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ギルドの席で




 ヴェロニカさんが魔神の使徒になってから数日後。

 冒険者ギルドで、アントニオさんとロイドさんに俺のことを説明した。

 当然ながら、二人共とても驚いていた。魔族というものが、どういった存在なのか。彼らにも伝わったことだと思う。


「つまり、キミは魔族達の主たる魔神という種族……ということでいいんだね?」


 ロイドさんはお決まりの眼鏡クイっをしながら聞いてきた。


「はい。その認識で間違っていません」


「魔神……魔神か。この世界では聞きなれない名前だ。そもそも、ヒトやエルフ、ドワーフや獣人のような、一般的な種族に当てはめていいのかもわからないが……」


「ま、なんだ。クロエがこの世界のものではない特殊な存在であることは確かだな」


 腕を組みながらうんうんと頷くアントニオさん。

 凄くわかっていそうな雰囲気を出しているが、本当に理解してくれたのかは疑問である。


「あの怪物との戦いで、クロエが普通じゃないのは俺にもわかったぜ。しかし、それ以上に魔族達が他の世界から転移してやってきた種族だったってのが一番の驚きだな。どっか辺境の地から移民してきた連中かと思ってたが、そういうわけじゃなかったんだな」


「確かに、魔族の真実には僕も驚かされたよ。帝国では魔族は弱小種族として根付いてしまっているから、この認識を覆すにはそれ相応の何かがないと厳しいだろうね」


「ま、俺らみたいにクロエの戦う姿をこの目で見ちまったら、すぐに認識も変わるだろうがな! あのやばそうな異形を魔術一発で消滅させちまったんもんなァ!」


「ああ。あれは度肝を抜かれたね。そもそも剣術の腕も魔術の扱いも全て常軌を逸していたように思う。魔神という種族が規格外なのか、クロエくんが特別凄いのかは分からないけれどね」


「だな。だけどこれでスッキリしたぜ。ついでに魔族の真実ってやつも聞けたし、良い情報を貰っちまったな」


「これからは魔族に対する認識を改めていかなければならないだろうね。だけど、僕らが声を荒げたところで世間の魔族に対する評価は変わらないと思う。その辺は何か考えているのかい?」


 ロイドさんが聞いてきた。

 俺は少しだけ思考し、口を開く。


「――そうですね。一応、国を作ろうと思っています」


 と、俺が何気ない調子で言うと、二人共固まってしまった。

 国を作るって言うと現実味はないように聞こえるが、ここで言う国とは魔族達が平和に暮らせる場所のことを指している。その場所が、後々国という大きなモノになるかは今のところ不明だ。


「いやぁ……国か。こりゃまた大きく出たもんだ」


「ああ。そう簡単にいくものではないと思うよ。土地だって簡単に手に入れられるものじゃない。特にこの大陸では、安全な土地の多くは既に大国であるギルンブルク帝国やエルディス王国が保有している。東西南北の果てにある大地は、無法地帯だが環境が劣悪で人が住める場所ではないと聞く。魔物だって凶暴なヤツが多く生息しているらしいよ。この大陸で安全な土地となると中々見つからないんじゃないだろうか」


「土地の問題は確かにありますね。その辺は私達も考えている最中です」


 正確にはクロヴィスが考えている。

 俺は具体的な活動は何一つしていない。ここ最近やったことと言えば冒険者の資格を取ってヴェロニカさんを使徒として迎え入れたことくらいだ。国づくりに関わることは、現状全てクロヴィスが担当してくれている。


 だが、彼らにそこまで話す必要はないだろう。

 魔族が平和に暮らせる場所を作るというのは、エリーゼさんから託された使命でもある。一番に優先しなければならないことだとは思うが、考えなしに行動しても空回りするだけだ。今はクロヴィスに任せることが目標達成への近道なのだ。


 とは言うものの、恐らくクロヴィスも自分が自由に動いていた方が効率が良いと考えているはず。俺が変にあれやこれや支持する方が非効率的なことは俺自身が一番よく分かっている。。決してクロヴィスから何もしなくていいなどと言われたわけではないぞ。俺は俺の意思でこうしているに過ぎないのだ。


