プロローグ
目の前には大量の花に囲まれた両親の遺影があった。隣で兄が幼子のように泣きじゃくっている。
俺はそんな兄をちらりと見ただけで、両親の遺影に向き合った。
あまり写真が好きではなかった両親。そんな二人の遺影は、俺の記憶の中の二人よりずっと若く見えた。
両親と最後に会ったのは半年前、空港で二人に別れを告げた時だ。
「一流の野球選手になって帰ってくるよ」
そう約束して。
俺は一八歳、ドラフト五位でプロ野球球団に入団した。
一軍のスタメンにはいつなれるのか。不安と期待が渦巻く中、一軍選手が怪我をした。チームにとっては不運だが俺には好機だった。スタメンに抜擢され、その試合で猛打賞、好守備の活躍を見せた。
正二塁手の座を奪うチャンス。そう思った矢先、実家が火事で燃えた。その火事で両親は命をおとした。
両親の葬儀と正二塁手の座。二つを天秤にかけたとき、俺は後者を選ぼうとした。が、
「スタメンのチャンスは何度もくる。俺だってもう選手生命長くない。今のお前ならいつだって正二塁手になれる。だがな、親の死に目には二度と会えない。人は二度、死なないから」
訃報を聞いた俺の所属する球団の正二塁手、森選手が骨折した足を引きずってまで俺を訪ね言った。
それでも尚、俺は首を横に振る。すると森選手が俺の肩を掴み、凄んだ。
「本当はお前に正二塁手の座奪われるんじゃないかって怖えんだよ」
「森さん」
「だからって嫌がらせで言ってるんじゃない。お前の一ファンとして、応援してる。正二塁手になると信じてる。だから親に別れを告げてこい。そうしないと野球を辞めた時、お前は今のお前を恨むことになる」
両親の遺影を見ても尚、今の状況が信じられない。
棺に眠る二人は安らかな顔で眠っている。
帰ってきてよかったと思う。
隣で嗚咽を漏らす兄の肩に腕を回した。たった一人になってしまった家族を強く強く抱きしめる。
「俺、プロで活躍するよ。青柳文彦の名をプロ野球史に残すんだ」