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変わらぬ2人





 ゼスさんとレベッカさんは、各々違った牢屋に捕らわれていた。

 クロヴィスがテキパキと鍵を開け、2人を無事救出することが出来た。


「まさかクロ助が助けに来てくれるとはなー! ありがとよ!」


 そう言って、ゼスさんはいつも通り俺の頭をガシガシと撫でてくる。

 すると、案の定――


「あー! あんたばっかりずるいのよ!」


 レベッカさんも俺の身体を触り始めた。

 いつものおもちゃ状態だ。俺が魔神として覚醒しても、2人からの扱いは変わらないようで少しだけ安心した。これでこそこの2人だ。


「にしてもなんかクロっちの雰囲気変わった? 服装もだけどどことなく大人っぽくなったっていうか――」


「ああ、それは俺も思っていたトコだ。なんか、一皮むけたみたいな感じだよな」


「あー、それはですね……」


 なんて説明しようか。実は魔神でしたって2人に話しても信じてもらえない気がする。俺もそういった説明は苦手だし、どうやって話したものか。


 と、俺が困っていると、隣に立っていたクロヴィスが口を開いた。


「クロエ様は魔神。魔族達の上に立つ存在でございます。見るに、あなた方の力はまだ失われたままのようだ。それも解放されれば、自ずと判るはずです」


「魔神ってなんだっけ? なんか聞いたことあるような気もするけど……。 というかクロ助、そもそもこの人は誰なんだ? なんか頭に角とか生えてるし、人間じゃないよな……」


「耳もなんか尖がってるから、そうでしょ」


「つかなんか執事っぽい服装だよな! 偉い人の従者みたいだ」


「ほんと、どこぞの誰かとは違って紳士って感じよね。どこぞの誰かとは違って」


「おいレベッカ! それは俺のことじゃねえだろうな!」


「アタシは別にアンタとか言ってないんですけどー」


「テメェ! 捕まった時はあんだけ弱気になってたくせに!」


「なによ! アンタも「もう終わりだー」って言ってたじゃないのよ!」


 急に喧嘩が勃発してしまった。

 にしてもいつも通りだなこの2人は。賑やかなのはいいんだけど、クロヴィスが取り残されててちょっと面白い。


「…………クロエ様」


「わかってます。力を解放すれば理解してくれますよね」


「ええ。しかし、賑やかな方たちですね」


「はい。いつも通りと言えばいつも通りなんですけどね」


 あの奴隷のような扱いを受けていた工場でも、この二人がこうして明るく振る舞ってくれるから、気分が沈まずに済んだ。ある意味ではムードメーカーで、ある意味ではトラブルメーカーな二人だ。


