動き出す仲間
邪竜達が皆、邪竜王ヨルムンガンドの元へ向かっていることをクロヴィスは冷静に分析していた。
屋敷の方も、戦闘は落ち着いてきており一段落ついたところだ。
これからは最前線に邪竜達も集まっていくことだろう。
「屋敷の方へ侵攻してくる邪竜はほとんどいなくなりましたね。ここの守りはもう問題はないでしょう。となれば――」
クロヴィスは屋敷の上空で見張らせていたレベッカを呼び戻した。
同時に、グエンとゼスも屋敷の中に戻ってくる
「どうやら邪竜達は王の元へ向かったようですな。クロヴィス様、クロエ様はご無事でしょうか……」
心配そうにグエンは問いかける。
「ええ、クロエ様は無事です。しかし、少々厄介なことになっていまして――」
クロヴィスは現状を3人に説明した。
彼らはずっと外で戦っていたので、エリベルトの陰謀や剣聖の現状などを知らない。クロエが何をしようとしているのか、彼らの耳に入れておいた方が後々スムーズに物事が運ぶだろう。そう思ったから、クロヴィスは彼らに現状を説明することにした。
「――ということです」
「つーことは、クロ助はその剣聖オレリアってやつを助けようとしてんのか。にしてもそのエリベルトとかいうヤツは気に入らねえな。陰でこそこそ画策するなんて男がすることじゃねぇ。俺が一発ぶん殴ってやりたいくらいだぜ」
「やめときなさいよバカ。一応帝国では強い人間って話じゃない。アンタじゃ返り討ちにあうかもしれないでしょ」
「は! セコい手使う卑怯なやつが、武芸に秀でているとは思えないけどな」
ゼスは納得いかなさそうに言った。
だが、その気持ちはクロヴィスもわからないでもなかった。実力があるのなら正面からぶつかればいいだけだ。それをしなかったのは単に自信がなかったのか、それとも他に何らかの理由があるのか。さすがのクロヴィスでも、人の心までは読めない。
「レベッカ様はクロエ様の元へ急ぎ向かってください。ヨルムンガンドが向かった先に飛んでいってもらえれば最前線につくはずです。正確な場所は上空のレベッカ様にもわかるよう、私が目印を出しますので」
「わかったわ。待っててねクロっち――!」
そう言って、レベッカは屋敷の窓から外へ飛んで出ていった。
そしてやはりというべきか、ゼスは不満そうにクロヴィスを見ていた。
「ちぇ、レベッカのやつはいいよな空を飛べてよ。俺にも翼が生えてたらなぁ」
「気持ちはわかるがのぅゼス。お主にはお主の良いところがあるじゃろうて。そう悲観するものではないぞ」
「あー、まあ……じーさんの言う通りだな。せっかくクロ助に本来の姿に戻してもらったんだ。ケチつけてたら罰が当たるってもんだな」
「フフ、ですがゼス様。すぐにでもクロエ様の元へ向かいたいというお気持ちは私も痛いほどわかりますよ」
「え、いやまあ、それはそうなんだけどよ……そういう意味で言ったんじゃなかったような……」
ゼスは首を傾げていた。
だが、使徒であるクロヴィスにはわかる。主であるクロエが物事の全てにおいて優先されることは当然であることが。それは使徒でなくとも、魔神の配下ならば同じ考えだと信じて疑っていない。
「ときにクロヴィス様。これから我らはどういたしましょう?」
「そうですね。万が一のために私たちもクロエ様の元へ向かうのがよいかと」
「しかし、そうすると屋敷の防衛は誰が……」
「その点はご心配なく。私の分身体を置いていきます。ヨルムンガンドが攻めにでも来ない限り問題はないでしょう。邪竜程度ならば、分身体でも片づけられますので」
「なるほど、それは心強いですな。では、我らも向かうと致しましょうぞ」
「ええ。道案内は私が」
先に出ていったレベッカを追う形で、クロヴィスとその一行も最前線へ向かうことになった。
クロヴィスは魔力を多めに使った分身体を生成し、屋敷の防衛にあたらせた。これでも、邪竜の数体くらいが迫ってこようが難なく迎撃できるレベルの分身体だ。
「クロ助、待ってろよ――!」
そうして、魔神の一味は主の元へ向かうのだった。