうからね。いいだろう。丁度私が今作っている魔導具が装備者の魔力を抑えるという代物なんだ。どうだろう、君ほどの魔力を持つ者は早々いないから、私的にも試験がてら試して欲しいのだが。当然、実験に成功したらその魔導具はキミに貸し出すと約束するよ」


「実験ですか。そうですね……測定するだけなら危ないこともなさそうですし、お願いしてもいいですか?」


「ああ、もちろんだとも。それじゃあ私は今から帰ってすぐに最終調整に取り掛かるとしよう。無事に完成したら明日の昼くらいに君たちの屋敷に向かうよ」


「ありがとうございます! あ、でもいいんですか? わざわざ出向いてもらって……」


 魔導具もお願いして、場所もこちらでだなんて厚かましいような気もするがどうだろう。


「気にしないでくれたまえ。私にも利のあることなんだ。ウィンウィンというやつだね」


 はっはっは、と笑いながら軽い調子で言うエヴリーヌさん。

 クルマを使えばそんなに遠い距離でもないし、そこまで気にかける必要はないか。


「では、お言葉に甘えることにしますね」


「うむ。任せたまえ。ではまた明日な」


 そう言って、エヴリーヌさんは手をひらひら振って去っていった。

 しかし、外出時にも白衣を着ているのか。研究者とか科学者ってああいう服装好きなのかな。すっごい目立ちそうだけど。


 ……って、俺も人のこと言えないか。

 今着ている服も、オレリアさん作のそこそこヒラヒラした可愛らしい服だしな……。別に嫌なわけじゃないけども。目立つという点では似ているかもしれない。


「そういえば、クロヴィスは何と言いかけていたんですか?」


「ああ、お気になさらず。エヴリーヌ様と似たような道具を使用しようかと考えていただけですので。効果も恐らくあちらの道具の方が良いでしょうし、私の言おうとしたことはお忘れください」


「あなたがそう言うのでしたら……」


 特に気にすることはないってことかな。

 まあいい。とにかく進むべき道が見えてきた。

 ヴェロニカさんに近づくために頑張ろう。







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