 俺は言い争いをしている2人に、恐る恐る声をかける。


「ゼスさん、レベッカさん、少しだけいいですか?」


「――ん? 急にどうしたんだ?」


「クロっち、アタシらに何かあるの?」


「はい。魔神という存在がどういうものなのかを、教えようと思いまして」


 俺が言うと、二人は目を見合わせた。

 そして、一瞬の沈黙が流れる。


「すぐにわかるもんなのか? それなら手っ取り早く済ませてくれや」


「そうね。魔神という存在に興味あるし。それがクロっちっていうなら、なおのことね」


「ありがとうございます。では、お二人とも目を閉じていてください」


 俺が指示すると、二人は何の躊躇もなく目を閉じた。

 なんだか信頼されているようで嬉しい。そんなに長い付き合いじゃないけど、同じ工場で働いていた仲間なんだよな。


 すぐに二人に術式を行使する。

 淡い光が二人を包み込んだ。

 そして――


「…………よし」


 使徒であるクロヴィス程の力は持っていないのか、力の解放は数秒で終わった。やはりというべきか、姿が変化している。


「お、おお……! なんだ、この湧き出る力は――! うおおおおお! 生まれ変わったかのようだぜ!」


 ゼスさんは額から鬼の角のようなものが生えて、少し歯が鋭くなっている。顔つきも体格も変わったいた。頼れる兄貴分って感じだ。


「あ、アタシもなんだか違う自分になった気分だわ……! というか、なんか翼が生えてるんだけど!?」


 レベッカさんは鳥獣を模したような姿になっていた。

 手はヒトと同じだが、脚が鳥獣そのものだ。背中から羽根も生えているし、そういう種族なんだろう。


「ふむ。ゼス様は悪鬼オーガ族、レベッカ様は鳥獣姫ハーピィ族のようですね。どちらも魔界では勇猛な戦士でした。残念ながら記憶の方は、まだ戻っておられないようですが――」


「記憶……? 言われてみりゃ、なんか頭の中の靄が晴れていくような気分だが……」


「確かに、なんか忘れていたことを思い出せそうだわ。ゼスの姿といい、アタシの羽根と脚といい、どうやらこっちが本来の姿みたいね。クロっちはそれを解き放ってくれたってわけか」


「となると、クロ助ってもしかして凄いやつだったのか……?」


 そう言って、ゼスさんが俺のことをジッと見つめてくる。

 なんだろう。そう熱心に見られると落ち着かない。


「でも、クロっちはあんまり見た目変わってないよね。目の色が片方だけ翡翠色になってるってくらいでさ。それが魔神の姿ってことかしら」


 そう言いながら、レベッカさんは俺の顔を弄繰り回してくる。

 なんだろう。魔神になったけど威厳もクソもないこの感じ。

 まあ、別に偉くなりたいわけじゃないからいいけど。


「コホン。ゼス様。レベッカ様。未だ記憶が戻られていないのは仕方が無いにしても、少々クロエ様に対して失礼ではないでしょうか。仮にも魔界で我らの頂点に立たれていたお方ですよ。敬意というものがあるでしょう」


「って言われてもなぁ。クロ助はクロ助だし。可愛い妹みたいなもんなんだよな」


「そうねぇ。アタシにとってもクロっちはそういう存在だから、急に崇めろっていわれてもねぇ」


「崇めろ、とまでは言っておりませんが……」


 言って、クロヴィスはちらりとこちらを見てきた。

 まあ彼の言いたいことも判らんでもない。魔界ではエリーゼさんはたくさんの魔族から慕われていたようだし、この二人の態度が気に食わないというのも納得だ。


 だけど、この二人は俺がまだ、ただのクロエだった時から良くしてくれた人達なのだ。俺が魔神として覚醒したから配下になれ、とか言うつもりもない。今はただ、二人が無事だったことを純粋に喜びたい。それに、魔界で皆の上に立っていたのは、正確には俺ではなくエリーゼさんだしな。


「クロヴィス。ゼスさんとレベッカさんは前からこんな感じだったのであまり気にしないでください。私も、今のままいてくれた方が気が楽ですし」


 急に畏まられても困るわけで。

 みんながみんなクロヴィスみたいに固い感じだと息が詰まるしな。


「承知いたしました。クロエ様がそれよろしいのでしたら、私から言うことは何もありません」


 一礼して、クロヴィスは一歩引いた。

 なんだか所作も執事っぽいな。俺のイメージなのでそれが本物かはわからないけど。


「ありがとう。お二人の記憶もちょっとずつ戻ってくるとは思いますけど、今まで通りで大丈夫ですよ。私は魔神という存在の前にただのクロエなので」


「そうこなくっちゃな! クロ助のおかげで強くなったっぽいけど、今まで通り頼むぜ!」


「そうね。アタシも今まで通りよろしくするわ。いきなり態度を変えるのも難しいしね」


「はい。改めてよろしくお願いします」


 俺は頭を下げた。

 でも、本当に二人が無事でよかった。グエンさんも無事だったら、どんなによかったことか……。


 次にやることはもう決めている。グエンさんをちゃんと弔うのだ。

 遺体は確か一緒にモーリア邸に運ばれているはずだから、どこかにあるはず。それを捜してちゃんと埋葬しよう。



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