砂塵に舞う刃
「(砂漠のサソリは基本的に猛毒。獲物の少ない砂漠で確実にメシにありつくために確実に殺すために猛毒特化に進化しているはずだ。まぁ魔物には当てはまらないだろうが……その証拠にヤツのハサミ。超怪力を得る鬼神カブトムシのスキル『超力』を使ってなかったら解体されてただろう。とりあえず、やれるだけやってみますかね)」
幸いにもゼノムはグランドアーマードダンゴのおやっさんからスキル『大陸渡』をコピーしている。大陸渡とはこの地上にあるあらゆる地形をものともせず踏破することができるスキルだ。それは砂漠地帯も例外でなく、まるで普通の地面を歩くがごとく砂漠を歩けるのだ。
虫は住んでいる場所によって適応、そして進化しながら生きている。この世界で虫のいない場所はほとんど存在せず、それを味方に付けられるゼノムもまた行けない場所はないのだ
わさわさと脚をバタつかせもがいていたサソリが再び起き上がり、巨大な鋏をガチンガチンと鳴らして威嚇する。見たところ体高五メートルほど、尻尾を伸ばせば体長は十メートルの大台に乗るか。タイタンデスコーピオンである。巨人のサソリの名はダテでなく、数こそ少ないもののその危険度は非常に高い。強力なピンチ力のハサミ、不安定な砂漠をものともせず踏破できその走る速度も半端ではない。さらに強烈な猛毒と強酸を尾から使い分けて放てるという絵に描いたような恐ろしいモンスターだ。
だがゼノムは怯まない。大型の虫魔物の相手は慣れている。
タイタンデスコーピオンが猛毒を内蔵した尾をこちらへ向けてくる。それを生来のカンのよさで感知したゼノムは左手の鉈鎌を投げつけ、尾の針の軌道をそらす。刹那、尾の先のトゲから強烈な酸がぶちまける様に撒かれ、砂漠の砂を溶かす。ゼノムは大ジャンプして左右同時に迫ってくるハサミを避け、着地の勢いで両手持ちにした右の鉈鎌で思い切りハサミに叩きつける。鉈鎌の強烈な一撃で丁度重なるようにあったハサミの先端がへし折れた。
『ひえぇぇぇぇ?! 俺っちのハサミが!! 自慢のハサミがーーー!!!』
絶対の自信がある部位を破壊され、怒りによって暴走中だったデスコーピオンが我に返ったようだ。そう、本来サソリは臆病な性格なのだ。天敵である鳥などに食われぬように普段は草の影などに隠れ住んでいる。一度攻勢が途切れてしまうとヘタれてしまうのである
「おう、やっと話が通じるようになったな。とりあえずどうする? どっちか死ぬまで続けるか? 戦いを止めるか?」
『お願いします見逃してください助けてください許してくださいなんでもしますから!!』
「ン? 今何でもするって言ったか?」
あれ、もしかして選択肢ミスった? デスコーピオンは己の軽率な発言を恨んだ。
ЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖ
『で、ダンナ。ダンナは俺っちに一体何をしてほしいんですかい? 殺すのはカンベンしてくだせぇよ』
折れたハサミをツンツンいじけるようにつつき合わせてデスコーピオンはわかりやすくしょぼくれている。ちょっとやりすぎた感はあるのでこの仕事が終わったらポーションでもかけてやるかとゼノムは思った。
「しないよ。この砂漠を歩き回るのは俺の足じゃ向かねぇしダルい。だからこの砂漠に適応したヤツが必要だったんだ。つまりはアッシーだな。お前の背中に俺を乗せて目的地まで運んでもらう。無論報酬は出すぜ?」
『へぇ、そッスか……で、どこへ連れてけばいいんです? 自慢じゃねぇが俺っち、この砂漠で行ったことのない場所なんてねぇですよ、ヘヘヘ』
「そうか、そいつは僥倖。俺が行きたいのはシャボテンイチゴの群生地だ。知ってるか?」
『あーあのサボテンのアタマに付いてる赤い実ですか。うーん、しかし大丈夫かな?』
大きなハサミをまるで腕ぐみするように交差するデスコーピオン。なにか引っかかることでもあるのだろうか?
「どうした?」
『いやね、最近ダンナが行こうとしてる辺りでヤベェのがいるって話がありやして、この辺り一帯の砂漠のヤツラは最近その辺りに近づかねぇんですよ』
「やべぇの? 魔物か?」
『それがわからねぇんです。人のような、魔物のような。見たヤツの話もどれも曖昧で……ただ一つ言えることは、ソイツはものすげぇ強いってことでさぁ。見ちまったら最後、生きては戻れねぇとかなんとか。俺っちは見たことねぇんですけどね』
「……まぁいい、それでも行かなきゃならねぇんだ。最悪お前だけでも助かるように配慮するさ」
『……助かりやす。んじゃダンナ、乗ってくだせぇ。できれば尻尾の根元のほうがいいでしょう。間違ってダンナを刺したくねぇですから』
「なんだお前律儀だな。報酬弾んでやろう」
『ヘヘッ、ありがとうございやす』
ЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖ
ゼノムたちがシャボテンイチゴの採取を初めて二時間ほどたった頃。採取目標数もあともう少しと言うところまで来ていた。依頼書にあったとおりに乱獲防止のため一か所から採れるシャボテンイチゴの数が決められているので、採取は思ったよりも手間がかかっている。途中休憩を入れつつ一人と一匹は砂漠を駆ける。
『どうッスか、ダンナ。あといくつ取ればいいんです?』
「あと二つだ。あーめんどくせぇマジで。例のヤツに会わなきゃいいんだが……」
『すいやせんダンナ、これから行くとこ例のヤツが一番多く目撃される場所っす……』
「……そこ以外もう群生地ないのか」
『無いっすね』
「…………覚悟キメるか」
『…………ウス』
そして砂塵を超えること数十分。この砂漠で一番大きなサボテンの群生地がゼノムの目の前に広がっていた。
「こいつはスゲぇ。他のトコとサボテンの生えてる密度が違うな」
『ちょっと前まではここはたくさんの砂漠の住民がいたんですけどね。例のウワサで、えらく寂しくなっちまったな……』
「センチになるのは仕事が終わってからだ、後二つチャッチャと採っちまおう」
ゼノムはデスコーピオンから下りて手近なサボテンに近づき、シャボテンイチゴを採取しようとする。と
ビュゴッ!!
「ッ!! シャアッ!!」
殺気を感じてその場から緊急離脱するゼノム。地面に着地と同時に体制を整え、攻撃の飛んできた方向に目を向けるとそこには
『去れ、人間、そして魔物よ!! ここから先は砂漠の王の土地なり!! この地から物を簒奪すること、このリリアが許さぬ!!!』
両手に杖らしきものを持ち、白い布と黄金の装飾に身を包む女性が威風堂々と立っていた。ただ女性であって人間ではない。その女性の下半身は巨大なサソリだった。
『ダンナ、こいつァやべぇ。この砂漠の統治者一族だ……』
「なる……ラストギルタブリル。実際に見るのは初めてだ」
『王のものを簒奪するもの、これ以上にない不敬である!! 死を以て償うがいい!!!』
女性から発せられる強烈な魔力の奔流を見てゼノムは久しぶりに冷や汗を垂らす。どうやら見逃してはくれないらしい。
さて新キャラです。褐色アジアン美女です。やったぜ。なお下半身