3 完全勝利タクティクス初級編1
早朝。
オフィスビルの前に立ち、見上げました。
このテナントの3階に、三竜商会という会社がある。
パワハラが横行している悪の巣窟だ。
これから私が修行を積み、必ず葬り去ってやる。
そう誓い、三竜商会の看板を睨めつけました。
今、死へのカウントダウンは始まったわ。
スマホを向け、会社の外観を写真に収めました。
この会社が消え去る日と同時に、スマホから消去してやろうと思って。
この日も散々ボロカスを言われながらも、なんとか一日を耐え抜いた。
部長に言わせれば、私の作成した伝票は便所の紙以下だそうだ。
社長は「便所の紙とは言い過ぎだ。裏紙として使えるだろ?」とフォローにもなっていない発言で、オフィス内に失笑を沸かせた。
トイレで泣かなかったのは、私にとってすごい進歩である。
この悔しさが、すべて復讐への原動力へと繋がるのですから。
*
そして就業時間。
待ちに待ったこの時間がやってきたのだ。
覚えておきなさい、畜生共。
これから私は修行を積み、圧倒的な力を手に入れるの。
そしてあなた達はね、、、
「足立君。ちょっと待って!」
萩原部長が私を呼び止めている。
就業時間が終わってまで、あなたとは話したくありません。
ですが怪しまれないように、笑顔で「何でしょうか?」と答えた。
「相変わらず、陰気臭い顔だな」
な、なによ!
「まぁいいや。明日、社運を賭けた大事な商談があるんだわ。プレゼンの資料作成をお願いできんか?」
それならそうと、もっと早く言え! とも言えず、「私、この後予定を入れているので、申し訳ございませんが……」と、やんわり断ろうとした。
「どうせ、てめぇの用なんざ、ちょこっとしたプライベートなんだろ?」
まぁ、そうです。
あなた達を葬るためのちょこっとしたプライベート的な修行です、とも言えず、「えぇ……」と苦し紛れの笑みを返しました。
「おい、足立! 仕事とプライベートどっちが大事なんだ! てめぇ! ろくすっぽ仕事ができねぇくせして、そういうところだけはカッチリしているんだな! クズ!」
「就業時間は終わっていますので、帰っても宜しいですか?」
すると社長が爽やかに笑い、
「足立君。ごめん、萩原部長はパソコンが苦手なんだ。それに社で、君が一番パワーポイントがうまいし頼まれてくれないかな。大切なクライントに向けての提案書になるんだ。残業代とは別に、色も付けておくから」と頭を下げてきた。
話によると手書きの資料を起こすだけの簡単な作業のようですが、それでも1時間はかかると思う。
そもそも、大切な資料ならもっと早く言ってよと思う。
「私もこの後、予定があるので、若干雑になりますが、よろしいでしょうか?」
「あぁ、もちろん大丈夫だ。細かいところはこちらで修正しておくから」
私は猛烈にマウスを裁き、キーボードをガンガン叩きまくって、なんとか45分で資料を仕上げました。
「はぁはぁはぁ……、できましたよ! 部長、確認してください……、あれ? 社長? 部長??」
私はデスクの上にあるビジネスホンを手に取り、急いで部長の携帯に電話をしました。
「もしもし。もしもし? 部長、どこですか?」
「あ? あ~。足立ちゃん?? どっした?」
こいつ。
飲んでやがる。
最低だ。
「資料が出来たのでもう帰りたいのですが、データは修正されますよね? 部長のPCに送信しておきますけど、いいですか?」
「おお、あんがと!」
私は社を後にして、急いで伊藤さんの指示があった場所へ向かいました。
電車を乗り継いで40分程度かかるところです。
時間が惜しかったので、タクシーを呼んで急いでもらうことにしました。
メーターがどんどん上がっていきますが、一刻も早く修行を積んで力を手に入れたいという感情が勝り、料金など気になりませんでした。
「お客様、つきましたよ。6200円」
「ありがとうございます」
結構、したわね。
お金を払って車から降りました。
え? ここは……。
指定された場所は、繁華街の中にある雑居ビルの一室でした。
この中で、きっと凄い講習が行われているに違いない。
どんな内容なのだろう。
それにしてもボロいビルね……。壁はヒビだらけ、天井には蜘蛛の巣が張っている。正直、怪しさ満載って感じだけど、だからこそ、マル秘講座を行うのに丁度いいのだと思います。
まさに秘密のアジトって貫禄よね。
さすが伊藤さん、センスあるわ。
そんなこと考えながら、緊張を隠せない足取りで階段を上り、期待に胸をときめかしながら、部屋をノックしました。
戸が開かれ、大柄な中年くらいの男性が顔をのぞかせました。
中には若い女性が数名います。そして部屋の隅にはたくさんの段ボール。
どういう訳か、伊藤さんの姿はありません。
「おぅ。やっときたな。待ってたぜ」
「は、はい。遅れてすいませんでした」
「じゃぁ、あんたの仕事はアレな」
男性が指差した先には、大きな段ボールがひとつ。
「こいつが全部なくなったら終わりだ。しっかり頑張れよ!」
段ボールを空けると、そこには溢れんばかりのポケットティッシュの山。
えーと……
何ですか、これ?
「あんたのは、キャバクラのティッシュが多いけど、相手に聞かれたら、よろしくお願いしまーすだけでいいからな」