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開戦の兆し




 近くで見上げると、ヨルムンガンドは異様な威圧感を放っていた。

 そこら辺の兵士では、手出しできぬような圧倒的なオーラ。戦うことすらも憚れるような……他者を怯ませる存在感を、目の前のドラゴンは撒き散らしていた。


『貴様がさっきの雷の主だな?』


「そうです。さっきの攻撃は、あなたにあてるつもりはありませんでした。それに私自身、あなたに敵意はありません。ただ、これ以上街を襲うというのなら見過ごせませんが――」


 邪竜のボスを俺が倒す、または撃退するというシナリオは、クロヴィスが思い描いていたものだ。

 図らずとも俺が邪竜王と対峙するという状況が出来てしまった。計画通りと言えば計画通りなのかもしれないが、今はオレリアさんのこともある。帝国に恩を売るとか、そんなことよりも彼女のことを守る方が今の俺には大切なのだ。


『クハハ、言いよる。――だが、我は街を襲うことになど興味はない。初めから見極めるためにここに来たのだ。貴様の……魔神という存在の力をな』


「――!?」


 まさか、ヨルムンガンドは俺のことを知っているのか?

 わざわざ竜王であるヨルムンガンドが出張ってきたのは、俺と戦うため……?


『何を驚いておる。理由もなしにこのような場所にわざわざ我が赴くはずなかろう? クハハハ、久方ぶりに戦いを楽しめようというもの。血がたぎるぞ、小娘よ』


 楽しそうに言うヨルムンガンド。

 しかし、邪竜の襲撃は俺が魔神としてこの世界に転生する前から行われていたはずだ。ヨルムンガンドの出現は今回が初めてにしても、何故エルドラが狙われたのだろうか。やはり、ベレニスさんが言っていたように、レティシアさんが原因なのかもしれない。


「……あなたのここにいる理由が私だということはわかりました。ですが、どうして邪竜達はエルドラを攻撃したのですか? あなた方邪竜の襲撃は、何度も行われていると聞いていますが」


『ああ、我の配下たちのことか。それは怯えていてからだな。竜神族という我らの上位存在の、それも長が現れてな。驚いて住処の渓谷を逃げ出してしまったのだ。その結果、人間の街を襲う形になってしまった。あのお方も我らを脅かすつもりはないと言っておったが、まあ下位の竜種ならば委縮しても仕方なかろう』


「竜神族の長……やっぱりレティシアさんがあなた達の住処に訪れたんですね」


『その通りだ。しかし彼女の名を知るということは、やはり貴様が竜神族の上に立つ存在で間違いないようだな。クハハハハ! 我の勘は当たっておったようだ!』


「…………」


 クロヴィスとベレニスさんの予想は的中していたらしい。

 どうやら邪竜襲撃の要因を作ったのは、間接的にだが使徒の仕業ということらしいな。

 なら、俺にもこの戦いを治める理由があるってことか。


「レベッカさん」


 俺は隣で縮こまっているレベッカさんに声をかけた。

 ヨルムンガンドに怯えているが、俺が横にいる手前逃げ出せずにいたようだ。


「クロヴィス達と合流してください。ここは私が引き受けます」


「で、でも1人でクロっちは大丈夫なの?」


「はい。私は大丈夫ですよ」


 レベッカさんが罪悪感を感じなくていいように、俺は笑顔でそう言った。

 相手は普通の敵じゃない。巻き込まれたらレベッカさんだってタダじゃすまないだろう。なら、この場から離れてもらった方が安心だ。


「ごめんね……! 何かあればすぐに迎えに来るから――!」


 そう言って、レベッカさんはクロヴィス達のところへと飛び去った。

 ヨルムンガンドも、そんな彼女を襲ったりはしなかった。

 目の前の邪竜王の目的が俺ならば、さすがに無駄な攻撃はしないか。


「お待たせしました」


『全然構わん。貴様がやる気になってくれて我も嬉しいぞ。だが――』


 ヨルムンガンドは肺に空気を詰め込み、そして一気に吐き出した。

 邪竜王の咆哮だ。俺はとっさにシールドを展開し咆哮による風圧を防いだ。


「うわあああぁぁぁ!!」


「ぐ……! 咆哮だけでこの威力とは……!」


 背後にいた帝国兵たちは吹き飛ばされていった。

 やはり、尋常ならざる相手だ。気を引き締めてかからなければ足元をすくわれかねない。


『近くに人間がおってはやりにくかろう。これで辺りに人はおらぬ。思う存分我と戦うがよいぞ』


「……お心遣いに感謝します」


 俺は息を大きく吐いた。

 こういう時は、ゆっくりと深呼吸するのがいい。落ち着ける。

 相手は未知の敵。邪竜王ヨルムンガンド。

 彼に恨みつらみはないが、俺もここでやられるわけにはいかない。


『いつでもかかってくるがよい』


 さすがの余裕だ。

 この世界で、ドラゴンの王として君臨している存在の強さ、確かめさせてもらおう。


「では、行きます――」


 魔力の刃を生成し、俺はヨルムンガンドの懐に飛び込んだ。



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