「さすがはクロエくんだね。土地の問題も既に思案中だったとは」


「え、ええ……」


 実際は「何も考えていません」だなんて口が裂けても言えないなこりゃ……。正確には俺が考えていないだけでクロヴィスは考えているだろうけど。


「国民は問題ないんじゃねぇか? 魔族達が集うんだろ?」


「そ、そうですね。いずれは転移した人達を迎え入れる態勢を整えたいとは思っています」


 そうなるまでにいったい何年かかることやらだが。

 そのためにはまず使徒を集めなければならない。国づくりに直接関与はしないが、俺の役割はそこだろう。


「そうなれば魔神の庇護下に入ることができ、魔族達はよそ者から罵られることもなくなる、か。さすがに国防の問題はクロエくん一人の戦力ではどうすることも出来なさそうだが……」


「いや、案外一人でなんとかなるのかもしれないぜ? なぁ、クロエ?」


「えっと、それはさすがに……」


 クロヴィスは魔神が国一つの戦力に匹敵するみたいなことを言っていたが、この世界の国々がどれ程の戦力を有しているのかが分からない今、適当な判断は出来ない。まあ、そもそも俺一人で何とかなるだなんて微塵も思っていないが。クロヴィスは魔神を過大評価し過ぎている節があるからなぁ。


「さすがにそこまでは無理か? ダッハッハ! そりゃそうか! 帝国には七武人もいるしなァ!」


「いや、残念ながら今は六武人だね。最近、あの白銀の剣聖オレリア・ブランウェンが軍から追放されたのだとか。噂ではエルドラの邪竜防衛戦の時に何かあったみたいだよ」


「なに? そうなのか?」


 アントニオさんが怪訝そうに聞き返した。

 というか、帝国でオレリアさんは追放されたってことになっているのか。

 まあ、事実を知る者はほぼいないだろうし、国の体裁のためにも追放されたってことにしておいた方が何かと都合がいいのかもしれないが。


「ああ。剣聖の枠が開いていることはまだ大々的に発表されていないから、知らない人の方が多いだろうけれどね」


「知らなかったぜ……。つかロイドよ、なんでお前はそれを知ってるんだ」


「知人に情報通の人間がいてね。それでたまたま聞いたのさ」


「なるほどな。――ま、そういうことにしておくか」


「なんだか含みのある言い方だな……。別に嘘は言っていないんだが」


「わかってるって。疑ってるわけじゃねぇよ。――それで? これからクロエはどうするんだ?」


 言ってから、アントニオさんはビアジョッキを盛大に呷った。

 しかし、さっきから思っていたが昼間から酒とは、中々に豪快だな。俺とロイドさんはミルクを飲んでいるというのに遠慮を知らないとはこのことだ。


「特に具体的な事は決めていません。ただ、冒険者としての仕事に関してだけ言えば、目的を達成できたので頻度は減ると思います」


「なるほど。そりゃ寂しくなるな」


「そうだね。でも、これでお別れってわけじゃないんだろう?」


「はい。エルドラにいる間はギルドにはちょいちょい顔を出すつもりではいますよ。エルーさんもいますから」


「そうか。…………なら、辛気臭くなる必要もねぇな! そんじゃお祝いに飲むとするか! おーい姉ちゃん、追加頼む!」


 アントニオさんはテーブルからカウンターのお姉さんに追加のビアジョッキを依頼した。


 そんなアントニオさんを見ながら、ロイドさんはやれやれと肩を竦めている。1人で勝手に酒を飲んでいることに呆れているのだろう。


「そもそも何のお祝いなんだ……」


「そりゃお前……あれだ! 怪物ぶっ倒した祝いだぜ!」


「倒したのはクロエくんだが……」


「いいじゃねぇか、細かいことは気にするな! いいからロイドも飲め!」


「まったく、キミは……。仕方ないな……」


 言いつつも、ロイドさんも満更ではなさそうだ。

 それからエルーさんも合流し、急に始まった飲み会は夜まで続くのだった。

 

  



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