解放
「ここは...」
「この東京をモチーフに作った、疑似空間さ。どれだけ暴れても問題ないよ」
「そうですか、最適ですね」
「おっと、ぼくたちは見学ですよ。これは蒼空と海音君との戦いなんですから」
「なるほど」
海音と蒼空だけの一対一の戦い、クロンデルスなしで戦うのは海音からしたら初めてのことだ。でも、なんとなく大丈夫な気がした。クロンデルスがいなくても蒼空との戦いなら一人でなんとかできる。そんな気がしてならなかった。
「蒼空...俺、君とは戦うんじゃなくて話がしたいんだけど」
「そんな生ぬるいことを言ってるやと話なんてできない」
「自分に嘘をついてるよね?それはウイルスコードのせい?」
「嘘なんかついていない!本心だ!ディバイン起動、イプリクス」
「戦わなきゃダメなんだよね...ディバイン起動!ブレイン・ロード」
二人はディバインジャケットをまとい再び向かい合った。ディバインを起動させたということは、戦わざるをおえないということだ。
「いこう、クロード」
「放て、破壊の一閃、シルヴァ」
「展開、ソウルシールド」
先制攻撃を仕掛けてきたのは蒼空だった。何度見た破壊の一閃、シルヴァ。当たればまずいがガードはたやすい。ソウルシールドは最小限の魔力で高いガード力を誇る守護魔法。海音はこれしか守護魔法を知らない。
「次はこっちから!おいで宵闇の書、夜を黒く染めよ。ブラック・ダガー」
「展開、ミラーシールド」
「ブラック・ダガーは魔法を消し去る」
「なッ...」
ブラック・ダガーはシールドを消し去り蒼空に直撃した。ダメージはすくないものの、一部魔法と当った者にかけられた魔法を消し去る効果を持っているため、次の攻撃に対して感知する速度が極端に遅くなる。
「ごめんね、耐えて。竜殺し」
「ヌアッ...」
クロードが蒼空のディバインジャケット裂いた。しかし、蒼空もただで裂かれるほど甘い者ではない。海音がクロードを引き抜き技を放つその直前に小さな魔法を放っていた。
「ブレイク!」
海音の目の前、正確には剣と腹部の間で爆発が起きた。海音のディバインジャケットは腹部から大きく破れていた。ディバインジャケットがなかったらまずいことになっていただろう。
「ディバインジャケットの修復を始めます。完了まで残り60秒、59、58、」
お互いのディバインが修復を開始し始めた時、二人は激しく魔法を打ち合っていた。
「放て、グローリー・バースト」
「打ち消せ、ラグナロク」
魔法と魔法がぶつかり合い、轟音と煙を上げる。それが収まらないうちに海音は態勢を整え、次の魔法を放つ、しかし蒼空もまた海音の魔法に反応し対抗できる魔法を放つ。再び魔法と魔法がぶつかり合う。そうこうしているうちに二人のディバインジャケットは修復を終えていた。
「そろそろ終わりにしよう」
「勝つのは俺だよ。蒼空!」
「終焉を告げる鐘は今鳴り渡る!」
蒼空のディバインの先端に魔法陣が展開され、大量の魔力が集まっていく。超高魔力砲撃型魔法...クロンデルスが言っていた。全魔力の90%を使い相手に大ダメージを与える魔法、当たれば確実に死を招くが放った本人も無傷では済まない。そこまでして勝つ意味それは...!
「放て、ユースティティア」
「Dibai.mystiquee yusutitia」
「海音様!」
蒼空の放った魔法、ユースティティアは間違いなく海音に当たった。守護魔法なしの直撃だ。誰もが蒼空の勝ちだと思った。しかし...
「すべてを終わらせ、始まりを創る」
「まさか...そんな...」
立ち上る煙の中から声が聞こえてきた。風が吹き、煙が流される。薄っすらと人影が見えた。海音だ、煙の中本を開き魔法陣を展開する。すべてを終わらせるための魔法陣を...
「沈め、ハクア!」
「海音...様?」
クロンデルスは目を疑った。目の前で展開されている魔法陣はワールドクラスの魔法、海音がそんな魔法を使えるはずがない。そこまでの魔力は持っていない。
「まずいな...」
まずいという割には声から焦りはみじんも感じられない。この人間はそう蒼空を者としか思っていないのだろう。怒りが込み上げてきた、何も知らないし、友達でもない。でも、なぜだか蒼空を見ると守りたい、救ってあげたいという感情が暴れだす。今も同じだ。
「ウワァァァァァァ!!!!!!」
「ごめん、もう少しだから...」
海音は残ってる魔力を全部流し込んだ。”カチャン”何かが割れる音がした。
「なるほどな、考えたじゃないか」
「お前の負けだ」
「そうみたいだな」
海音が勝った。まだ、魔法に出会って間もない、もとはただの高校生だった海音が勝ったのだ。
「世界指名手配犯、グロリアス・ネオンだな。お前を逮捕する」
「アギトさん!救護班を!」
海音の魔法を受け、蒼空は瀕死状態だ。加減なんてできるはずもないから最悪死んでいた。アギトはため息をついた。そして救護班にすぐに行くよう指示した。
「よそ見しちゃいけないな」
「何ッ!?」
グロリアスはアギトがかけた手錠を外し、即座に魔法陣の中に消えた。
「しまった...」
グロリアスを捕らえられなかったのは仕組まれたことなのか、それとも予期せぬことなのかは分からない。クロンデルスは今もなおアギトに警戒の目を光らせていた。