一方その頃
――クロエ達が戦いを終えた頃。
分身体のクロヴィスとヨルムンガンドは郊外を歩いていた。
「なあ、クロヴィスとやらよ、我らはどこへ向かっているのだ? 本当にクロエの元へ進んでいるのだろうな?」
「ご安心くださいヨルムンガンド様。ちゃんとクロエ様がおられる場所に向かっておりますので」
分身体のクロヴィスは、クロエの命に従い邪竜王ヨルムンガンドを拠点へと連れて行っていた。
エリベルトの一団との交戦時にヨルムンガンドがいれば面倒なことになると察し、クロヴィスは少しばかり遠回りをして時間を稼ぎつつ拠点への道のりをゆっくりと歩いているのである。
「なんだか我、仲間外れにされてる気がするのだが。それにさっき向こうの方で凄い魔力を感じたぞ。クロエのやつ、あそこで戦っていたのではないか?」
「フフ、気のせいでしょう。――それで、話は変わるのですが、レティシア様についてお話を伺ってもよろしいでしょうか? 実は私、彼女と同じく魔神の使徒でして。今どのようにされているのか気になるのですよ」
「おお、貴様も使徒であったか。レティシアはそうだな、世界を回り、ドラゴン達を支配下に置いていっているようだったぞ。三大竜王と呼ばれた我の元へは、最近やってきたがな」
「なるほど。しかし、レティシア様はお力を失っているはず。見ただけで彼女が竜神族だとわかるものなのですか?」
クロヴィスはあえて、把握している内容の質問をした。
いわゆる話題提供である。ヨルムンガンドはどうやら黙っているのが好きではないようなので、機嫌を損ねぬようこうして適当に会話を続けているのだ。
「そうだな。竜種唯一の神性種族ゆえに、そのオーラだけでわかるぞ。我らクラスのドラゴンなら敬意を払うのみで恐怖はない。が……。下位のドラゴン達は違う。潜在的に染みついているのだろうな、レティシアが力の大半を出せずとも、怯えて近づこうともせん」
「なるほど。ちなみに、クロエ様のことは……」
「当然勘付いておったぞ。そもそも、新しい魔神の力を見定めてきて欲しいとレティシアに頼まれたので我がこんなとこにまで出向いたのだからな。ま、クロエにはボコボコにされてしまったがな! クハハハハハ!」
豪快に笑いながら言うヨルムンガンド。
完膚なきまでにやられると逆に清々しい気持ちになるというが、そういうことなのかもしれない。中途半端に負けたりするとどこか不満が残るが、ああも大敗だと笑いすら出るということだろう。ヨルムンガンドも、あの戦いのクロエが本気ではなかったことは判っているようであった。
「だが、安心もしたぞ。我らの頂点に立つ竜神種がかしずく相手なのだ。規格外の強さでなければ納得がいかんからな」
「そうでしょうね。竜王種であるあなた方よりも上の存在である竜神種が首を垂れるのですから、強くあってほしいというお気持ちはとてもよく理解できます。ですが、クロエ様はただ強いだけではありません。あのお方は弱き者の心を知っている。先代の魔神であるエリーゼ様と同様に、弱き者に手を差し伸べる優しさをお持ちなのです」
「クハハハ! 分身体のクセに言うではないか!」
「フフ、ばれていましたか」
ヨルムンガンドに自分が分身体であるということがバレているであろうことは、初めからわかってはいた。なので、今更そういうことを言われてもクロヴィスが動揺することはない。
「ま、我もクロエのことは気に入った。しばらくは我も貴様らと共にいてやろう。――とは言ったが、どちらにせよレティシアが使徒としてクロエの元に戻れば同じことではあるがな!」
トントンとクロヴィスの肩を叩くヨルムンガンド。
それほど長く一緒にいたわけでもないのに、やたらと親し気である。どうやら友好的な性格が、ヨルムンガンドの素であろうことをクロヴィスは理解しつつあった。
「レティシア様の元にヨルムンガンド様がついているということは、他の竜王達ももしや……」
「うむ。やつらもレティシアの下についておるぞ。当然、レティシアがクロエの使徒に戻るというのなら、我だけでなくもれなく他の三大竜王もおまけでついてくるというわけだな。ハッハッハ!」
「かの伝説の竜王達がおまけでですか……」
畏れ多くも、頼もしい存在だ。
だが、戦力は多ければ多い程良い。この魔族を忌み嫌う帝国のような武力国家に対して牽制にもなる。おいそれと手出しできない戦力を有すれば、魔族の国を築くことも容易になるだろう。それになにより、赤の魔神がこの世界にいる可能性がある内は、出来うる備えは全てやっておきたいとクロヴィスは考えていた。
「ま、しばらくは厄介になるつもりだからよろしく頼むぞ、クロヴィスとやら!」
「ええ。こちらこそよろしくお願いいたします」
そうして、分身体クロヴィスはヨルムンガンドとの仲を深めていった。