イチゴ採取してたらどエラいオマケが付いてきた(滝汗)
後日、ゼノムはインセクタ王国王都の入り口の近くに居た。なぜそんな中途半端なところなのかと言うと
「うん、まぁ中堅冒険者の俺としちゃ褒美なんて貰えるモンは貰っときたいけどさ」
『そうだろう、砂漠の民の王たる我が父から下賜された品々だからな。人間からすればどれも垂涎の逸品ばかりだろう』
「それはいいんだよ。まぁ俺じゃ手に負えなさそうな魔導具とかは置いといてだ。なんで一番手に負えなさそうなキミが付いてきてるんですかねぇ?」
『ははは、面白いことを言うなゼノム殿は。私を打ち破っておいて手に負えないなど』
「そうだけどそうじゃねぇんだよぉぉぉぉ!!!!!!」
ゼノムの背後には金銀財宝や魔導具など貴重品の入った巨大な袋を背負う巨大なサソリと、他でもない砂漠で戦ったリリアが付いてきていた。
「なんなんだよ……どうしてだよ……展開に付いていけないよ……」
『何を落ち込むゼノム殿。私と言う一騎当千の嫁を手に入れたのだ、むしろ喜ぶべきところではないか?』
「男にゃ色々とあるんだよ……とりあえずそう思っといてくれ……てかまだ嫁とは認めてねぇ……」
『安心してくれゼノム殿、私はお互い了承の上で子を成したいと思っている。だから寝込みを襲うようなマネはしないと誓おう。ゼノム殿からならその限りではないが』
褐色の頬を少し染めながらリリアは甘い声色でゼノムの耳元で囁くが、ゼノムのテンションは全く上がらない。いや、肩甲骨の辺りに感じる柔らかい感触にちょっとだけテンションは上がっているが……気持ちはまんざらではないものの、中堅として堅実にやって来ていたゼノムにはキャパシティオーバーな面倒ごとだ
『ダンナ、こういうのは断れませんぜ。リリア様をぞんざいに扱ったが最後、人間の住処が全部砂漠になりまさァ』
「わかってるんだよ……てかお前も巻き込んじゃってホント申し訳ない……」
『いいンすよ、おれァ。ハサミだってダンナに治してもらった訳ッスから』
お察しのとおりこのサソリはあのデスコーピオンだ。ゼノムが流砂に飲まれ取り残されたデスコーピオンは折れたハサミにヘコみつつも放浪に戻ろうとしたのだが、ゼノムが帰宅する際に足がないとのことでラーセリオスに呼び出され再びゼノムと合流したのだ。ラーセリオスは砂漠の砂を自由に操ることができ、流砂を発生させ相手を沈め自分の下に手繰り寄せるという恐ろしい技を持つ。砂漠はラーセリオスの掌の上なのだ
大概このサソリも不憫だが、ハサミをポーションで治してもらったので機嫌も直っている。こういうところは虫だなって
「とりあえずお前らはここで待っててくれ、このまま街に入るのは色々とダメすぎる。ひとっ走り行ってくらァ」
『『了解』』
刹那、ゼノムはその場から姿を消していた。瞬間移動ではない、超速移動である。ちなみに使った虫の能力は……いや、言わぬが華だろう。ヒントは地上最速の虫である。
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「ということでちょっとデスコーピオン一匹とラストギルタブリル一人の入場許可証くれ」
「どぉしてそうなったんだぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
「俺が聞きてぇわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
案の定インセクタ冒険者ギルドのギルドマスターの雷である。この時からギルドマスター(四十五歳・バツイチ独身)の毛根は破滅への道を一歩一歩確実に歩んでいくこととなる。
「あ、デスコーピオンの方は荷物だけ運んでもらったら帰ってもらうから、大丈夫大丈夫。運んでもらった荷物の査定も頼むから、そこんとこヨロシク」
「ラストギルタブリルは?! そっちも帰ってもらえるんだよな?!」
「ファラオギルタブリルと謁見したと思ったらその娘のラストギルタブリルが嫁に付いてきた、もう笑うしかないぜHAHAHA☆ 断ったらこの国が砂漠に沈んじゃうからNE☆」
「クソが!!!!!」
インセクタ王国でそこそこ長い間ギルドマスターをやっている彼はラストギルタブリルの危険度を知っている。もちろんあの大森林の危険も、砂漠の支配者についても
「王様ってあの砂塵の覇王だろ? ヤツに気に入られるなんざお前はどうなってんだよ……」
「俺が一番不思議に思ってるよ……イチゴ採取に言ったら嫁が付いてきた、何が起こってるのか俺にもわからん」
さすがにデスコーピオンを町に入れるわけにはいかないのでギルドマスターは荷馬車を多数手配、ゼノムが下賜された荷物をギルドまで運搬することとなった。リリアに関してはラストギルタブリルは意思疎通可能な魔族という扱いなので、ゼノムに監視を命じギルドマスター権限で許可証が発行された。このインセクタ王国も砂漠の民の存在とその恐ろしさは既に知っている為、ヘタに藪をつついてヘビを出すようなことはしない。出てきたのはサソリだが
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数時間後、冒険者ギルドにて
「これはスゴい、なんて金の純度の高さだ……砂漠のギルタブリルは金細工を得意とすると聞いたことはあるが、ここまでとは……さらにパッと見ただけでわかるほどの貴重な魔導具の数々……全部合わせて天井知らずの価値になるな。さらに別嬪の嫁まで貰ったんだろ? よかったなゼノム、お前一生左団扇で暮らせるぞ」
ギルドのベテラン鑑定士が茶化すように笑う。未だ釈然としていない表情のゼノムだが、隣のリリアは鑑定士の言葉に胸を張っている
『当たり前だ、我々ギルタブリルの歴史は金と共にあったと言ってもいい。人間よりも永き間砂漠と金に向き合ってきたのだ、このくらい我々の間ではありふれたものだ。それに私は尽くす女だぞ、ゼノム殿』
「あーあー、甘い空気はオッサンには毒だぜ。家帰ってやってくんな」
『あぁ。ではなおじさん。帰ろうか、ゼノム殿』
リリアは処理落ちして動かなくなったゼノムを背中に乗せてギルドを出た。なぜゼノムが処理落ちしたのか。それはゼノムの脳内で突如聞こえてきた謎の声のせいである。
『砂塵の覇王の加護が付与されました』
おま〇け
リリア
銀髪褐色赤目下半身サソリの花も恥じらう女の子。胸部装甲は大。いつもは凛々しい雰囲気だが身近な人の前では割と世間知らずなフワフワした雰囲気。砂漠に棲まう一族の王族。ちょっと属性盛りすぎじゃない? 自分を打ち破り父に認められたゼノムという個体に興味を抱いており、夫婦の契りを結ぶのも吝かではない。恋愛というものをわかっていないのも大きいが