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新たな使徒




 ガエル・ワイズマンが屋敷にやって来てから一週間程が経った。

 この世界に存在する魔物なんかと戦ってみたりして時間を費やしていたが、それもそろそろ飽きてきたところだ。それに、使徒の皆さまも一向に現れる気配がない。そろそろ誰かしらアクションがあってもいいと思うのだけどどうだろう。


「生前みたいに毎日仕事がないというのもそれはそれで暇いんだなぁ……」


 クロヴィスもクロヴィスでなんだか忙しそうだし。

 彼の場合分身体に意識を集中させてたりするから見えないところで忙しいのかもしれないけどいったい何をやっているのやら。情報収集を行っていると言ってはいたけれど何の情報かは聞かされていないんだよな。


 などと自室で考えていたら、ノックの音が聞こえてきた。

 どうやら誰かが来たらしい。ま、この丁寧な叩き方はクロヴィスだろうけど。


「――クロエ様、少々よろしいでしょうか?」


「いいですよ」


「ありがとうございます。では、失礼しますね」


 クロヴィスがいつも通りの執事風の格好で部屋に入ってきた。


「なにかありましたか?」


「ええ。単刀直入に言いますと、使徒の1人を発見いたしました」


「ほ、本当ですか……!?」


 唐突な情報に俺は驚きを隠せない。


「この目で確認しましたので間違いないかと。彼女は今、エルドラにいます。魔神の気配を察知してやってきたのかもしれませんね」


「よ、ようやく2人目の使徒と会えるんですね……」


 しかし、いったい誰なのだろう。

 彼女というからには女性なんだろうが……。


「それで、誰なんです?」


「ヴェロニカ・シュトルンツ様です。種族は吸血鬼ヴァンパイアですね。ただ、普通の吸血鬼ヴァンパイアではありませんが――」


「確か、真祖……でしたっけ。純粋種と呼ばれる吸血鬼ヴァンパイアの頂点たる存在だとか。お話はエリーゼさんから色々と聞いています」


 精神世界で、使徒の1人であるヴェロニカさんのことはもちろん耳にしている。

 真紅色の眼と紫髪が特徴的な少女だと聞いているが、実際にその姿を見たことはない。情報としての人物像が頭の中に入っているだけだ。


「それで、彼女は今何をしているんです?」


「どうやら冒険者として活動しているようですね。ただ、当然のことながら力を失っているので細々とやっているようですが」


「な、なるほど……。魔神の使徒といえども、やはりこの世界では大変なんですね……」


 クロヴィスも俺に近づくことで力を少しだけ取り戻すことが出来たと言っていたしな。それまではあのモーリア大臣にも手を出せなかった程のようだし、転移後の弱体化は相当なものなのだろう。


「現在ヴェロニカ様は、エルドラの冒険者ギルドを拠点に活動しているようです。クロエ様さえよろしければ試しにギルドに行ってみるのもいいかと思いますが――」


「そうですね……。使徒を集めるのは目的の一つですし、その冒険者ギルドとやらに行ってみましょうか」


 居場所までわかっているのなら話は早い。

 ヨルムンガンドが傍にいるので、レティシアさんのことも気にはなるが……近くにいるのならまずはヴェロニカさんの方に接触をはかるとしようか。


「かしこまりました。では、すぐにでも街の方へ向かいましょう。先にクルマの準備しておきますので、用意が出来ましたら屋敷の入り口においでください」


「わかりました。すぐに準備します」


 俺がそう言うと、クロヴィスは一礼して部屋から出ていった。

 ささっと出かける準備をしよう。

 髪が伸びたおかげでそこら辺の手入れに時間がかかるようになったのは正直面倒だが、せっかくの奇麗な身体なので手入れは欠かさずに行っている。というか、雑に扱うのはエリーゼさんに申し訳ないしな。


「――服装良し、髪型よし、顔色も問題なし。色々準備終わりっと」


 支度を整え、俺は部屋から出た。

 屋敷からの移動は専らクルマがメインになりつつある。街から離れているのでこればかりは仕方がない。


 ちなみに、運転できるのはクロヴィスとオレリアさんだけだ。

 前の世界と同じ仕様であれば俺も運転出来ないこともないが、さすがに危ないので遠慮している。それに、基本的にはクロヴィスが担ってくれるからな。俺が運転する機会は早々ないだろう。


 そんなこんなでエントランスまで下りてきたのだが。

 屋敷を出る前に、ヨルムンガンドに掴ってしまった。


「――クロエよ、どこへゆくのだ?」


 と、またもや興味津々に聞いてくるヨルムンガンドくん。

 使徒に会いに行くと言ったら、絶対に一緒に行くって言いそうなんだよな。そして、彼がいると話がややこしくなりそうだから正直なところ屋敷で大人しくしていて欲しい。絶対に来るなとは言わないが――。


 入り口の前で待機していたクロヴィスも、判断は俺に任せるとアイコンタクトを送ってきている。ここのところ、ヨルムンガンドも屋敷にずっと籠っているし出かけたい気持ちは俺もわかるが、どうしたものか。


「ここ最近退屈でたまらんのだ。そろそろ我も共に出かけたいぞ」


「そうですね……。まあ、今回は大丈夫かな。一緒に行きましょうか、ヨルムンガンド」


 と、俺が言うと少年のような笑顔になるヨルムンガンドくん。

 あの伝説の三大竜王とは思えない程の可愛らしさだ。目なんか輝かせちゃって……。ま、ガエルの来訪の時は大人しくしていてもらったし、今回はいいか。


「おお! 一緒に行っていいのか! 嬉しいぞ!」


「はい。でも、大人しくしておいてくださいよ。厄介ごとはごめんですから」


「うむ! 任せておけ!」


 偉そうに返事はするものの、やはり不安である。

 最悪何かあったらクロヴィスがどうにかしてくれるだろう。困ったときのクロヴィス頼みってやつだ。ほんと、優秀な仲間がいてくれて助かる。


「よかったのですか?」


 クロヴィスが耳打ちしてきた。


「ええ。ずっと抑え込んで爆発されても困りますし、それになんとなく今回は彼がいた方が良いような気がしたので」


「なるほど。そういうことでしたら」


 クロヴィスは俺の判断に対して特に気にした様子もなくクルマへと誘導した。

 

 我が家のクルマはクロヴィスが用意した車体が大きめのクルマだ。最大で8人まで乗り込める優れもので、装甲も頑丈ときている。魔力攻撃を弾くコーティングまで施されているんだとか。活用できる日が来るかはわからないが。


 クルマは当然魔導科学技術が用いられているので魔力がないと動かない。

 前の世界の動力であるガソリンと違い、こちらでは魔力が動力だということだな。運転者の魔力があり次第、どこまでも行ける優れものだ。逆を言うと魔力が少なければ走行距離も縮まってしまうらしい。


「ようし、出発だな!」


 ノリノリのヨルムンガンドを横目に俺達はクルマに乗り、屋敷を発った。

 エルドラの街中まではクルマなら30分もあれば着くだろう。



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