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クロヴィスは心配性




 魔神の使徒であるクロヴィスは、邪竜襲撃の知らせを受け、自身の分身を偵察へ向かわせていた。屋敷に迫りくる邪竜の侵攻は、グエン達に任せている状況だ。もし耐えられなくなったら自分を呼ぶように彼には指示は出している。


「グエン殿が指揮してくれているので、屋敷の防衛は問題ないですね……。クロエ様の方も、こっそりベレニスを行かせているので大丈夫なはず。ならば――」


 戦線の状況の情報が、今は必要だ。

 クロヴィスは数十体の分身を走らせ、情報収集にあたらせていた。

 クロエとの模擬戦の時には分身を5体しか出せなかった。だがそれは、出さなかったのではなく、出せなかったのだ。分身には本体の意識を繋げている。魔神程の格上との戦闘においては、5体までが限界であった。それ以上の分身を生成していれば、制御がおぼつかなくなりすぐに消し去られていただろう。


「――っと、剣聖オレリアを発見しましたか」


 分身の一体が、全線で剣を振るう武人を捉えた。

 近くにいる数体を、剣聖がいる前線へと赴かせる。

 剣聖は大勢の兵士と共に、邪竜と戦っているようだ。

 しかし、聞いていた情報よりもその剣が鈍く感じた。


「剣聖の顔色が悪い……? 体調でも崩しているのでしょうか」


 聞いていた情報よりも、剣聖オレリアの武による圧がない。

 そのせいか、周りの兵士達も動きがぎこちなく感じる。


「帝国の七武人がこの程度のはずありませんね。もう少し様子を見てみましょうか」


 クロヴィスは物陰などから分身を通して戦場を視認する。

 しかし、剣聖の部隊は統率が取れていない。これが大国であるギルンブルク帝国の部隊の動きだろうか。クロヴィスにはそうは思えなかった。 


「……これは何か裏がありそうです。ベレニスの報告を待ってからでも遅くはないかもしれませんね」


 前々から、ワイズマン家では何やら怪しい動きが見て取れた。

 その様子をベレニスからの報告である程度把握していたクロヴィスは、今回の邪竜防衛戦に何らかの関係があると感じ始めていた。


「クロヴィスの旦那――! ちょっと外に来てくれ!」


 慌ただしい様子のゼスが、屋敷内にいたクロヴィスを呼ぶ。


「何かあったのですか?」


「いいから早く! あいつはやばいやつかも知れねえぞ!」


「……わかりました。行きましょう」


 ゼスに連れられ、クロヴィスは屋敷の外に出た。

 すると、少し離れた上空にひと際大きな邪竜が飛んでいるのを確認できた。


「クロヴィス様。あの巨竜はもしや……」


 と、クロヴィスに声をかけてきたのはグエンだ。

 邪竜との戦闘は落ち着いているのか、皆、矛は納めている。

 先程まで戦っていたレベッカも、空を見上げていた。


「あれは……」


 明らかに雑魚ではないドラゴンが、エルドラ領の都市部に向かっている。

 あのまま行けば、剣聖達が戦っている前線へとたどり着くのもすぐだろう。


「恐らくは邪竜たちの親玉ですね。ちなみにグエン殿はこの世界のドラゴンの伝説をご存じですか?」


「ドラゴンの伝説と言うと、あの三大竜王のことですかな?」


「ええ。この世界にはドラゴンたちを統べる竜王がいる。恐らくあれは、その一頭である邪竜王ヨルムンガンドです」


「な……!? あの伝説の竜王がこの邪竜たちを率いていると!? し、しかし伝承では三大竜王は人に干渉することはないと記されておりました……。何故人里まで下りて侵攻をしておるのでしょうか……」


「やんごとなきことが竜の里で起きたのか、あるいは人を襲わなければならない理由があるのか……。どちらにせよ、相手があのヨルムンガンドでは今の派遣されただけの帝国軍の戦力だと撃退は厳しいかもしれませんね」


 クロヴィスは手を顎に当て思考する。

 下級の邪竜たちだけなら、剣聖の部隊で片が付くと考えていた。

 だが、あの三大竜王の一角が出現したとなると、話は変わってくる。

 剣聖でも敵わない相手なのか、それとも撃退出来る程度なのか。

 まずは、この世界の竜種の頂点がどれ程の力を有しているのか、それを確認しなければならない。


「クロっち大丈夫かしら……。1人で市街地まで行ってたわよね……」


「クロ助なら大丈夫じゃねえか? レベッカだって模擬戦で体感しただろ。あれだけ強いんだぜ?」


「ゼス様のおっしゃる通りでございます。クロエ様なら心配はないでしょう」


 言いつつも、クロヴィスは分身に必死にクロエを捜させていた。

 大丈夫だとわかっていても、クロヴィスにとってクロエは大切な主。心配なのものは心配なのである。


「ワシらはどうするべきじゃろうか……。屋敷の防衛は必要じゃろうし、かといってクロエ様をお一人にするわけにも……」


「その点はご安心ください。クロエ様には私の部下がついております。難しい判断をしなければならない場面でも、彼女が導いてくれるでしょう」


「おお、さすがはクロヴィス様。抜かりないですな」


「ええ。それはもう」


 今回のようなアクシデントがなければ、クロエは無事に屋敷に戻ってこれるはずだった。陰ながら信頼のおけるベレニスに見張らせ、何かあれば彼女の判断に任せ対応するように言ってある。クロヴィスは万が一に備えていた。


 だが、このタイミングで邪竜の侵攻が始まるとは、運が悪かったに尽きる。

 もちろん、クロヴィスは邪竜の侵攻も考えてはいた。だが、竜王規模の出現は完全に予想外だ。


「ヨルムンガンドだったか。さすがに俺達じゃ勝てないか?」


「相手は竜王? とかいうやつなのよ? アタシ達で勝てるとは限らないでしょうが。クロっちの判断を仰がないとダメよ」


「だよなぁ。強そうだし、戦ってみたかったぜ」


「勝手な真似は慎むんじゃぞゼス」


「わぁってるよ。俺だってそんなにバカじゃねえって」


「ゼスさんのお気持ちもわからないでもないですが……、今はクロエ様のお帰りを待ちましょう」


 主戦場へ向かうヨルムンガンドを横目に、クロヴィスは分身体に意識を集中させる。そんな中、分身の一体が、気になる会話をしている帝国兵達を発見した。

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