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ざまぁ×2(その頃の駄犬、そして泥船)





その頃の駄犬たちはあの後なんやかんやあって自分たちを庇護している王城に来ていた。ゼノムを追放する直前に終わらせていた王からの依頼の報告をするためである。



「よくぞ戻った勇者ダケン。此度の戦いも一騎当千の働きぶりだったとか。褒めて取らす」


「ありがたき幸せ」


「ところで……なぜ皆頭巾を被っている? そなたら、被り物は動きに支障が出ると言って使わぬのがこだわりだったのでは?」



 そう、ダケンたちは自分の顔を売るためにあえて被り物はしない主義だったのだ。だが今彼らは顔全体を覆うような布を巻き、妖しさ満点で王の前に跪いている。彼が持っている聖剣と彼らの知り合いの騎士団長が通りがからなければ門前払い寸前だったのだ



「えっと、そう、この戦いで私たちは顔を大きく傷つけられ、顔を守ることも重要であることを知ったのです。それだけ今回の戦いは激戦でした」


「そうかそうか。しかし激戦を戦うものの顔を見ずにというのは王として心苦しい。顔に傷があろうともそれは美しき勲章、その布を取っておくれ。明日も知れぬ老い先短い我が身、英傑の顔を見ずして労うことは出来まいよ」



 この王自体は賢君で国の運営についても悪くない。だが勇者の暗躍については知らない。彼の息子である王太子が傲慢な貴族やダケンを使ってやらかしまわっているのだ。国王の胃と毛根が大変なことになるまでカウントダウンは始まっている。


 ここで困ったのがダケンである。



「その、まだ傷が治り切っておらず、決して王に見せられるものでは……」


「よいよい、余は大丈夫だ。ここには傷を見慣れぬものはおらぬ。さぁ、顔を見せておくれ」



 ここで王の頼みを無碍にするわけにはいかない。王の前ではちゃんとした勇者をやっているダケン一行は恥を忍んで頭巾を取る。そう、トンスラスタイルの頭を国の重鎮たちに晒した



「だ、ダケンそなた……その髪型は……」


「あれは……教科書に載っていた昔の聖職者の髪型……」


「ムダ知識瓦版に書いてあったな、確かトンスラだったか」


「何ゆえ勇者殿はあのような髪型に……」


「しかも聖女殿と聖騎士殿までトンスラに……」


「今の協会でもあんな髪型は見かけんな」


「廃れたのが数十年前ですから致し方ないかと」


「それにしても、見事に剃られているな……輝いていないか?」





 そこに居た者たちの反応は困惑と疑問。そして僅かな嘲笑である。ダケンたちは人間のクズではあるものの見た目は上の上にあたる。ダケンの髪は綺麗に整えられた美しい金髪だが、頭頂部のテカリが異様な存在感を放ちどうしようもない滑稽さを滲みださせる。一言で言うなら見続けているとどうしようもなくジワってくる。



「……クフッ、ゴホン! 失礼、喉の調子が」


「グフッ、ゴホンゴホン! 失礼、先ほど飲んだ紅茶が喉に引っ掛かったようだ」


「ブフフっ、失礼、どうも今日は空気が乾いているようでいけませんな、ゴホンゴホン」



 こらえきれない上流階級の者が数名いる中、王は依然としてその態度を崩さない



「ほう、昔懐かしい髪型をしておるな。この戦いが終わったら出家でもするのかな?」


「いえ、決してそのようなことは……」



 苦々し気な表情で答えるダケンに微笑みながら問う王。王の隣に立つ宰相は気付いていた。このおうさま、微笑んでいるふりをして極限まで細目にして出来るだけダケンたちを視界に入れないようにしてやがる。ダケンが頭巾を取った瞬間宰相は王の肩が一瞬揺れたことを見逃さなかったのだ。



「ふむ、まぁ髪型は個人の好きにするといいだろう。これからもよろしく頼むぞ勇者よ」


「はっ」



 そしてダケンたちは謁見の間を出る。重厚な扉がバタンと閉まった瞬間扉の向こうから小さく複数の嗤い声が聞こえてきた。この扉は一応防音の機能もあるのだが、それを貫通して聞こえてくるということは、今頃謁見の間は大爆笑に包まれているのだろう。


 ダケンたちは奥歯が砕けんばかりに歯を食いしばりながらズカズカと王城を出ていった。



 王城ではなぜか王と重鎮たちが過呼吸を起こしたとかでちょっとした騒ぎになった。






「クソがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!! あのクソ虫野郎ォォォォォォォォ!!!!!! 全身引きちぎってクソ壺に叩き込んで燃やしてやるゥゥゥゥ!!!!」


「やめろアルミナ!!!!!! 声がデケェ!!!!!」


「お前も声がでかいんだよアルベール!!!!!!」



 前途多難そうですね(笑)







ЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖ



 一方その頃のゼノム達は宿屋でリリアと食事ついでに新たに覚醒したスキルについて話し合っていた。クルミの搾りかすで嵩増カサマしされたマズいパンをちぎり、それほど旨いわけでもないスープに沈めて食べながらゼノムはため息をつく。



「この砂塵の覇王の加護ってなんなんだ、心当たりあるか? 明らかにラーセリオスに関連してるよな?」


「そうだな、このスキルは我が父であるラーセリオスが気に入ったものに授けるスキルだ。私ももちろん持っている」



 ゼノムと同じメニューを食べるリリアも舌は人間と変わらないのか、食事を口に入れるたびに少し眉間にしわが寄る。やっぱりマズいものはマズいらしい



「どういった効果なんだ?」


「土属性の魔法の亜種、砂属性の魔法が使えるようになる。砂漠の環境に適応し、砂がある場所なら一騎当千の魔法を使えるぞ」


「砂属性? お前の砂の刃やら砂のトゲやらが俺にも使えるようになるってことか?」


「砂を操るどころか砂漠に起こるあらゆる現象を操れるスキルだ。強力だぞ、砂のない場所なんてないのだから。さらにスキルのレベルが上がると自在に操れる砂の範囲が広がる。私くらいになると相手のいる場所だけに砂嵐を起こしたり極低温にしたりできる」


