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救出劇




 弱ったオレリアさんと、ヨルムンガンドの対峙はまだ続いていた。

 だが、明らかに勝負になっておらず、ヨルムンガンドが向かってくるオレリアさんを払いのけているだけでまともな戦闘にすらなっていなかった。申し訳程度の魔導兵器の攻撃も、ヨルムンガンドの魔力シールドに防がれ続けている。


「そろそろですか」


 そう言うクロヴィスは、上空に向け小さな魔力弾を打ち上げた。

 その弾は上空で小さく弾けた。レベッカさんに位置を知らせるためのもののようだ。


「――見つけた! クロっちー!!」


「レベッカさん!」


 上空からレベッカさんがこちらに向けて急降下してくる。

 だが、邪竜が制圧している上空ゆえに、レベッカさんは敵の目を引いてしまった。その結果。数頭の邪竜がレベッカさんの方へ襲い掛かってくる。


「させません――!」


 俺は咄嗟に、【ラ・エクレール】を放った。

 狙いは完璧で、三連撃で邪竜を倒すことに成功した。


「あ、危なかった……。ありがとう、クロっち!」


「いえ、レベッカさんが無事で何よりです」


 地上に下りてきたレベッカさんに傷はない。

 何事もなくここまでたどり着けたようだ。


「あれ、見慣れない人がいるわね?」


「彼女はベレニスさんです。クロヴィスの部下みたいな方ですね」


「メイド服の美少女か……。ん? てことはベレニスも悪魔ってこと?」


「そうなりますね。まだ力の解放はしてませんが……」


 今のベレニスさんは目が赤いだけの魔族だ。

 見た目も、人間と何ら変わらない。

 しかし、潜在的に長寿なので、ずっと若いままワイズマン家に仕えてきた。

 それも魔神復活のためだと思うと、なんだか申し訳なく思う。

 クロヴィスは気にしなくていいと言ってくれはしたけれど。


「ベレニスです。よろしくお願いしますね、レベッカ様」


「よろしくね。そうだ、ベレニスって呼んでいいかしら」


「ええ、構いませんよ」


「ありがとう! これからよろしくね、ベレニス!」


 レベッカさんはベレニスさんに抱き着いた。

 ベレニスさんはキョトンとしていたが、特別嫌でもなさそうだ。

 レベッカさんも女性の仲間が出来て嬉しいんだろうな。周りはクロヴィスとかゼスさんとかグエンさんで男ばっかりだったし。唯一の性別女の俺は魔神だし。てか、俺は中身男だからレベッカさん以外実質女0人だったのか。


「っと、そうだった。スキンシップ中に申し訳ないんですけど、早速いいですか?」


 俺がレベッカさんをここに呼んだ理由。それは、ヨルムンガンドと戦っているオレリアさんをここまで運んできて欲しかったからだ。地上から行くのは、戦場の真っただ中を突っ切ることになるため避けたい。空も邪竜達が蠢いているので簡単ではないが、そこはこちらでフォローすればいいだけの話だからな。


「そうだったわね。クロっち、アタシの役目っていうのは?」


「レベッカさん、あそこで戦っている女性が見えますか?」


「あのヨルムンガンドと一騎打ち……している女の人? もしかして彼女が剣聖オレリアってこと?」


「その通りです。レベッカさんには空から彼女を救って欲しいんです。そして私の元に連れてきてもらえればオレリアさんの毒を解毒できます」


「解毒ってクロっちが!? 薬草もないのにどうやって……」


「それはまあ、魔神の力ってことで……。とにかく時間がありません。ヨルムンガンドもいつまで戯れを続けるか不明ですから。上空からの横やりは私がなんとかします。レベッカさんは気にせずオレリアさんを連れてきてください。ああそれと――」


