表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不都合な真実  作者: 豆青
5/8

入部届

 皿洗いを終え、ダイニングテーブルを見ると中学校からの手紙が置かれていた。一通り目を通していると、はらりとB6サイズの小さな紙が落ちる。見ると、入部届だった。記入欄は空白。しかも届の締め切りは今日だった。

 丁度扉が開いて風呂上がりの朋彦が顔を覗かせる。

「お先」

「あー、朋彦。部活のことなんだけど」

 自室に向かおうとした朋彦を呼び止めると、明らかに不機嫌な表情を浮かべる。

 数秒俺を睨んだ後、ハアとため息を吐いて帰宅部とだけ答える。

「帰宅部?体験入部はしてみたのか?バスケ部とかサッカー部とか、野球部とか」

「僕は父さんみたいにスポーツの才能はないんだよ。野球の面白さだって分かんない」

「運動部である必要はないだろ。この学校部活多いし、ひとつくらい興味がある部活に」

「ない。絵の才能はないし。音楽も音痴で音感もない。家に帰って勉強と家事で精一杯」

「才能の有無じゃなくて。家事は俺がやるから朋彦は中学生らしいことをしていいんだぞ。シングルファーザーだからって無理して自分のやりたいこと我慢する必要ないんだ」

「我慢?」

 息を荒くさせながら、眉根を寄せる。怒っていることは一目瞭然だった。

「家事と勉強をするために他に向ける熱量や時間を削ってるだろ?」

「僕は僕の意思で生きてるんだ。部活にはただ興味がないだけ。土日を部活でつぶすくらいなら図書館に行って本を読んだり、雲一つない青空の日に洗濯物を干したり、商店街の人と話す方がずっと楽しいんだ」

 怒りのまま朋彦は入部届をひっつかむとビリビリと破ってしまった。鼻息を荒くさせ、口早にいう。

「家事と勉強のために他に向ける熱量を削ってるだって?ちゃんと僕はしたいことの優先順位を決めてる。勉強だって嫌いじゃない。部活よりもずっと好きなことなんだ。熱量を削ってるってまるで…」

 言葉が詰まる。母に似た朋彦の大きな目にはみるみる涙が溜まっていく。

 俺から顔を隠すように踵を返すと、ダイニングを出て行った。階段をバタバタと上る足音が響く。そして数秒後には家が揺れるほど乱暴に扉を閉める音が響いた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