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黒雷の威力




 魔術で適当に衛兵達を誤魔化し、俺とベレニスさんはシェルターの外に出た。


 どうやら戦闘はかなり広範囲で行われているようで、あちこちからそれらしい音が聞こえてくる。市街地には魔導シールドがドーム状に展開されているが、それもいつまで持つか。一つでも装置を破壊されれば綻びが生まれる仕様だ。故に永遠にシールドを張り続けられるわけではない。


 と、工場で働いていたおかげで魔導兵器に詳しくなってしまっているな。

 成り行きだったけど、知識があるということはいいことだ。


「そういえば、クロヴィス様の屋敷は街から離れたところにありましたね。魔導シールドの範囲には入っていないようですが……」


「そうですね。このシールドの感じだと全然範囲には入っていないと思います。ですが、屋敷にはクロヴィスもいますし、他にも解放済みの方たちがいるので邪竜の攻撃で半壊した、なんてことはないと思います」


「クロヴィス様がいらっしゃるのであれば大丈夫でしょう」


 軽く走りながら、俺達は屋敷のある郊外を目指す。

 ここからなら、そんなに離れてはいない。直に戻れるだろう。

 それからしばらく走り、俺達は魔導シールドの範囲外に出た。

 市街地から離れ、建物の数も減ってくる。

 空を見上げると、邪竜の姿を確認できた。

 敵は想像以上に数が多い。やはり群れで行動するというのは厄介だ。


「邪竜はその一頭一頭がそこらの魔物よりも遥かに強いです。民間人が襲われたらひとたまりもない。それに、この乱戦では避難誘導をする余裕もなさそうですから、なおのこと一般市民の方の安否が危ぶまれますね」


「でも、今のところは食い止めれてるみたいですね。これも剣聖の力なんでしょうか」


「それもあるでしょう。大隊を指揮する者が、名立たる将であれば、兵士の士気も上がるというものです。それに、剣聖オレリアは自らが矢面に立ち鼓舞する武人。恐らく今も前線で剣を振るっているはずです」


「勇敢な方なんですね」


 どんな人なのか、興味が湧くな。

 会ってみたいという欲が膨れ上がってくる。

 などと考えながら走っていると、前方からこちらに逃げてくる人達を発見した。背後の空には邪竜が一頭迫ってきている。言っていた矢先にこれだ。帝国兵が操る魔導兵器が討ち漏らしたのだろう。しかし、住宅街の方に侵入しているのはよくないな。


「前方から避難民のようですが――」


「邪竜に襲われていますね。助けます。――【ラ・エクレール】!」


 俺は黒い雷撃を邪竜に放った。

 その一撃は脳天を直撃し、邪竜は地に落ちていく。

 さすがは魔神の魔術。火力も一級品だ。


「あ、ありがとうございます……! おかげで助かりました……っ」


 俺にお礼を言ってきたのは逃げていた一団の1人だ。

 どうやら家族のようで、彼女は母親らしい。

 父親らしき人が赤子を抱いている。その後ろには子供が二人。

 郊外に住んでいた領民だろうか。にしては高そうな服を身に付けている。

 この一家は、襲撃が来てから慌てて魔導シールド内にあるシェルターを目指していたってとこか。


「いえ、無事でよかったです。怪我はないですか?」


「ええ。おかげさまで全員無事です。まだ小さいのに、立派な魔術師なんですね。帝国軍の方ですか……?」


 と、そこまで言うと、母親らしき女性は何かに気づいたかのように目を丸くした。


「ま、まさか魔族……?」


 母親の女性に聞かれ、俺は首肯した。


「お、驚きました……。こんなにお強い魔族の方がいらっしゃるとは……。エルドラの魔術師部隊も精鋭揃いですが、あなたはそれ以上に腕が立つように見えます」


「黒いお姉ちゃん凄いんだね! な、ニナもそう思うだろ?」


「うん! あの邪竜を一撃でやっつけちゃったもん! まぞく……? って強いんだね!」


 後ろに控えていた兄妹らしき子供からも、賞賛の言葉が飛んできた。

 子供たちにそう言ってもらえるのは素直に嬉しい。


「実は魔族って本来はとっても強いんですよ。信じられないかもですけど」


 おそらくこの人はベレニスさんと俺の目を見て判断したのだろう。片目は翡翠色だが、もう片方は魔族の象徴である赤色だからな。


 これで魔族に対するイメージが多少でも変われば儲けものだ。


「ジェシカ、これ程までに強い魔族の子は俺も興味があるが、今は避難を優先しよう。またいつ襲われるかわからないからね」


「そ、そうねあなた。――ありがとう魔族の人。この御恩は忘れません」


「私からも感謝を。魔族に対する認識を改めなければならないと感じたよ。また会うことがあればちゃんと礼をさせてくれ」


「ばいばい黒いお姉ちゃん!」


「ばいばい!」


 そう言って、一家は一礼して都市部に逃げていった。

 赤ん坊を抱いていたし、無事に戦場から逃げれればいいのだが……。


「主な戦場は向こうですし、無事に逃げ切れると思いますよ」


「そうですね。ですが、逃げ遅れている民間人が他にもいるかもしれません。帝国軍の方がしっかりと避難誘導を出来ていればよかったんですが……」


 魔導シールド外に位置する郊外は、避難誘導どころではないということか。

 ここからでも北の方で防衛部隊と邪竜が戦っている様子が見て取れる。魔導兵器の攻撃と、空から襲撃する邪竜。あそこに白銀の剣聖オレリア・ブランウェンもいるのだろうか。


「戦線を逸れた邪竜がいれば、都度倒して進んだ方がよさそうですね」


 【ラ・エクレール】の一撃で倒せることが判ったのは大きな収穫だ。

 もしもの場合は広範囲に術を放てばいい。邪竜の下っ端がいくら襲ってこようが問題なさそうだな。


「クロエ様の隣は、魔導シールド内の避難所よりも安全ですね。私も安心してついていけます」


「そ、それほどでは……。コホン、では、先に進みましょうか」


「はい。行きましょう」


 俺達は再び屋敷目指して走りだすのだった。

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