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砂漠に棲まう王の中の王






 サラサラという乾いた音が耳朶に響く。全身に感じる乾いた砂の感触と鼻につく砂の匂い。うつ伏せに倒れたゼノムは意識を取り戻し、手に砂を掴む。刹那、直前に自分に起こったことを思い出しすぐ立ち上がり姿勢を低くし辺りを見回す。


 どうやらここは砂漠の地下洞窟のようだ。砂漠といえど地下なので地上より温度はひんやりとしている。自分が落ちてきたと思わしき場所から砂漠の刺すような日差しと砂が降り注ぎ、砂山を作っている。と、その砂山の端に己の得物が突き刺さっているのが見えた。辺りを警戒しつつ急いで回収する。



「フゥ……どうしたもんかなぁ」



 脱出は出来なくもない。だがここに落ちる直前聞こえた声は自分を呼んでいるようだった。ヘタに帰れば何が起こるかわからない、素直に行けば即死はないだろう、と希望的観測をしたゼノムは渋々地下洞窟の奥へと歩みを進めた。






ЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖ



 奥へ奥へと警戒しながら進んでいくと、突然広い空間に出てきた。辺りには巨大な水晶らしきものがところどころ生えており、さらにその奥に巨大な水晶の宮殿が存在していた。水晶自体から微量の魔力が漏れているらしく、ゼノムはピリピリと肌に刺激を感じていた。ここで育つ生き物が強力になるのもやむなしだろう。先ほどのデスコーピオンやリリアがいい例だ




「マジかよ……やっぱこの大森林おかしいぞ……」



 念には念を重ね、鉈鎌に噛んでいた砂を落としたり自分の戦闘道具を整えたらゼノムは宮殿へと歩を進めた。水晶の宮殿は何もかもが水晶で出来ているが透明度は微妙に低く、向こう側は見通せそうにない。巨大な扉を押し開けようと手を伸ばした瞬間、扉の向こう側から大きな声が響いてきた。あの時の声だ。



『入るがいい、訪問者よ!! 我が目に留まりし強きものよ!! その武勇を余に示してみるがいい!!』



 上等だ、とっとと帰って報酬を貰ったら明日は休んでやる。決意を込めて大扉を押し開ける。天井から埃を落としながら大きな扉は徐々に開いていく。





 宮殿内部は非常に広く美しい水晶と黄金で作られており、思わずキョロつきながらゼノムは進んでいく。と、最奥に次の部屋への扉らしきものが見えた。その扉も不遜に開け広げ、ゼノムは内部に突入した。そこは玉座の間らしく、一際飾りや装飾が豪華であらゆるものが魔力を発し続けている。そして玉座のある部分に鎮座していたのは強力な魔族だった。声が聞こえる距離まで近づき、跪いてコウベを垂れるゼノム



『大森林よりよくぞ来た、来訪者よ。名乗れ』


「……インセクタ王国より来た、冒険者ヴェルゼノム・セルクタス。召還に応じここへ来ました」


『ふむ、ヴェルゼノム。余は砂漠の支配者たるファラオギルタブリル、ラーセリオスである!! 頭を上げよ、対話を赦す』



 ゼノムが頭を上げると、そこにはリリアよりもずっと巨大なサソリの下半身を持ち、筋骨隆々の褐色の男の上半身を持つ砂漠の支配者『ファラオギルタブリル』が腕組みをし威風堂々と佇んでいた。彼の射るような目線にとらわれた瞬間ゼノムはゾッとするほどの威圧感と怖気に襲われる。強い。正直リリアとも比べ物にならないレベルの強さだ。砂漠の支配者の異名はダテではないようだ



『貴様は余が砂漠の守護者を任せたリリアの障壁を突き崩し倒した。永き間この砂漠を護ってきた一族の守りのカナメであるリリアに勝利したのだ。意味は分かるな?』



 ニヤリと笑いながらラーセリオスは言う。ここからだ。どうにか今回の事について穏便に始末をつけなくてはならない。リリアと戦ったときに既に体力は一度尽きている、帰還できるくらいには体力は戻っているもののさすがにこれ以上の連戦は死だ。ここでラーセリオスの機嫌を損ねれば確実に殺されるだろう



「発言の許可を貰いたく」


『赦す』


「私とリリア様が衝突したのは正直に言えば私のせいにございます。知らずとはいえ砂漠の王たるラーセリオス様の治める土地を騒がせてしまったこと、深く反省しております」


『ほう? それで? 見たところ貴様は理由なき悪意をばら撒くタイプではない。貴様は何を求めてこの地へ来た?』


「シャボテンイチゴの採取にございます。私は冒険者という職業でして、依頼人に頼まれたモノを探し出し、それと引き換えに糧を得るのを生業としております。その依頼には集める物の規定量がありまして、周囲の砂漠を周りイチゴを採取して回ったのですが、どうしても二粒足りず、この地に」


