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Magic of dusk  作者: 蒼月 ルイ
宵闇の書編
6/16

魔道士協会

「ダメだ!戻れ!」

「ごめん...海音...もう俺無理だわ...ほんと、ごめんな」

「いやだ、ダメ、戻ってこい」


海音の声は届かなかった。三階の屋上から真っ逆さまに落ちていく。助けられなかった。見ていることしかできなかった。彼はSOSを出していたのに、それに気づいていながら見て見ぬふりをしてしまった。言い訳なんてできない、するつもりもない。ただ、もし一つだけ願いが叶うなら、もう一度だけチャンスがもらえるなら、彼を救いたい。もし叶わないなら、もう二度と助けを求めて、さし伸ばしている手を振り払いたくない。


「ごめん...」

「海音様、海音様」

「ん...」


泣いていた。何年ぶりだろう、涙を流したのは。もうずいぶんと前のことだろう、思い出したらまた涙があふれる。だから、思い出そうとするのはやめた。


「クロンデルス...ここは?」

「海音様、ここは魔導士協会の医務室でございます」

「おやおや、ようやくお目覚めのようだね。白波海音君」

「こちらは、魔導士協会局長、アギト・ネルダー。我々をあの場から助けてくださったかたです」

「そうだったんですか、ありがとうございます」


海音は鉛のように重い体をなんとか起こして、アギトにお礼を言った。腕の筋肉が思い通りに動かないから体を起こすなんて、普通の人間にはできない。


「気にするな。それより君はまだ、魔力も体力も心の傷も癒えていない。今日はゆっくり休んでいくといい」

「あ、ありがとうございます」

「君のことはここのみんなに話してあるから何かあったら声をかけるといいよ」

「失礼しま~す。あ、局長まだ居たんですね、局長がいても役に立たないんだからさっさと部屋に戻ってください!あとは私がやりますから」

「まったく、いきなり入ってきてなんだいその言い方は!何度も言うけど僕は」

「はいはい、お説教は後でゆっくり聞きますから」


アギトは女の人に押されるように部屋から出された。その姿はまるで子供をあしらうかのようだった。アギトを出した後も「まったく」「世話がやけるんだから」などと愚痴をこぼしていた。


「あ、あの」

「あぁごめん、自己紹介まだだったね。私は暁。月島 暁(つきしま あかつき)、君と同じ日本出身の下級魔導士」

「日本出身ということは、ここには他の国の人もいるんでしょうか?」

「いっぱいいるよ。局長はイギリスの人だし副長はアメリカの人。ここは地球で活動する魔導士の集まりみたいなものだから」


魔導士協会と聞いたから、大きな組織かと思い身構えたが、暁の言葉を聞いて少し安心した。その安心が緊張を緩めたのか、部屋に海音のおなかの音が響いた。


「あはは、おなかすいたよね。歩ける?食堂まで案内するけど?」

「すいません...まだ、うまくは...」

「気にしないで、じゃここまで持ってくるね」

「いや、悪いですよ。自分で何とかしますから」

「いいのいいの、ここでは私は先輩なんだから!」


先輩であることがうれしいのか、暁はスキップしながら部屋を出て行った。あの状態のまま持ってこられたら、食事は原形をとどめいないだろう。心配な点は多いが、今は何もわからないのだから、暁を頼るしかなった。


「クロンデルス...ここは一体何なの?」

「ここは魔導士協会、惑星地球の魔導士が集う魔導士の管理局だそうです」

「地球の?ほかにも惑星があるの?」

「もちろんです。太陽系以外にも無数に存在しています」

「そこにも魔導士...つまり人間が?」

「えぇ、存在しています」


これはきっと世界に大きな打撃を与えるニュースになるだろう、何年も前から火星やほかの惑星に移住する計画が噂されているこの世の中で別惑星に生物がいるならばそれは移住先の候補になるだろう。しかし今の海音にとってそんなことはどうでもいい、そんなことよりも今海音が置かれている状況のほうが重要だ。助けられたとはいえ見知らぬところに知らぬ間に連れてこられていた。見る人が見れば監禁か誘拐になるだろう。そんなことを考えていた時、暁が帰ってきた。


「お待たせ~今日のメニューはカレーだって~」

「カレーですか!?」

「うん。もしかしてカレーが好物かな?」

「はい...」

「ここのカレーはきっとどこのカレーよりもおいしいよ」


海音は目の前に出された好物に目をキラキラさせていた。暁はスプーンを渡すと、どうぞと目の前に置いた。もしかして...と思い恐る恐る一口だけ食べた。美味しい。今まで食べたどこのカレーよ美味おいしい。毒などは入っていないと考える前に手が勝手に動いていた。


「海音君は何でここに来たの?」

「それは...」


海音の表情が曇った。暁は即座にそれに気づき、慌てて声をかけた。


「あぁ、別に話したくないならいいよ」

「え、いや、その...実はある人と戦っていて...別にその人と深い仲なわけじゃないんですけど、なんかほっとけなくて。それで大胆に負けちゃいました」

「そこに局長が居合わせたって訳か」

「そうみたいです」


カレーを食べ終えたころ、海音の体はだいぶ動くようになっていた。担当医師からも激しい運動とか大きな魔法を使わなければ問題はないとのことだった。


「海音君、動けるようになったんだね。良かった」

「アギトさん、色々ありがとうございました」

「いやいや、気にしないでくれ」

「あの、僕はこれからどうしたら?」

「そのことなんだけどね。魔導士協会総本局に連絡したところ、宵闇の書を狙った犯罪者組織がいることが分かって、その解決をこの魔導士協会地球支部に任されたんだ。そこで、その捜査を君に任せてたいんだけどいいかな?もちろんサポートはいくらでもするから」


宵闇の書を狙った犯罪者組織...思い当たる節は一つしかない。蒼空たちだ。きっとアギトは宵闇の書の所有者だからという理由以外に海音の個人的な面も考えたのだろう。


「はい、やらせてください」

「うん、そういうと思って必要書類を持ってきておいたよ。これに必要事項を書いて持ってきてくれ」

「わかりました。でもどうやってここに来れば?」

「宵闇の書の転移魔法の行き先にここを登録すれば大丈夫。詳しくはガーディアンが教えてくれるさ」

「分かりました。じゃあままた明日きます」

「うん、待ってるから」

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