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これからのこと



 ――朝。


 朝食はクロヴィスが完璧に用意してくれた。

 工場勤務の時とは大違いの、しっかりした朝食に皆感動しながら、ありがたく頂いた。


 そして、俺達は食後のコーヒータイムを優雅に過ごしている。

 屋敷のリビングは、穏やかな空気が流れていた。


「――では、そろそろ今後のことについて話していきましょうか」


 カップから口を離したクロヴィスが、そう発言する。

 これからのこと。それは、先代の理想を現実とするためのことだろう。

 グエンさん達にも、朝食中にそこら辺の説明はしておいた。

 ゼスさんとレベッカさんも記憶が少しずつ戻ってきているのか、ちょっとずつ雰囲気も変わってきた気がする。


「これから魔族達がこの世界で生きていくには、基盤が必要になるでしょう。しかし、この街のように、様々な場所で魔族は虐げられている……。まずは、その印象を変えていかなければなりません」


「変えるったって、どうしたらいいんだ? 俺は頭が良くないから、いい案なんて思いつかないぜ?」


「その点についてはご安心ください。私に考えがあります」


「おお、さすが使徒の兄ちゃん。考えることはクロヴィスに任せて、俺は力仕事を頑張るとすっか」


「フフ、そうですね。悪鬼オーガ族は戦闘に長けた種族。来るべき時にはそのお力を借りると思います」


「おうよ! 任せてくれ!」


 威勢よく言うゼスさん。

 やはり悪鬼オーガとしての記憶が蘇りつつあるんのだろう。力を失っていたころは戦闘なんて出来っこないって感じだったはずなのに、今や戦闘バッチこいって感じだ。頼もしい限りである。


「ゼスと同じであたしも考えたりするのは苦手かな……。空は飛べるようになったし、偵察とかなら協力できると思うけど」


「レベッカさんは鳥獣姫ハーピィ族ですからね。その能力は適している場面で使わせていただく予定ですよ」


「ええ。お願いするわ」


「――それで、グエン殿はどうでしょう?」


 続いてクロヴィスがグエンさんに声をかけた。

 大人しく話を聞いていたグエンさんだが、彼もどちらかというと戦闘よりの体型をしている。思考を巡らせるタイプには見えないが……。


「以前のあなたは兵士をまとめる役をなさっておいででした。そのことは覚えていると思いますが」


「ふむ。確かに、魔界でワシは人の上に立って指揮する側でありましたな。しかし、今はこの人数しかおりませぬ。前線に立てと言われればもちろんそうする所存でございまする」


「そうですね……。今はこの人数ですから、そうなる可能性もあるでしょう。その場合はゼスさんとレベッカさんを見て頂ければ助かります」


「心得た。クロエ様に救われたこの命。どんな命令でもやり遂げてみせましょうぞ」


「頼りにしていますよ、グエン殿」


 なんだかいい感じにまとまっているようだが、戦うことが前提になっているような気がするのは気のせいだろうか。いやまあ、なんとなくそうなるような予感はしているから、事前に備えることはいいことだと思うけれども。


「それで、クロヴィスの考えというのは?」


 俺は問うた。


「そうですね……。大目標はもちろん先代の理想の実現。ですが、そのためには我々魔族が元の姿に戻り、力を取り戻す必要があります。前の世界同様、この世界でも我々の国を作ることが、先代の理想への近道でしょう」


「国を作るとなると、簡単な事ではないと思いますが」


 だが確かに、エリーゼさんも同じことを言っていた。

 この世界で魔族の国を作る。人間と同等の力を持てば、侵される心配も限りなく薄くなる。理想の実現のためにも、魔族の国を作ることは良い目標かもしれない。


「といっても、それはあくまで手段の一つです。今はまだ時ではない。焦らずゆっくりと力を蓄える時期でしょう。そのためにも、使徒達を再びクロエ様の元に集わせることは重要事項かと存じます」


「魔神の使徒、ですか」


 エリーゼさんからは、その存在の大きさについてよく聞かされている。

 色んな種族の使徒がいて、それぞれかなり強い力を持っている者達だと。

 魔神と最も関わりが深い、仲間達だ。


「使徒は竜神族の長や吸血鬼の真祖、妖狐など様々な種族の者がいます。私はただの悪魔族ですが、どちらかというと使徒は珍しい種族の方ばかりです。その分プライドも高く、頼めば素直にこちらに協力してくれる者ばかりではないでしょう。ですが、彼らの存在は必要不可欠。我々魔族が力を持つ種であると証明できる者達ばかりです」


「使徒を集めることが先決だということは、先代も言ってました。大多数の使徒は恐らく向こうから私の方へやってくるだろうということも」


「ええ。クロエ様が魔神として覚醒したことは、使徒であれば勘付いているはず。確かめるためにも、向こうからやってくるのは間違いないと思われます」


「なら、アタシ達は大人しく待っておけばいいの? せっかく力を取り戻したんだし、有効活用してみたいな~、なんて」


 手を後頭部に組みながらレベッカさんは発言した。

 本来の姿を取り戻した3人は、自分の力がどの程度のものであるか確認したいという気持ちはわかる。だが、そんな都合よく魔物なんて現れるものでもないだろうし、難しい問題だ。