『ふむ。そしてリリアと戦闘になったと。ほうほう。だが貴様をここに連れて着たのはあのサソリだろう。過失はあれにあるのではないか?』



 腕組みをしながら不敵に笑うラーセリオス。どうやら手段は不明だが彼には砂漠を監視できるスキルのようなものがあるのだろう。力だけではなくスキルも支配に特化しているようだ。だがゼノムの態度は崩れなかった



「いえ。あのサソリを力でねじ伏せ言うことを無理やり聞かせたのは紛れもなく私でございます。彼は不幸にも私に巻き込まれただけの被害者なのです。彼に関しては、平にご容赦を」



 正直あのデスコーピオンには悪いことをしてしまったと思っている。迎撃するのはまだしも無理やり突き合わせて巻き込んでしまったのだ、この窮地を脱したら彼のハサミをポーションで治してやらなければならない



『クフフ……フハハハハハハハハハ!! 面白い。我が真贋の瞳を通してでも同じ言葉が聞けるとは!!! よい、赦す!!! ヴェルゼノムの言葉に偽りなし、今回の事は不問とする。リリア!!』


『ここに』



 どうにか赦しを貰えたゼノム。ちなみに真贋の瞳とはあらゆるウソや虚構を見通し見透かす、『嘘つき絶対殺すスキル』である。スキルレベルが高いものだと相手に弱体異常をかけることもできる恐ろしいスキルだ。人間相手ならまだしも、虫魔物や魔族相手にウソはほとんどつかないゼノムは命拾いした


 ラーセリオスがなぜかリリアを呼びつける。内心一安心していたゼノムだが、虫の知らせだろうか、なんとなく嫌な予感を感じ取る



『ヴェルゼノム。余は力を好む。帰還の前に余にリリアを破った力を見せてみよ。その力が汝にふさわしいか見定めよう。リリア』


『はっ。砂塊木偶サンドバッグ!』



 リリアが唱えたのは特訓用の木偶魔法の一種だろう。冒険者ギルドでもこの木属性バージョンが使われており、木製の木偶人形相手に新人冒険者が教官から武器の使い方を学ぶ大事な魔法の一種だ。リリアが創り出したものは砂漠の民らしく砂の塊で出来た木偶人形だ



『これに向かって汝の全力を叩き込め。何、結果は問わん。終わればちゃんと帰してやろう』


「わかりました」



 試されているようだ。以前ゼノムは人間の王の御前で同じようなことを要求されたが、あの時は特に目立った能力もなかったので事前に断っておいた。だが今回は違う。完全覚醒した虫使いの能力を存分に発揮するとしよう。………帰りのスタミナは残しておくが




轟雷甲虫ミョルニルコガネ神速蜻蛉ソニックドラゴンフライ暴食飛蝗グラトニーホッパー



 呟くように、しかし確実に。力を借りる虫たちの名前を呼ぶ。名を呼ぶたびに虫の幻影がゼノムの身体に重なり、力を爆発的に増幅していく。虫使いの特異な能力の一つ。力を借りる際に相性のいい虫のスキルを組み合わせると、足し算ではなく乗算方式で出力パワーが跳ね上がっていくのだ。


 轟雷甲虫と神速蜻蛉の能力でゼノムは黄金の雷と肉眼で見えるほどの暴風を纏う。やがて雷と暴風が徐々に右足へと収束していく。



爆雷神脚ライトニングソニック



 そう呟いた瞬間ゼノムは空中高くへと身を躍らせる。そして身を縮め、まっすぐ標的へと黄金のイカヅチを纏う右足を向ける



「ウェリヤァァァァァァァァァァ!!!!!!」



 ゼノムが叫んだ瞬間、砂塊木偶が跡形も残さず粉々に蒸発・・した。そして砂塊木偶の在った場所からずっと後ろに、未だ雷と暴風を纏ったゼノムが佇んでいた。



『クフハハハハハハハハハ!!! 久しぶりに心躍る良き時であった!! ヴェルゼノム・セルクタス!! 汝を砂漠の民の友とする!! 存分に褒美をとらそうぞ!』


「ありがたき幸せ」



 ゼノムは自分の力を強者に認めてもらえたことで、確かに自分に自信を持った。






どうでもいい呟き

ファラオギルタブリルの声は多分子安さん。リリアは多分能登さん。ピンと来た人とは仲良くなれそう

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