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とりあえずの一段落




 意識を失っているオレリアさんに、解放の術式を施した。

 魔法陣が浮かび上がり、光の粒子がオレリアさんを包み込む。

 数秒後。術の行使が完了した。


「ふぅ……」


 俺は安堵のため息をついた。

 少しだけ心配だったが、問題なさそうだ。


「ちゃんと効いたみたいでよかった」


 髪色は紅蓮に染まり、歪だった角も奇麗に生えている。

 でも、逆に言えば変化はそれくらいだった。身体の隅々まで確認したわけではないので、絶対とは言い切れないが、どちらにせよ、もう普通のヒトとしては生きていけないだろう。


「もう大丈夫なのか?」


 ゼスさんが心配そうに声をかけてきた。

 その後ろにはレベッカさんとグエンさんもいる。

 そして、いつの間にかクロヴィスも横にいた。


「はい。恐らくこれで安定すると思います。最初は怒りが引き金となって不完全に覚醒するパターンもあるのかなって思ったんですけど、オレリアさんは特別だったみたいですね」


「その通りでございます、クロエ様。黒炎ノ王スルトの血は普通の魔族のモノとは違い神性種ですから、何かのきっかけで暴走するというのはありうる話でした。しかしまあ、今回は混血という珍しいパターンではありましたが」


「そうですね。しかしやっぱり気になるのは、オレリアさんの出生です。私はエリーゼさんからの口伝えでしか聞いていないので、同じ使徒であるクロヴィスに聞きたいんですけど……やはり、そういうことですか?」


 俺が聞くと、クロヴィスは複雑な表情で頷いた。


「まあ、十中八九クロエ様が考えている通りかと。使徒の1人であり、黒炎ノ王スルトの一族でもあるテオドール様の子でしょう。なんといいますか、あの方は自由気ままに生きていらっしゃる方なので、こっちの世界で子供を成していてもなんら不思議ではないのです……」


「聞いていた通りの方みたいですね」


 魔界にいた時も、エリーゼさんの元から離れて数年間放浪していたこともあったのだとか。さすがに子供を作ってきたなんてことは聞かなかったが。もしかしたらオレリアさん以外にも隠し子とかいるのかもしれないけども。


「この世界に来た魔族は力を大半失ってるから、自分の血も薄まって混ざらないとでも思ってたのかしらね?」


「いえ、恐らくあの方は何も考えていなかっただけだと思いますよ。子を成したからといって責任を取るような方でもありませんからね」


「うわ、サイテー……」


 クロヴィスの言葉に、レベッカさんはドン引きしていた。

 まあ、それだけ聞くとただのゲス野郎にしか聞こえないな。

 悪い人ではないって、エリーゼさんは言っていたので、こればっかりは実際に会って確かめてみないことには何とも言えないな。


「使徒にも色んなやつがいるんだなぁ。クロヴィスの旦那は真面目が服着て歩いてるって感じなのによ。そんな横着な野郎もいるってのは意外だったぜ」


「そもそも使徒って何人いるのクロっち?」


「今は7人です。その中の1人がクロヴィスですね」


「おお、選ばれし7人の中にクロヴィスの旦那が。でも、悪魔族っていや特段珍しい種でもねえよな。悪鬼オーガの俺が言えたことでもないんだけどよ」


「フフ、数が多いが故に悪魔にも色々あるんですよ。とはいえ、確かに他の使徒の方たちと比べると、種族としては見劣りしてしまいますね」


 特に気にした様子は無く、クロヴィスは受け答えした。

 悪魔族は魔界でも数が多い種族だったらしい。先代の黒の魔神であるエリーゼさんが、何を基準に使徒を選定してきたのかは判らないが、クロヴィスからは何か特別なものを感じた。転生の術をエリーゼさんが授けていたのもクロヴィスだったし、その後を任されていたのもクロヴィスだった。他の使徒よりも固い信頼関係で結ばれていたであろうことは、今までの話を聞いた感じ想像に難くない。


「でもよ、種の力に頼らずに使徒になったんだからやっぱ旦那はすげーよな! なぁ、レベッカ!」


「そうね。クロヴィスさんは何でもできるし強いしクロっち大好きだし使徒として言うことなしよね!」


 二人にそう言われ、クロヴィスは少しだけ驚いたような顔をした。

 すぐに破顔して、クロヴィスは、


「ありがとうございます。お二人はクロエ様が魔神として覚醒する前からの仲。これからも頼りにさせていただきますね」


「おう、任せときな!」


「ええ、望むところよ!」


 なんだか嬉しそうなゼスさんとレベッカさんだ。

 そこに、ひょっこりとグエンさんが割って入ってきた。


「コホン。ワシもおりますぞ」


「もちろん、グエン殿にも頼らせていただきますよ」


「ほっほ、お任せくだされ。とはいっても、ワシの役目はこやつらの面倒を見ることになりそうですがのぅ」


「それも大切な役割だと私は思いますよ。これから仲間が増えていけば、そういった者達をまとめることが出来る人材は貴重ですからね」


 グエンさんはいいまとめ役になりそうだというのは、俺もなんとなく思っていたことだ。ほんと、クロヴィスは人の適性を活かすのが上手いな。生前でこういう人の元で働きたかったよ。


「では、ひとまず屋敷に戻りましょうか。ここにいたら騒ぎを嗅ぎ付けたエルドラの兵士達とまた面倒なことになりそうですからね」


 結構派手にやってしまったから、エルドラの兵がここに来るのも時間の問題だろう。疲れた身体でまた一悶着やるのはさすがにダルすぎる。


 それに、オレリアさんはまだ気を失っている。

 苦しそうな感じではないく、呼吸も正常だ。急に覚醒したショックで意識が戻っていないだけだろうから、目が覚めるまで休ませてあげたほうがいい。


「それじゃあ、アタシはちょっくら辺りを見回ってくるわね。すぐに合流するわ」


 言って、レベッカさんは空へ飛んでいった。

 さすが、判断が早い。


「んじゃ、俺はオレリアを運ぶとするか」


 よいしょっと言いながら、ゼスさんはオレリアさんを抱え上げた。

 こちらもさすがのパワーだ。先ほどの一時離脱の時もそうだったが、女性一人くらいなら軽々と持ち上げれるようだ。


「それじゃあ、私達は行きましょう。クロヴィス、ベレニスさんを頼みます」


「承知いたしました」


 教会の中に待機しているクロヴィスの本体に、そう告げた。ちなみに、目の前にいるのは分身体である。


 とりあえずの一段落だ。邪竜の脅威も消えたし、オレリアさんも助けることが出来た。これからのことは、屋敷に帰ってから考えるとしよう。


 ……ん、いやまてよ?

 何か忘れているような……。


「ま、いいか」


 そうして、一行は屋敷へと帰るのだった。


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