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悪党惨烈すべし慈悲はない

2話目にして割とエグい展開があります。お気をつけて



「さァて、行きますか」



 街を出て、スキル「虫使い」を使う。この能力は限定的ながら索敵能力もあるのだ。限定的なのは『近くに居る力を貸してくれそうな虫』を探し出すこと、なので本来であれば索敵能力よりずっとピーキーで使いにくい。だが俺の場合は別だ。この能力は索敵だけでなく、呼び寄せることも可能なのだ。ただし味方になってくれるもの限定だが



『なんでェ、誰か呼んでると思えばゼノムのヤローじゃねぇか』


「おー来てくれたか。久しぶりになるな、おやっさん」



 山の方から土煙を上げながら何かが高速で転がってくる。それは全長三メートルに届く巨大なダンゴムシ『グランド・アーマードダンゴ』だった。外見はただ冗談のように巨大化したダンゴムシだが、れっきとした魔物だ。一部の地方では馬の代わりに使われることもあると言われ性格は比較的おとなしく、人にも慣れるので人の生活に近しい魔物だ。


 ゼノムが呼びかけたのはこの辺りのアーマードダンゴの頭目のような存在で、アーマードダンゴの中でも一つ頭とびぬけた存在でありグランドの名を冠している。彼とはゼノムが虫魔物と意思疎通ができるようになってからの付き合いになるので、長い付き合いともいえる。たまに倒したモンスターの素材を運んでもらい、報酬に果物などを渡したりしていた



『ンで? おめェはオレっちに何をして欲しいンでぇ? ツブせるような敵も見当たらねェが』


「いや何、次の街までその背中に乗っけてってほしいのさ。ちょいとこの町にはいられなくなったんでね」


『いられなくなったァ? そいつァ穏やかじゃねェなぁ。まァいい、乗ンな。詳しい話は道中聞けらァ』


「頼むぜ、おやっさん」


『ン』



 そしてゼノムはおやっさんの背に乗り、グランドアーマードダンゴのおやっさんは凄まじい土煙を上げながらかなりのスピードで走り出す。こうしてゼノムは旅立ったのだった。




ЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖ




 おやっさんの背中に乗っての旅路は続く。馬車などと違い、おやっさんに乗せられての旅は揺れもなく非常に快適だ。唯一、尻の座りがよくないことくらいが不満点だ。道中、ゼノムはクビになり町から出たことの経緯をおやっさんに話していた。



『そいつァ……そうだな、おめェさんはよく頑張ったよ。たまにあのパーティを見るオレっちとしても、あの扱いはいいモンじゃァなかったからな』


「さんきゅな、おやっさん。まぁ味方が全く居なかったわけじゃないからどうにか耐えられたよ。でももう限界だった。成人した大人のケツ拭いて喜べるほどオレは上級者じゃないんでな」


『ちげぇねぇ。で? お前さんはこれからどうするンでィ?』


「あー……特に予定は決めてないな。テキトーに居心地よさそうなトコ探して、そこで久しぶりにゆっくり冒険者するよ」


『ン~~~~~~、むぅ。ゼノム、おめェパンゲアス大森林、って知ってるか?』


「あー、聞いたことあるような無いような」


『この道をずっと行くと隣国にまで出る。その国の名前は忘れっちまったが、そこにゃ魔物が跋扈する広大な大森林が広がっているらしい。自然があるならオレっちみてェな虫の魔物の野郎がワンサカいるだろうよ。おめェがそこで暴れりゃいいモンが大量に手に入るかもな』


「さっすがエインシェント一歩手前まで生きた漢、その知識に痺れる憧れるゥ! その話乗った、そこ連れてってくれ!」


『あいよ、その代わり報酬は期待しとくぜ?』


「おうよ、その森林探しゃあいい腐葉土くらいモリモリあるだろうな」


『ちげェよ。わかってるくせによぉ、ゼノム?』


「わぁーってるよ、金色バナナの業火酒漬けだろ?」


『わかってンならいい』



 目的地は決まった。





ЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖ



 目的地への道をおやっさんと共に進みつつ、ゼノムは漫遊気分で景色を楽しんでいた。本当に尻の座りさえどうにかできないものか。そんなことを思いつつ携帯していた水筒から水を飲む。と、ゼノムの頭頂部にある二本のアホ毛がピクリと動く。おやっさんもなにかを感じ取ったのか走るのを止め立ち止まった。



『……おいゼノム』


「あぁ、わかってる。この先から血の匂いだ。戦いの匂いだ」


『どォする?』


「語るに及ばず、ってヤツだ」



 ゼノムの昆虫の複眼のような深紅の瞳が炎を宿したように揺らめく。口元は釣りあがり、闘争を求める獰猛な猛りと義侠心が燃え上がる。背中にマウントしていた鉈鎌を一本手に持ち、愚直に真っすぐに前を見据える



『いいねェ。それでこそお前だ。じゃァ、ちょいとトバすぞ』



刹那、その場にはもうもうと立ち込める土煙しか残されていなかった。







ЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖ



 彼女らは商人だ。町から街へと商品を仕入れ、売り、そして旅をする。そんな彼女らが旅の途中で特に気を使うもの。それは野盗や盗賊である。商品や売り上げを簒奪されるならまだしも捕まってしまえば命の保証はない。なので護衛として冒険者などを雇うのだ。だが今回の旅は彼女らの人生の中で飛び切りの不運なものだった。