「スキルを持つ者が砂漠そのものになったみたいなだな……」


「砂塵の覇王の友愛を手にしたものだけが手に入れられる覇王の信頼の証だ。人間で手に入れたものはおそらくいないだろう。父上はただ強いものには興味がない、だから私もゼノム殿が父に気に入られているのにとても驚いている」


「だろうな……俺だっていまだに信じられんよ」



 マズいパンを片付け、皿を持ってズゾゾとスープを飲み干す二人。味は良くなかったが、一先ず食欲は満たされた。お代を机の上に転がし二人は席を立つ



「さて明日に備えてもう寝るか」


「よし、初夜だな!」


「ほざけ、ベッドは別だ、ちゃんと二つある部屋だ」


「密着すればいいだろう」


「お前のソレは密着してどうにかなるモンじゃねぇだろ」


「私が覆いかぶさる形であれば……」


「しないっつってんだろアホ」



 ウザ絡みする彼女とそれをあしらうクーデレ彼氏のやり取りに居合わせた客たちは嫉妬で歯ぎしりしたり苦笑いしたりと反応はそれぞれだが、数人だけゼノムに食って掛かった者達が居た。以前ゼノムが飲み勝負でノした激流の泥船である。最もゼノムに食って掛かっているのはリーダーのみで他のメンバーは申し訳なさそうに会釈してきた。



「ゼノムぅ!! 貴様この野郎が!!」


「お、お前らか。確か、沈みかけの泥船だっけ」


「激流の泥船だ!!!」


「あーそうだそうだ。そんなかんじのアレ。なんだ?」


「イイ女連れてるじゃねぇか。センパイである俺に寄こせよ!」



 欲に目が眩み傲岸不遜そのものとなった泥船リーダーがゲスな笑みを浮かべながらリリアを嘗め回すように見やる。その様子を見てゼノムはむしろ憐れみを浮かべていた



「やーめとけやめとけ。死因・腹上死なんざ冒険者としちゃサイアクもサイアクの死に方だろ? 墓に刻むならもっとカッコいい死に方を墓標に刻みたいもんだ」


「安心しろよォ、俺はお前よりは絶倫だぜ?」


「お前このインセクタで暮らしときながらギルタブリルの事知らねーの? オイオイオイオイ、死ぬぞお前」



 嘲笑の笑みを浮かべゼノムは呆れたように頭をかく。自分を恐れずむしろ嘲るような態度のゼノムに泥船リーダーは青筋を浮かべる



「なんだと?!」


「その辺のお前のセンパイにギルタブリルについて教えてもらいな。頼むぜ皆! ちょいと教えてやってくれないか? この哀れな子羊によ!」



 道化のようなおちゃらけた口調で周りに居た客に話しかけるゼノム。周りの冒険者たちは楽し気に笑う



「おう泥船の、俺らも頭はよかねぇ方だがよりにもよってそのネーチャンに手を出すのはなぁ?」


「よっぽど田舎から来たのか? 最近来たばっかのゼノムよりもモノ知らずとはな!」


「なんだと?!」



 下品に笑う冒険者たちに激昂する泥船リーダーだが、いつの間にか仲間は自分を置いて部屋に引っ込んでおり味方は一人もいないことに気付く



「ラストギルタブリルにとって男は使い捨ての種袋だ、男にとっちゃオタノシミどころかマジの意味でのタマのり合いなのさ。いや、取り合いどころか一方的に取られるんだが」


「ヤベェヤツになると拉致るだけ拉致ったら毒打ち込んで悶えさせて、その様子を見て愉しむヤツもいるとか。そのネーチャンがそういうシュミかどうかは知らねぇか、そういう劇毒は持ってるだろうさ」


「さらにその毒は魔力を帯びてるせいだったか? 普通の解毒ポーションが役に立たないと来た。マトモな冒険者なら手ェだそうと思わねぇだろうさ、誰だって死にたかねぇだろうよ」


「そもそも他人ヒトの女を盗ろうとするヤツなんざ冒険者の、いや人間の風上にも置けねぇな。タマ取ってオカマにケツでも掘られてろよ、ギャハハハ!!」



 堪忍袋の緒が切れたのか、顔を真っ赤にして抜剣する泥船リーダー。剣を振り上げようとした瞬間



「私は人間の礼節は知らん。が、こういうのは排除すべきもの、というのはわかるぞ」


「ひぎぃぃぃぃぃぃ?!?!」



 突然泥船リーダーが泡を吹いて倒れ悶え始める。いつの間にやらリリアが泥船リーダーの背後に回り、毒の針を突き刺したのだ。



「貴様に打ち込んだのは限界まで感度を上昇させる毒だ。どうだ、タダの衣擦れなのに気絶するくらいの快感を感じるだろう? 私と私の伴侶となる男を侮辱した罪咎、身を以てよく味わうことだ」



 泥船リーダーが薄れゆく意識の中で覚えていたのは、赤い目の恐ろしい男の邪悪な笑顔と美しくも寒気がするほどの恐怖を掻き立てる美女の微笑みだった。





駄犬たちはプライドのカマタリなので自分より弱い者たちからの嘲笑がクリヒットするのです。泥船? 水に付けたら一発よ←

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