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会談




 応接室のソファに、ガエル・ワイズマンは座っていた。

 ベレニスさんと従者2人は、彼の後ろで控えている。

 従者の1人は、甲冑を身に纏った青髪の青年だ。

 そしてもう1人は、何故か白衣を着た茶髪の女性だった。


「お待たせしました」


 応接室に入り、奥のソファに俺は腰かけた。いわゆる上座的ポジションである。偉さだけで言えば、貴族で領主であるガエルの方が上だろうが、ここは俺達のホームだからしょうがないね。


「……クロエ・ノル・アートルムよ、突然の訪問の非礼は詫びよう。だが、直接会って確かめたいことがあったのだ」


 特に高圧的な態度を取ってくるわけでもなく、ガエル・ワイズマンはそう言った。


 なんとなくだが、初めて会った時よりも態度が小さく見えるのは気のせいだろうか。「オレ様、魔族大嫌い!」って感じの印象なんだけど。


 まあ、ここで気にしても仕方ないか。


「ベレニスさんの手前、無作法に追い払ったりはしませんよ。それで、今更こんなところにまでやって来て確かめたいこととは?」


「その前にまず、礼を言わせて欲しい。そなた達の働きで邪竜達の脅威から我が街は救われた。本当に感謝している」


「…………?」


 なんか素直に頭を下げられたのですが。

 ガエルくん、本当にどうしちゃったのだろうか。

 ちょっと肩透かしを食らった気分である。

 もっとこう、魔族の分際で――とかなんとかいちゃもんつけられるのかと思ってた。


「何を鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしておるのだ。我が感謝することがそんなに意外であったか?」


「い、いえ、てっきりあなたは魔族が嫌いなのかと思ってましたので……。そんなに素直に感謝されるとは思ってなかったんですよ」


「我はエルドラの領主ぞ。街を救ってくれた相手に感謝することは当然のことであろう」


「それはそうかもですけど――」


 なんか圧がないというか。

 ガエルくん、俺を追放した時のような圧がないんだが。

 もしかして、何かあったのだろうか。


「それとセレスタンのことも聞いている。ヤツの愚行を前もって知っておれば我が処罰していたところだったが、その件に関しても迷惑をかけた。まさか、公務は真面目にこなしていたあやつがあのようなことをしておったとはな。臣下の手綱を握れておらんかったのは我の不徳の致すところ。追放の件といい、すまなかったな、クロエよ」


「い、いえ……」


 なんか調子狂うな。

 この期に及んで高圧的に来たら突っぱねてやろうって思ってたけど、なんかそんな気も失せてしまった。


 てかそんなことより今ちゃっかり追放の件もついでに謝罪してきやがったな。いったいどんな心変わりがあったのやら。


「気になったんですが、どこからその情報を知ったんです? 邪竜の件はわかるにしても、モーリア大臣の件は知る由もないと思いますが」


「全てベレニスから聞いたことだ」


「ベレニスさんは魔族ですが、その彼女の言ったことを信用しているんですか?」


「無論だ。ベレニスは我が信頼する者の1人。そして、我が心から信頼している者は、ここに連れてきている3人のみだ」


 そう言って、ガエルは背後を見た。

 1人は言わずもがなメイド魔族のベレニスさん。

 そして仁王立ちしている甲冑の男。

 最後は目の下にクマがある白衣のお姉さん1人という変わった組み合わせである。


 にしても、信頼のおける配下が少ないな。

 ガエルってエルドラの領主だよな?

 あの時だって周りに家臣は大勢いたというのに。


「皆、我と付き合いの長い者達だ。そして、我が祖父と直接関係を持たぬ者達だ」


「祖父、ですか。それと何か関係が?」


「うむ。我が祖父は齢80までエルドラを守ってきた。だが、そのせいで付き合いの長い家の家臣のほとんどが祖父のことを心酔している。今は病気故に床に伏せっているが、我が祖父ダグラス派の者達は未だにあの男を支持しているのだ」


「なんだか随分な言いようですね。実の祖父ですよね? まるで敵対しているかのようじゃないですか」


「そう捉えてもらっても構わん。現当主である我と祖父はある意味で敵対している。正確に言えば祖父自身というよりかはその一派と、だがな。貴族にも派閥というものがあり、色々としがらみがあるのだ」


「一枚岩ではないというわけですか。色々と大変なんですね。――それで、要件というのは?」


 まさか、その内輪もめのイザコザに巻き込む気じゃないだろうな。

 嫌な予感を感じつつも、俺はガエルに問いかける。


「要件は一つ。我らと試合をして欲しい。ヨルムンガンドを打ち倒したその実力が真実であるかを試合で確認したいのだ」


「試合、ですか。何故そのようなことをしたいと?」


「すまんが、完全に私用ゆえ理由は言えぬのだ。愚かな申し出であること十分に承知している。だが、どうか頼めぬか?」


「そうですね…………」


 さて、どうしたものか。

 戦うのは別に構わないが、なんか釈然としないな。

 追放された恨みと、首を絞めやがった恨みは戦ってやり返せば晴らせるだろうけど、それもなんだか大人げないか。


 ここで突っぱねてやってもいいけど、それもなんだかつまらない気がするな。でも、素直に承諾するのも腹立たしいというかなんというかだ。


「――クロエ様。私からもお願いします」


 俺が悩んでいると、ベレニスさんからも頭を下げられてしまった。

 まさか彼女がガエル側でお願いしてくるとは思わなかったので、少々驚いてしまう。


「ま、まあ、ベレニスさんがそう言うのなら……。わかりました。あなた達と試合をしましょう。ですが、もちろん殺傷行為などはなしです。模擬戦という形で戦う。それでいいですか?」


「無論、それで構わない。我が見たいのはそなた達の力だ。剣を交えられればそれでいい」


「わかりました。――ではクロヴィス、準備をお願いします」


 俺は傍に控えていたクロヴィスに声をかけた。

 恐らくその一言だけで、俺の言いたいことを理解してくれたはずだ。

 今、外のグラウンドではオレリアさんとヨルムンガンドが鍛錬しているはず。2人をガエルに会わせるのはよろしくないので、先に行って人払いをして欲しい――という意味を込めた。


「我が主の仰せの通りに」


 いつも通りに一礼して、クロヴィスは応接室から出ていった。

 


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