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VSカイウス・レイダース




 屋敷の裏手にあるグラウンドに行くと、そこには誰もいなかった。

 さすがはクロヴィスだ。俺達が来る前ににオレリアさんとヨルムンガンドを屋敷内に隔離してくれていたようだ。


「ここがグラウンドです。試合をするには十分な広さだと思いますがどうでしょう」


「申し分ないな。――それと、模擬戦は1対1で頼む」


「わかりました」


 そう言うガエルの願いで、模擬戦は1対1形式で行うことになった。

 魔族サイドには観戦者としてグエンさん達も見に来ていた。俺の後ろで試合を見るようだ。


 ガエルサイドはベレニスさん含め4人。その中で戦うのはベレニスさんを除く3人だ。


「手始めにカイウス、頼んだぞ」


「お任せくださいガエル様。いっちょやったりますよ!」


 カイウスと呼ばれた甲冑男は拳と拳をぶつけ、やる気満々のようだ。


「一応確認ですが、本当に1人ずつでいいんですか? 私はあなた達3人まとめて相手しても大丈夫ですが」


 俺がそう言うと、甲冑男がしゃしゃり出てきた。


「オイオイオイ、凄い自信だなクロエとやら! 俺はカイウス・レイダース。こう見えてもエルドラ一の戦士って言われてるんだぜ?」


 俺の目の前に対峙している男を再度観察する。ガエルが連れてきた従者の一人で、ツンツン頭が特徴的な戦士風の甲冑男だ。大剣を担ぎ、いかにもパワータイプって感じである。まだ若そうだが、何歳くらいだろうか。見たところ20代くらいのようだが。


 だが、なんというかヨルムンガンドやオレリアさんを見た時のような圧を感じない。所詮は街一番を気取っている戦士ってことだろうか。戦ってみないことには、真の実力は判らないだろうけども。


「俺も最前線で戦ってりゃ、お前の実力をこの目で見れたんだがな。ま、そういうわけだから一つお手合わせ願おうか」


「わかりました」


 趣旨がガエルの私情のための試合なので、いまいち乗り気になれないが仕方がない。ベレニスさんにもお願いされたし、まじめに戦うとしよう。


「準備はいいですね?」


 クロヴィスの問いかけに、俺とカイウスは頷いた。


「――それでは、始め!」


 クロヴィスの合図で模擬戦が開始される。

 とりあえず相手の出方を伺うとしよう。

 万が一ということもありうるから、多少は慎重に立ち回った方が良いだろうしな。


「――仕掛けてこないのならこちらから行くぜ!」


 カイウスは大剣に魔力を纏わせた。剣が見る見るうちに凍っていく。

 どうやら氷属性を付与したようだ。ああ見えて、魔法剣士だったらしい。

 そのままの勢いで俺に向かって猛進してくるカイウス。

 だが、動きが直線的すぎる。これなら簡単に迎撃できるな。

 しかしだ。相手はエルドラ一の戦士を謡っている。油断せずに対処するとしよう。


「そぉら!!」


 カイウスの大剣は空を切り、しかし地面を一瞬で凍り付かせた。

 最初からこれが目的だったか。氷のフィールドで相手の動きを制限する魔術だったとは予想外だ。てっきりそのまま大剣で殴ってくる脳筋かと思った。


「氷のフィールドですか……! これでは身動きが――」


「フハハ! これでお前の動きは制限したぜ! 俺は氷の上でも自在に動けるように足元には適応魔術を施しているからな! こんな風に自由自在に動けるんだよ!」


「く……!」


 設置できる魔術の【不可視の茨インビジブル・ソーン】を適当に配置し、俺は滑って動きずらそうな演技をしながら相手の出方を待つ。


 このレベルのフィールド魔術ならば即座に適応できる。足元に地面に吸い付かせるように術式を施せばいい。とは言うが、普通の者ならばすぐには対応できないだろう。カイウスのコレは、厄介な術に違いはないということだ。


「これを避けれるか!」


 カイウスから氷の礫が飛んできた。

 数多の礫は正確に俺の身体に飛翔する。

 身動きの取れない状態では、避けるのは困難だろうが……。

 まあ、避けるまでもないか。


「その程度なら……!」


 俺は魔弾を放ち氷の礫を撃ち落とした。

 だが、カイウスはそこまで想定内だったのか、自身が一気に飛び込んできた。


「さっきのは囮だぜ! 本命は俺自身だ!」


 大剣を振りかぶり、カイウスが目の前にまで迫って来ていた。

 だが、運悪く俺の仕掛けた罠を踏んでしまったらしいカイウスは、見えない茨に掴ってしまった。


「な……、なんだこれは!? 身体が動かない……ッ!?」


 大剣を振りかぶった状態で動きが制止したカイウスは、慌てふためいていた。それもそうだろう。彼自身には俺の魔術は見えていないのだから。


 見えない何かに捕らわれ、恐怖を感じない者はいない。

 カイウスも同様に慄いている様子である。目視できないというのは、本当に怖いものだ。何をされているのか判らないわけだからな。


「クソ……! 上手く魔力も練れない……!」


「引っかかりましたね。それは【不可視の茨インビジブル・ソーン】という魔術です。あらかじめ適当に設置しておいた種をあなたは起動させてしまった」


「い、いつの間にこんなものを……。そんな素振りはなかったはず……!」


「あなたが氷のフィールドを展開したすぐ後ですよ」


 そう言って、俺は普通に歩いてカイウスの目の前にまで向かった。

 氷の上でも通常通り歩けるのだと、普通に歩いて見せた。


「そ、そんな……俺の氷のフィールドを普通に歩いてやがる……。なら、さっきの不自由な動きは演技だったってのか……?」


「ええ。術中にはまっていると思い込ませた方がこういう罠には引っかかりやすいでしょうから。まあ別に、この氷のフィールドを壊してもよかったんですけどね」


 そう言って、俺は氷地に向けて【ラ・エクレール】を放った。

 すると、氷のフィールドは儚くも粉々に砕け散ってしまった。

 やはり、耐久力はそうでもなかったようだ。

 それもそのはず、あんな一瞬で生成した氷のフィールドなのだ。頑丈であるはずもない。


「は、ははは……。いくらでもやりようはあったってわけか。こりゃ規格外の強さだな……。これが魔神の力か。恐れ入ったぜ……」


 カイウスはガックリと項垂れ、負けを認めるのだった。


「勝負ありですね。クロエ様の勝利です」


 一戦目は無事に勝つことが出来た。

 次はあの魔術師風の女性と試合だろうか。

 彼女からは独特なオーラを感じる。

 カイウスよりも厄介そうだ。


 



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