 護衛が盗賊とグルだったのである




「あ、貴方たち!! 護衛として雇ったのに、コレはどういうこと?!」


「悪ィなぁお嬢さん。俺たちも食いっぱぐれないために必死なんだわ」


「生き残るためならどんな手段だろうとヤる、それが冒険者ってモンよ」




 後ろ手に縛られた気の強そうな妙齢の女性が男たちに凄むが、男たちはそれを下卑た笑いで流している。彼女の周りには血だまりとついさっきまで一緒に苦楽を共にし旅をしてきた仲間たちが死体となって転がっている



「さァて、当面の生活費は稼げた。あとは娯楽が欲しいところだよなぁ皆?!」


「近づくな!! それ以上近付くと舌を噛み切ってやる!!!」


「なァに、死体でも『まだあったかいうち』は楽しめるからいいんだよ、ギャハハハハハ!!!!」



 盗賊たちは嗤う。彼女の気概を侮辱し、侮蔑し、見下した。お楽しみが終わったら、彼女もマトモではいられなくなるだろう。彼女は悔しさに唇を噛み締める。じわりと鉄の味が舌を濡らした。




「娯楽が欲しいか? いいぜ、くれてやるよ。代金はテメェらの命で払ってもらうがな」




 どこからか殺気だった声が盗賊たちの耳に届く。ざわぁ、と風が呻き声をあげる。その瞬間、空を覆いつくすほどの黒い小さな点が背筋が凍る音を立てながら盗賊たちに殺到した。黒い点が盗賊たちの肌に触れるたびに、触れた個所が激しい炎症を起こし腫れ上がる。盗賊たちはこの黒い点に心当たりがあった。これは羽音だ。それも鳥などではない、ハチの羽音だ。盗賊たちの全身いたるところに焼け火箸を突き刺されたような激痛が襲う。悲鳴を上げながら腕を振り回しもがき苦しむ盗賊たち



「せっかく気分よく旅してたのに胸クソ悪いもん見せてくれやがって、テメェらマトモに死に切れると思うなよ? さぁ、畜生みてぇな悲鳴を上げな。俺と同じ世界に産まれたことを後悔させてやる」



 シャカン! という軽い金属音が僅かに辺りに響く。雲霞のごとく飛び回る黒い点が割れるように晴れ、そこから二本の鎌を持った赤い瞳の死神が現れた。全身余すことなくハチに刺され、得物すらマトモに持てず、そよ風や衣擦れが肌に触れるたびに耐えがたい激痛が走り盗賊たちを襲う。



骸大蜂ムクロオオバチ。集団生活でなく単体で行動するタイプのハチだ。その生態は森の中の動物の死体に卵を産み付け幼虫の住処兼エサとする森の分解屋の一種。だがその死体がない場合はどうすればいいと思う? そうだ。お前らみたいのを死体にして苗床を作ればいいんだよ」



 死神がずちゃり、と歩を進める。盗賊たちは恐れおののき逃げようと踵を返すが、慌てて振り返ったので足をもつれさせて転倒してしまう。転倒したショックでハチに刺された部分がより強く刺激され、気絶するような激痛が盗賊たちを襲った。



「安心しろ。適切に処理すれば骸大蜂の毒は驚異じゃない、低級毒消しポーションで事足りるさ。それよりも俺から逃げ切ることに集中しな」



 言うが早いが死神は二本の鎌を振るい接近、盗賊たちの足を次々と切断していく。ハチに刺された痛みで正気を失いそうになっている盗賊はゼノムの攻撃に反応すらできず、なすすべもなく身長が縮んでいく



「ほらほら逃げろ、やれ逃げろ。痛みを堪えてほら逃げろ。早く逃げねばオレが来る。血飛沫上げてオレが来る。ほぅら、次はお前の番だ」



 商人の女性はあまりの光景に茫然自失としている。赤い瞳の冒険者がまるで歌い踊るように、喜劇のように、悲劇のように、盗賊たちを次々と斬り倒していく。それは一種の美しさすら帯びていたという



「な、なんだんだよお前!! 俺と同じ冒険者だろ?! なんで俺まで……」


「バッカだなぁ、ホントバカだよお前。あれだけ大声で喋っといて言い逃れ出来るとか思ってんのか? 俺は冒険者、お前は犯罪者。そうだろ?」



 鎌が振るわれ、冒険者とうぞくの両目を横切るように一閃。冒険者モドキは視力を永遠に失った。そして数分足らずで盗賊たちは全員地に伏せて気絶していた







おま〇けの設定


エインシェント



 世界が誕生する以前に在ったと言われる存在達の総称。とあるエインシェントは光を以って世界を照らし、あるものは理を以って世界を形作った。あるものはその身を以て命を作り、あるものは炎を以って終わりを作った。あるものは闇を以って安寧を与え、あるものは力を以って世界を維持した。



 そうして為すべきを成したそれらは世界の表舞台から姿を消した。自分たちのいなくなった後の世界を愛すべき子たちに託して。あるものは秘境の奥深くにて世界を観測し、あるものは醒めることのない永遠に身をやつした。


 エインシェントは不滅の同義の意味を持つ。存在が消えることはなく、世界が終ろうともそこに在り続ける。





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