「レベッカ様、その機会はすぐに訪れるかと思いますよ」


 と、表情も変えずに言うクロヴィス。

 すぐに訪れるとは、どういう意味だろうか。


「今この都市は邪竜の侵攻を受けています。街の都市郊外の北部は既に半壊。住民の避難も間に合わず、エルドラ領の受けた被害は計り知れません」


「それがアタシの力を行使することと関係あるの?」


「ええ。――邪竜討伐。魔族の力を誇示する絶好の機会だと思いませんか?」


 ニヤリと笑うクロヴィス。

 なんだか気色わるいが、この男が考えていることは大体把握した。


「邪竜を討って、エルドラ領に対して魔族の力を見せつける。それはすなわち、大国であるギルンブルク帝国に恩を売ることにも繋がる。魔族の評価を改めさせる絶好のチャンス、というわけですか」


「クロエ様のおっしゃる通りでございます。邪竜も一頭ではありません。やつらは群れで行動するタイプのドラゴンです。次の襲撃はさらに数が増えていると予想されます。帝都から援軍が来ているようですが、私が持つ情報通りの戦力ならば対抗するのは厳しいはず」


「なら、そのドラゴン共を俺らでぶっ飛ばせばいいんだな?」


 若干嬉しそうに言うゼスさん。

 彼もどうやら戦闘員タイプの所属らしいので、腕が鳴るとかそんなところだろうか。記憶も徐々に戻ってきているようだし、頼もしい限りだ。


「はい。ですが、ドラゴンのボスに限ってはクロエ様に仕留めていただきたいのです」


「……なるほど。魔神という存在の強大さを示すというわけですな」


 と、グエンさんだ。


「ええ。クロエ様という存在がいかに強大であるかを周りに見せつけなければなりません。我らにとっての国とは、領土でもなく国民でもなく主権でもない。クロエ様というお方が、国という概念と同等の存在であればいいのです」


 真顔でクロヴィスがとんでもないこと言ってるが……。

 

「私に国になれ、と?」


 そもそも国と同等ってなんだよ。

 俺はヒトであって国じゃない。

 まあ、クロヴィスの言わんとしていることはなんとなく理解できるけど。


「要は一個人が一国家と同じ戦力を持っていると認識させればいいのです。そうすれば同じレベルの存在として成り立つ。逆らえば国を滅ぼされかねない相手に、それが例え個人だったとしても無作法は出来ないでしょう? つまりはそういうことです。――ですが、簡単にはいかないでしょう。少しずつ時間をかけてやっていくことになるのは間違いないでしょうね」


「国と同等……。うへぇ……クロっちってそんなに凄かったのね……」


 レベッカさんが口を開けて驚いていた。

 言葉で説明しても理解できる範疇は超えている。

 個人と国が、同じレベルにあるということは、異常だ。


「その辺は追々突き詰めていくとして、今は邪竜討伐の作戦を練る方がよいでしょうな。ワシらはまだ覚醒したて。長い間実戦から遠のいております故、予行演習をする機会を頂ければと思いまする」


「ふむ。グエン殿の提案は御尤もですね。――クロエ様、どうなさいましょうか?」


「そうですね、私もグエンさんの意見は悪くないと思います。ゼスさんとレベッカさんも昨日枷が外れたばかり。戦い方を身体が思い出しても、心と身体のギャップといものはすぐに消せないでしょうから」


「となれば、このメンバーで模擬戦でも軽く行うのがよいかと。幸い、この邸宅は郊外にあり、土地も広い。大規模な魔術戦でもしない限り、問題はありません」


「模擬戦を行っても周りに迷惑はかからないようですね。では、午後から早速行いますか」


 かくいう俺も、ギャップを埋めておきたい。

 精神世界では腐るほど戦ってきたが、現実とは感覚が微妙に違うはずだ。

 ロランさんとの戦いで、そこまでのズレはないことは確認できたが、経験を積むことは悪い事じゃないだろう。


「よーし! 腕が鳴るぜ!」


「ゼス、アンタには絶対負けないからね!」


「言ったなレベッカ。俺もお前には負けねえぞ!」


 両者バチバチと火花を立てているご様子だ。

 あの2人、労働中も何かと競い合う癖があったからな。仲が良いのは間違いないんだけど。


「フフ、自信を持つということは、大事なことです。以前のあなた方は誰かに戦いで勝てるなんて思いもしなかったでしょうからね」


「ああ、クロヴィスの言う通りだぜ。ほんと、クロ助には感謝だな」


「そうね。クロっちのおかげでこの姿を取り戻せたんだし。一晩寝たら色々記憶も戻ってきたし、鳥獣姫ハーピィ族としての力、見せてあげないとね」


「――ぬぅ。こやつらのクロエ様の呼び名、工場の時のことがあるとはいえ、どうにかならぬものかのぅ……」


 そして、グエンさんは頭を抱えていたのだった。


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