 俺は懐から小さな瓶を取り出した。


「この中には催眠の粉が入っています。今の弱ったオレリアさんなら、これを吸っただけで眠ってくれるはずです」


 エリーゼさんの知識と知恵を借り、創造魔術クリエイトで先ほど作っておいたのだ。

 効果時間も効力も弱いが、弱った相手を軽く眠らせればいい今の状況には持って来いと言える。


「ということは、あの人に近づいてこれを振りかけて、眠ったところをかっさらってくればいいわけね。わかった、やってみるわ!」


「お願いします。ヨルムンガンドの気もこちらで逸らしますので、気にせず突っ込んできてください」


「了解! クロっちが後ろから守ってくれるってのは、心強いわね!」


 レベッカさんは俺から瓶を受け取り、丘上から飛び立った。

 すぐさま俺もカバーの態勢に入る。

 遠距離まで高弾速で届く魔術はやはり【ラ・エクレール】だろう。

 使いやすいし連発も可能で威力も申し分ない。エリーゼさんが愛用していたというのも頷けるというものだ。


 戦場の上空を突き進むレベッカさん。

 当然、そんなレベッカさんの姿は邪竜達の目に入る。

 襲い掛かる邪竜達に向け、【ラ・エクレール】を放つ。

 着弾の速いこの魔術が活きる場面だ。すぐにレベッカさんのフォローが出来る。


 そうやって順調にレベッカさんはオレリアさんの元へと進んでいった。

 しかし、直前で問題が起こった。魔導シールドのようなものが、オレリアさんとヨルムンガンドがいる一帯をドーム状に包み込んだのだ。あれではレベッカさんがオレリアさんの元にたどり着けない。


「あれは、魔導シールド……? いや、人為的な結界か……?」


 形状は似ているが、本質は違う。

 本来、魔導シールドは何個もの魔導装置を用いて発生させるフィールドだ。だが、この戦場にそんなものを用意している暇はないはず。ならばどうやってあの密度のシールドを展開しているのか……。


「クロエ様。分身体が何やら気になる一団を見つけたようです」


 と、クロヴィスが声をかけてきた。


「服装からして、どうやらエルドラ領が誇るワイズマン家お抱えの精鋭魔術師団の部隊のようでございます。恐らく彼らがあのドーム状の結界を展開しているのではないかと」


「魔術師団が……? このタイミングで、どうして……」


 それに、何故あそこにバリアを展開する必要があるのだ。

 あれでは援護射撃は届かず、オレリアさんがヨルムンガンドにやられてしまうだけではないか。ヨルムンガンドを逃がさぬようにしたいというのなら理解できるが、あそこにいるのは弱ったオレリアさんだけだ。


「いや、違う。元々それが狙いですか……っ」


 ワイズマン家も、あのエリベルト・クレスターニとグルだってことか。

 通りで精鋭のはずの魔術師団が今の今まで姿を見せなかったはずだ。

 両家が手を組んでいて、このタイミングを待っていたというのなら、辻褄は合う。


 しかし、そこまでして剣聖の名を欲するのか。

 いったいその称号にどれだけの価値があるというんだ。


「くだらない……」


 俺は、ぽつりと言葉をこぼしていた。

 強大な敵を前にして、自分たちのことを優先して動こうとしている帝国の人間達。そんな中、民を守るために弱った体に鞭打って懸命に戦っている人がいる。どちらが悪か、俺の目から見てもハッキリしている。


