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剣聖の名




 模擬戦から3日が経った。

 邪竜の襲撃はまだなく、俺達は何が起きてもいいように備えている状態だ。

 そんな中、帝国側では動きがあったようだ。


 昨日、ギルンブルク帝国の中心地、皇帝が治める帝都ロージスからエルドラ領に部隊が派遣されてきたらしい。分身体に情報を集めさせているクロヴィスの話では、どうやら一個大隊規模の軍隊が邪竜討伐のためにやってきたとのことだ。


「想像よりも帝国軍の部隊の規模が大きいようですね。加えて、どうやらかの有名人が指揮しているようです」


 朝食後の席で、クロヴィスは言った。


「有名人、ですか? もしかして、名のある武将とか?」


「有り体に言えばそうですね。大陸ではその名を知らぬものはいない武人。白銀の剣聖オレリア・ブランウェンという方です」


「は、白銀の剣聖ですか……」


 これはまた強そうなやつが出てきたな。

 いやまあ、実際にどんな人なのか知らないので何とも言えないけど剣聖と言えばそれだけで強そうだ。その名の通り剣の腕が達者なんだろう。どんな人なのかとても興味がある。


「剣聖オレリアは15歳の時に帝国の七武人に選ばれた正真正銘の猛者です。それほどの人物を送り込むということは、どうやら帝国も邪竜の脅威は放っておけないようですね」


「なるほどです。でも、その剣聖オレリアっていう人が邪竜を倒してしまったら私達の出番はないのでは?」


「そうですね。そうなると当初の計画は破棄しなければならないかもしれません。まあ、そうなったらそうなったで次の手を考えるだけですが」


「エルドラ領に邪竜討伐を苦戦して欲しいというのも、なんだかおかしな話ですけどね。にしても、どうしてこの街は邪竜に狙われているんでしょうか。特に理由はないのかもしれませんが」


「邪竜が棲む渓谷がエルドラ領の近くにあるというのは理由の一でしょう。ただ――」


 言いつつ、クロヴィスは難しい顔をした。

 何かを考えているが、それを口にしていいモノかどうか悩んでいる様子だ。


「まあ、この際邪竜侵攻の理由は考えなくともよいかと。とにかく、状況次第で動きを変える必要がありそうです。場合によっては、ベレニスにも協力を仰がなければならないかもしれませんね」


「そっか、ベレニスさんはまだ領主の宮殿にいるんでしたね」


 ベレニスさんはクロヴィスの部下だ。役目を終えた彼女をそのままにしているのは、クロヴィスに考えがあるからだろう。


「彼女にはまだ役目が残っておりますので。ここでの我々のやるべきことが終わり次第迎え入れる予定ではありますが、もう少し先になるやもしれません」


「ベレニスさんの力も解放しないとですもんね」


「ええ。その時はよろしくお願いいたします」


「もちろんです」


 ベレニスさんもクロヴィスと同じ悪魔族だ。

 となると、能力も近しいものになるのだろうか。

 まあ、こればっかりは実際にやってみた方が手っ取り早いか。


「そういえばゼスさん達は今日もですか?」


「そのようです。本日もグエン殿指導の下、戦闘の訓練をされているようですね。力もまだ全盛期程ではないでしょうから、有意義な時間の使い方かと」


「備えておくことは良い事ですからね。どうせなら私もグエンさんに色々教えてもらおうかな……」


 現実世界での経験もたくさん積んでおきたいところだ。

 とは言いつつ、現実世界での戦闘も問題はなさそうだが。


「クロエ様は教示する側になってしまいますよ。今のクロエ様に何かを教えることが出来るとすればそれはもう先代のエリーゼ様くらいのものでしょう」


「そ、そうですか……。それは残念です……」


 戦闘面で学ぶ機会は、もうないのだろうか。

 学ぶにしても、精神世界でエリーゼさんに教えを乞うことしかないというのは、ちょっと寂しいものがあるな。


 まあでも、人生経験とかグエンさんの方が長いだろうし、そういう他の学びの機会はあるだろうから、。


 しかし、この3日俺は何もやることもなくぐうたらしている。

 買い出しとか用事は全部クロヴィスが行ってしまうし、何か俺にも仕事を分けて欲しいところだ。


「では、私は少々買い出しに行って参ります」


 と、クロヴィスが出ていこうとする。

 俺は咄嗟に、


「買い出しなら私が――!」


「く、クロエ様がですか? しかし、このような雑務を主に任せるわけにはいきません」


「私が行きたいんです。この街のことももっと知りたいし、社会勉強も兼ねて外の世界も知っておきたいというか」


「……なるほど。確かに、クロエ様はこの世界にまだ慣れていない。しかし、主の手を煩わせるのも配下としてどうか……」


 クロヴィスは逡巡している。

 ここは主命令で強制的に俺が買い出しに行くと言ってもいいが、それでは格好悪すぎる。


 でも、このままぐうたらし続けるのは、謎の罪悪感に襲われるのだ。

 生前で社畜だったが故に、働いているのが日常だったから尚更だ。


「……わかりました。クロエ様に限って万が一があるとは思えません。買い出しはお任せするとしましょう。その間に私は他の仕事を片しておきますので」


「ありがとうございます! あ、それで何を買ってくればいいですか?」


「少々お待ちください。すぐにリストを作りますので」


 言って、クロヴィスは紙にメモを書き始めた。

 すぐに書き終え、俺はリストを受け取る。


「食材と雑貨の調達です。市街地に行けば全て揃うかと思いますので」


「市街地ですね。了解です」


 エルドラの市街地か。

 実は一回も行ったことがない。

 まあ、場所はなんとなくわかるし大丈夫だろう。


「では、お願いいたしますね」


「はい、任せてください」


 そうして、俺はエルドラの街へと向かうことになった。


 

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