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第二十一話 罠

今回は短いです。


最近どのくらいの長さにしたらいいのか

わからなくなりました。

サラセンの騎兵が街道を行く。東から西へ、キリスト教徒の村々を巡って。だが、何かには手掛かりになりそうなモノは無かった。


 唯一手掛かりになりそうなものと言ったら、サラセンの商人から聞いた、どこぞの商隊に、アラビア語を解する少女が乗っていたと言うことだけ。


 まあ、俺としては見つからなくてもフロランの首が飛ぶだけで、被害はないのだがな、とムジャーヒドは考えていた。


 トレド司教の異端学説は、ほんのちょっぴり、攻め入る理由付けに色を添えるに過ぎない。


 寧ろ、キリスト者に衝撃が大きいのではなかろうか。キリスト教会も、カステーリャ王国にも気勢が削がれる事になるのでは?


 そう考えれば赤子は確保したほうがいいのか。いや、無くてもトレド司教を捕まえるだけで良いかもしれない。


 ウマルの間諜どもを使う許可は要るかもな。等と考えていた。


 一方フロランは、村を回る度、手掛かりが失われて行くので、食も細くなり始終吐き気を覚えるようになっていた。


 手掛かりが無くなる原因は、ムジャーヒドとその配下の騎士達が、手がかりと思われるものを殺害しているので真に本物かどうかわからないことにもある。


フロランは一度ムジャーヒドにそんなに殺しまわっていては手掛かりがなくなってしまう、と小さく抗議をしたのだが、ムジャーヒドが

『真摯に(アッラー)と向き合えば自ずと判るはずだ』


私は、キリスト教徒で(アッラー)の信奉者ではないのだが、と言いたいのをぐっとこらえ、同時に胃痛を覚えた。


 南側の村を回った時、修道院の尖塔が見えた。

「あれは何だ」

と聞いてくるムジャーヒドに

「修道院の尖塔です」

とうっかり答えてしまった。


「修道院というのはあれか、キリスト教徒の寺院か」

「いえ違います、信仰を深め自分自身を律するための場所です」

フロランは、答えたことを悔やんだ。

 ムジャーヒドが興味を持ってくれなければ良いのだが。とあまい観測をしていたが、

その思いは外れ、


 ムジャーヒドは

「面白そうだな。行ってみるか。キリストの坊主がどれ程黄金を蓄えているか、確かめてみなければな」

 そう、周囲に声をかけると、笑い声がいくつも上がった。


「おやめ下さい、修道院は祈りの場でございます、黄金など」


「はは、行ってみなければ判るまい。茶でも振る舞ってもらえるかもしれんぞ」


 まさか、そんな高級な嗜好品などあるわけがない。と思ったが、ムジャーヒドに異をとなえるのが恐ろしかった。


修道院までくると


門の前に馬首を回す。

「あれは何と書いてある」とニヤニヤしながらフロランに聞いた。


「シトー会、ベネディクトゥス修道院です」


そうか、と答えると


「よし、全員馬から降りろ。これから基督坊主の寺の黄金を探すぞ」

フロランは半狂乱になって

「お待ちください、おやめ下さい、シトー会の修道院です、修道士は全員信仰に篤く」


と言ったところで、口に丸めた布切れを押し込まれ、猿轡を咬まされた。


サラセン騎士たちは、寺院の思い思いの場所に散らばり、修道士を手当たり次第に殺していった。やがて、殺戮が終わると、全員中庭に集まり、獲得物を持ちあったのであったが。


「おい、これっぽっちしか無かったっていうのか」

とムジャーヒドが言った。

「ええ。金目のものは全然。坊主も一ディルハムも持ってませんでした」


「どうなってるんだ、この寺は」


といって、フロランの猿轡を外し、答えさせた。一息ついたフロランは、


「シトー会は清貧の修道会です。図象(イコン)は勿論、像にだって祈りをあげません。あなた方も像には祈りをあげないでしょう。その方々を弑したのですよ。あなた方は」


「ふーむ。そりゃ悪いことをしたなぁ。このままだとこの坊主どもも死に損だな。よし、坊主のために、もうすこし金目のものを探すか」


ムジャーヒドにとっては名目などなんでもよく、暴走しがちな部下を満足させるために金、女、戦い、を定期的に与えて満足させなければならなかった。


フロランはフロランは項垂れて、己の小心と無力さを儚んでいたのだった。


* * * * *


 修道院を襲撃した後。ムジャーヒドの部隊は西に向かっていた。


 騎士達の意気は高い。


 昨日の修道院では金目のものは見つからなかったが、良い酒と、食物が手に入ったからだ。酒は「今日の働きに免じて(アッラー)もお見過ごしになろう」とムジャーヒドが宣言したので、皆心ゆくまで楽しんだ。


 フロランはまるで、食べ物に手が出なかった。一塊のパンを食べただけ。それ以上は喉を通らなかった。


意気揚々として騎士達が進んでいると、先頭の騎士の姿がふ、と見えなくなった。それに気が付かない騎士が次々と進み五十騎ほどが見えなくなったところで


「まて、止まれ止まれ」

というムジャーヒドの声がした。

「なんだ?どうなっている?先頭の五十騎はどこにいった」


 そう周りを見渡しても道が繋がっているだけ。ただ、騎士達が消えたという点が普通の道と異なっている。


「魔術」

ぽつりとサラセンの騎士が呟いた。


魔神(ジン)が呪いでも使ったというのか」

「いえ、そうではありませんが、魔術がかかっている気がして」


「馬から降りて、来い」


そのサラセンの騎士は短く答えると、ムジャーヒドの側によった。


「ここから歩いて、どこまで行けるか確かめろ」

 ぎょっとする騎士を追い立てて前に進ませると、二十ピエも行かないうちに姿が見えなくなった。

「まずいな。罠の中に嵌まり込んでしまったようだ」

「いかがなさいますか」

「全員、此処から後退しろ。静かにだ。静かに後退するんだ」


 後退してみると、道はまっすぐ続いているように見える。


 魔術としてではなく、罠として考えろ、とムジャーヒドは思った。


 配下五十騎が消えて亡くなった。この罠を作るには相当手間がかかるだろう。では手間をかけるべきところは何処か。決まってる。この街道だ。では街道を外れたらどうなる?そこまで手間をかけるだろうか。


 或いはかけるかもしれないが、その可能性は低いだろうな。とは言え、十分注意することが重要だ。


「全員この場所から一ミィラ(約一.六キロ)迂回するぞ」


何しろ、これだけの罠を仕掛けたのだ。目的のものはこの先にいる。

ムジャーヒドの心は柄にもなく急いた。


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