 俺は無言で、【ラ・エクレール】をドーム状の結界に向け放った。

 しかし、俺の魔術はシールドに弾かれてしまう。

 それもそうだ。ヨルムンガンドをあそこから逃がさないように作られたのなら、強度もかなりのものだろう。これくらいの攻撃では破壊できないのはしょうがない。


「クロエ様の魔術が弾かれた……? なんという耐久性能……」


 ベレニスさんが言葉を漏らす。

 邪竜さえ一撃で葬っていた攻撃が通じないとなると、驚くのも無理はない。


「クロエ様、私の分身体に結界を作っている者達の排除に行かせてもよろしいでしょうか? 大本を叩けばあの結界は消えるはずです」


「……いえ、必要ありません」


 あまり目立ちたくなかったが仕方ない。

 こう見えて俺はちょっぴり怒っている。

 憂さ晴らしがしたい、というわけでもないが――。

 いい的があることだし、もう一つだけ威力の段階を上げさせてもらうとしよう。


「【ゾラ・エクレール】――!」


 【ラ・エクレール】の上位魔術である【ゾラ・エクレール】をドーム状のシールドに放つ。轟音を響かせ、威力が増した黒雷が結界にぶつかった。


 俺は結界が粉砕するまで、魔術を放ち続ける。

 まだ上の威力の術式もあるが、そこまではさすがに必要ないだろう。

 しばらく黒雷がシールドにぶつかり続け、そして――


 ――パリィン!


 小気味よい音をたてドーム状の結界は崩れ落ちた。

 その直後、レベッカさんがすぐさまオレリアさんに向かって催眠の粉を振りかけた。邪魔が入らぬよう、俺は再度【ラ・エクレール】をヨルムンガンドが立っている付近に放つ。その一撃で、ヨルムンガンドはのけ反った。牽制としては十分な威力だ。


 すぐさまレベッカさんはオレリアさんを抱えてこちらに戻ってきた。

 そして、レベッカさんは眠っているオレリアさんを地面に横にした。


「本当にすぐ寝ちゃったわ。便利な粉ね~」


「ちゃんときいてよかったです。すぐに解毒しますね」


 オレリアさんの身体に、手をあてる。

 【第三の眼サード・アイ】から得た毒の成分を分解させる治癒魔法をオレリアさんに施した。すると、みるみるうちにオレリアさんの顔色が良くなってくる。どうやらちゃんと効いているようで一安心だ。


「よし、これでもう大丈夫なはず……」


 オレリアさんは規則正しい寝息をたてていた。顔色も良い。

 オレリアさんが無事である安堵から、俺は、ふぅ、と一息ついた。

 だが、問題はまだ解決していない。ヨルムンガンドは健在だし、エリベルト達の動向も警戒しなければならないだろう。


 それに――


「――オイ! 剣聖オレリアが消えたぞ! どこに行った!?」


「羽根の生えた魔族が攫っていったぞ!」


「なんだって!? どこのどいつだ……!?」


「いやそれよりもあの黒い雷はどこから放たれたんだ……? ヨルムンガンドがのけ反る程の威力、いったい何者が放った……!?」


 案の定、戦場は阿鼻叫喚になっていた。

 民を守るのが、軍人の役目じゃないのか。目の前の敵ではなく、オレリアさんの行方を気にしている。魔導兵器があるからと、油断し過ぎだ。


『クハハハ! そうか、そういうことか! 強き者とはそなたのことであったか! まさか貴様のような小娘がとはな!』


 ヨルムンガンドは笑っていた。

 そして、明らかに俺の方を見ていた。

 さすがに派手にやり過ぎたか。ここの位置までばれてしまっている。


「仕方ありませんね。皆さんを巻き込むわけにはいかないので、少し行ってきます」


「承知いたしました。では私はこちらで――」


「ええ。クロヴィスはみんなを守ってください。ベレニスさんはまだ戦えませんし、オレリアさんは眠っていますからね。エリベルト達にオレリアさんがいることがばれないよう、どこかに避難してもらえると助かります」


「承知いたしました。どこか隠れられる場所で本体と合流するように致しましょう」


 そう言って、クロヴィスは穏やかな顔で眠っているオレリアさんを抱えた。


「ベレニスさんもクロヴィスと行動を共にしてください。それと申し訳ないんですけど、レベッカさんは私と一緒に来てもらえますか?」


「もちろんいいわよ! どこにだって連れて行ってあげるわ!」


「ありがとうございます。では――」


 そして、俺はレベッカさんと共にヨルムンガンドの元へ向かうのだった。

 



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