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 宴の準備は程なくして完了した。

 どこから持ってきたのか分からない屋台があちこちに散見され、まるで夏祭りのようだ。

 その中心にはテーブルが並び、その上には料理やお酒などの飲み物が散りばめられている。

 日が落ち始め、どこからか準備した提灯が良い味を出し始めていた。


「クロ助のおかげで効率的に準備が出来たな! まさかこんなとこでも指揮能力を発揮できるなんてさすがだぜ!」


 ゼスさんが興奮気味に言ってきた。


「いえいえ、ゼスさん達がキビキビと動いてくれたおかげですよ。私は全体に指示だししていただけで、実際に身体を使って動いてくれたのは皆さんですから」


「そう謙遜すんなって。皆クロ助に感謝してるんだからよ」


「そういうことでしたら、皆さんの感謝の意は素直に受け取っておきますね」


「おう、そうしてくれ! それじゃ、宴を楽しむとするか!」


 そう言って、ゼスさんは人混みに消えていった。

 にしても、さすがはゼスさんだな。もう街の人達に溶け込んでいる。

 聞けば、街の自警団を取りまとめているらしいし、どんどん頼もしくなっていくな。

 とは言うものの、工場勤務の時は頼りになる兄貴分だったけれども。


「まったく、あいつはどんどん変わっていくわね。クロっちもそう思うでしょ?」


 今度はレベッカさんが声をかけてきた。

 どうやら俺とゼスさんの会話を聞いていたらしい。


「ですね。頼もしい限りです」


「いつの間に街の人達と仲良くなったんだか。崖上の屋敷にも住んでいないしさ」


「ゼスさんにはゼスさんなりの考えがあってのことみたいですよ。オレリアさんに稽古をつけてもらうために時々屋敷には来てるみたいですけどね」


「そうね。ま、あいつがそれでいいのならアタシが口出すことじゃないか……」


 そう言うレベッカさんお表情は少し寂しそうだった。

 工場で働いている時から、ずっと一緒だったのだ。心細く感じるのも無理はない。


「そう心配するでない。ゼスの様子はワシが時々確認しておる。それに、同じ町に住んでおるのじゃ。会おうと思えばすぐに会える」


 と、今度はグエンさんがやって来た。

 なんだかんだ言って、この3人は同じ釜の飯を食ってきた仲間なのだ。お互いのことは気にしているのだろう。


「そうよねグエンさん。ゼスはゼスなりの道を見つけようとしているみたいだし、アタシがこれ以上変に関わるのは迷惑……よね」


「そんなことはないと思いますよ。ゼスさんだってレベッカさんのことは特別に思っているはずです。迷惑だなんてことは絶対にないです」


「そ、そうかしら……」


「うむ。クロエ様の言う通りじゃな。あやつは真っすぐな男じゃが、どこか抜けている節もある。レベッカのような面倒見のいい者が傍にいてやった方がいいじゃろう」


「そっ、そういうことなら仕方ないわね……! アタシがこれからもゼスの面倒を見てやるとしますか!」


 どこか嬉しそうに言うレベッカさん。

 う~ん。とても乙女な顔をしている。最近は色々と家事を覚えてきたし、花嫁修業も板についてきた感じだな。これは将来が楽しみだ。


「さて、宴も始まったことですし、お二人も楽しんでくださいね」


「クロエ様のお心遣いに感謝いたしますじゃ。ではワシはこれで」


「アタシも適当に屋台回って見よっと。それじゃあまたね、クロっち!」


 グエンさんとレベッカさんは住民たちの中に消えていった。

 せっかくのめでたい行事なのだ。どうせなら楽しんで欲しいものである。





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