――翌朝。夢にまで見たおっぱいの感触
――翌朝。
どうやら寝落ちしていたらしい俺は、例のでかいベッドで目を覚ました。
窓の外は明るく、小鳥がちゅんちゅんと鳴いている。
紛うことなき朝である。朝日が気持ちいい。
「……ふわぁ……――」
俺は上体を起こし、伸びをした。
少しだけ頭が痛い。さすがに色々ありすぎて身体が悲鳴を上げている。
といっても、この身体は魔神のものだから頑丈なんだろうけど。
「ん……?」
ベッドから出て、俺は違和感に気づく。
寝落ちしたはずが、服が薄手のネグリジェに変わっている。
着ていた服は奇麗にハンガーに掛けられていた。
「この服、部屋着にしてはちょっとスケスケなような……。さすがに下着は見えない作りだけど」
ま、深く考えないでいいか。誰かに見せびらかすものでもないしな。
クロヴィスにはお風呂に入るって言ったのに、全然部屋から出てこなかったから部屋に様子を見に来て、俺が寝てたから着替えさせてくれたってところだろう。この屋敷にいる面子で勝手に着替えさせそうなのは彼しかいないし。
「まあいいや。とりあえずシャワーだけでも浴びよ」
確か3階が浴場だったな。
替えの下着だけ適当に見繕って、俺は浴場向かった。
少し迷いかけたが、無事に浴場にたどり着けた。
「ちゃんと男と女で分かれてるんだ」
暖簾でわかった。ここらへんはしっかりしている。
中に入ると、銭湯のような脱衣所が広がり、奥に浴場があった。
本当にこの屋敷は広いな。どうやってこんな優良物件を手に入れたんだろうか。クロヴィスは拠点だと言っていたが……。
「ま、あとで聞けばいいか」
俺はひとまず考えずに、脱衣所へ。
すると、中には先客がいるようだ。服が置いてある。
あれは恐らくレベッカさんのものだろう。
「ど、どうしよう……。今、身体はこんなだけど……」
さすがに自分のもの以外の女性の裸体を見るのは気が引けるな。
少し待って入ろうか。さすがにこのボディで男湯に入るわけにもいかないし……。
「――あ、クロっち! おはよう!」
「れ、レベッカさん……!?」
まずい、考えていたらレベッカさんが脱衣所に戻ってきてしまった。
身体は鳥獣姫のものだけど、その根本はヒトと同じのため、やはりというべきか出ているところは出ていて、女性特有の色気は隠せていない。むしろムンムンである。
「いやぁ~、羽根が洗いづらくってさ~。……って、どうしたのクロっち? なんか慌ててるようだけど……」
「い、いえ……! なんでもないので気にしないでください……っ」
言いつつ、俺はレベッカさんの豊満なボディから目を背けた。
いけない。これはいけない。同性だけど、女性の身体を見慣れていないので動揺が隠せない。俺は生前にそういった経験はほとんど積んでいないため、耐性が著しく低いのだ。
「え~? どうしちゃったのよクロっち。なんか顔赤いわよ?」
「き、気のせいですよ……はは……」
「ほんとかな~? もっとよく見せて?」
「――!?」
気づけば目の前にまでレベッカさんは接近していた。
なんという不覚。目を背けていたとはいえ油断し過ぎた。
眼前に広がるはあられもない美女の素肌。
心臓がドクンドクンと早鐘を打っている。
このままでお風呂に入る前にのぼせてしまいそうだ。
「って、ほんとに真っ赤だ! クロっちどうしちゃったの? ていうかすっごく可愛いんだけど!」
「んん!? むぐぐぐぐぐ……!」
急に抱き着かれて、胸に顔が沈んでしまう。
ああ、これが楽園というやつか。夢にまで見たおっぱいの感触か。
確かにこれは良い。すごく良いものだ。このためなら死ねる。これぞまさに男の浪漫……。
「あはははは! ほれほれ、気持ちよいか~?」
「むぐ……! もごご!」
「あはは! なんて言ってるかわからないわよ?」
「むぐぅ……!」
楽園の先を見る前に窒息で死にそうなんですけど!
まあでも、女性の胸の中で死ねるのなら本望……。
「っとと、ごめんごめん。苦しかったわよね?」
「けほっ……けほっ……。い、いえ、貴重な体験でした……」
正直卒倒しそうだったのをなんとか耐えたのが本音だ。女性の豊満なお胸様に顔をうずめるなんて経験、生前の俺にはなかったからな……。
「そう? まあクロっちもいずれアタシみたいな身体になるわよ。魔神という種族が成長するのかどうかは知らないけどね」
「あはは……。胸のサイズはほどほどでいいかもです……」
肩が凝るっていうしな。
それに、この身体に巨乳はバランスが悪い。
結局、今のままがベストなんだろう。
「あら、控えめじゃない。アタシ的にはクロっちはそのままがいいけどさ。可愛いし」
「あ、ありがとうございます……?」
なんとなく疑問形でお礼を言う俺。
しかし、この身体はもう成長しない気がする。もしくは成長という概念以外で身体が変化する可能性はあるくらいか。時間が経てばとか、栄養を取ればとか、そういう次元はとうに超えているように思える。
「ちょっと濡れちゃったね。拭いたげる」
そう言って、レベッカさんはタオルを俺の顔に押し付けた。
ごしごし拭いて、水気が取れる。
「これでよし。といっても、クロっちは今からお風呂よね」
「そうですね。昨夜入りそこねてしまって」
「アタシと同じだ。色々あって疲れてたからベッドに寝落ちしちゃって。ま、仕方ないよね」
「昨日は色々とありましたから……。――これからは、他の魔族の方達も力を解放していかなきゃなので、これからもっと大変になりそうです」
「そうね。でも、アタシ達も協力するから一緒に頑張りましょ! 工場の皆もきっと喜んでくれるわ」
「そうだといいんですけど……実際のところはどうなんでしょうか」
急に力を解き放って、それで皆納得してくれるだろうか。
中には今のままがいいという人もいるかもしれない。
だから、なるべく強制はせずにいきたい。今の状況に不満を持っていて、尚且つどうにかしたいと思っている人を優先で力の解放はしていくべきだろう。
「難しいことは考えなくていいのよ。魔族は皆、元々アタシみたいな種族なんだし、元に戻れば勝手に頭が納得していくわ。だってそれが本来の魔族なんだから」
「そ、そうですね。少し慎重に考えすぎてたかもしれません。レベッカさん、ありがとうございます」
「いいっていいって! これでも工場では先輩だったんだし、これからもいっぱい頼ってくれていいんだからね!」
「はい。その時はお願いします」
ぺこりと俺は頭を下げる。
仕事中も頼りになるお姉ちゃんのような人だった。身体は変わっても、中身はやっぱりレベッカさんのままだ。力を解き放っても、その人がその人であることは変わらない。その点は安心できる。
「それじゃ、ごゆっくり~」
「はい。では……」
レベッカさんは身体を拭き、着替え始めた。
俺も脱衣所でそそくさと服を脱ぎ、浴場へ。
それから、軽くシャワーを浴び、身体を清めてから部屋へ戻るのだった。