再会
海音は毎日、架空戦闘場に行き訓練を続けた。その結果、ディバインの使い方はもちろん、魔法も小型砲撃やガードシールド、浮遊魔法に高速移動など基本的な魔法は使えるようになった。クロンデルスも海音の成長の速さに驚きを隠せていなかった。
「せっかく魔法を使えるようになったのにこの世界じゃ使う場面も場所もないからな」
「本来なら使えなくて当然なのですから、致し方ありません」
そんな平和な時間は突然にして壊れた、発動されたのは広域魔法結界。外からの攻撃や通信をすべて遮断しなかの魔導士を孤立させる魔法。これが使われたということは誰かしら敵となる人物がいるということになる。それも海音の魔力と技術をはるかに上回っている人物だ。
「この気配...魔導士!?」
「クロンデルス、なにこの空間、人も車も何もないけど」
「さがってください」
「え?」
クロンデルスと海音の間に一本の光線が走った。地面を溶かしたそれは超高圧光線、シルヴァ。海音が宵闇の書と出会ったあの時、宵闇の書を海音に託したあの少年が使っていたものこの光線、破壊の一閃、シルヴァだった。
「君はあの時の!」
「返して...」
「え?」
「宵闇の書を...返して...」
わけも言わず海音に攻撃を加え続ける少年は悲しい顔をしていた。しかし海音を攻撃するたびに流れる涙は優しさを感じられた。だとすれば…クロンデルスは前に出た。
「貴様何者だ、海音様にそれ以上の攻撃を加えるなら容赦はしないぞ」
「た...タス...けて」
「何?」
クロンデルスには分かった。この少年は何かに支配されている。腕のリングから発されているのは本人以外の誰かが支配するための電波を受信するための受信信号だ。
「海音様、この少年...」
「うん、わかってる。宵闇の書を預けたのは彼だ。その時一緒にいたやつがこの子に何かやってた」
「おそらく、ウイルスコードでしょう。支配系魔法の基礎です、ですが解除は難しい」
「戦って何とかなる?俺、こいつを助けたい」
「今のところ我々に何かできることはありません。支配している人間が近くにいれば話は別ですが」
「何とか探して、あいつは俺がひきつける」
「無茶はなさらず」
海音とクロンデルスは別々に飛び立った。クロンデルスは結界と結果以外の境に、海音は少年のもとに。
少年は相変わらず泣いていた。自分の意志ではない行動で無害な人間を傷つける。それが気っと許せないのだろう。海音は昔のことを思い出した、目の前で泣いている友達を救えなかった。次は俺かもしれない、俺では助けられないかもしれない。海音は弱かった、怖かった。そして、大切な人を失った...。だから、海音は今目の前にいるこの少年を助けたい、名前も知らないが救いたい。海音は魔法を誰かのために使いたいと思った。
「来ないで...傷付けてしまう...」
「大丈夫、そんなこと気にしないから。名前、教えてよ」
「来ないで、ダメ...!ディバイン・ブレイカー...」
海音に向け放たれた砲撃は、海音には当たらなかった。この子に戦う意思がないならどの攻撃も当たらない、海音はそう信じていた。だからディバインジャケットを身に着けず近づいた。
「ね、大丈夫」
「ダメだ!来ないで」
「じゃあ名前、教えてよ」
「蒼空...」
「蒼空、いい名前だね。俺、海音。良かったら事情を教えてくれないかな?力になれそうなら力を貸すから」
海音が手を伸ばしたが、それは振り払われた。
「力になんてならなくていいから、宵闇の書を返して」
「自分かあら預けておいて、その言い方はないんじゃないかな」
「返してくれないなら...時代は流れ、われは真の姿を取り戻す。リミッター解除、放て、ディスティニー・バースト」
「海音様!」
間一髪のところでクロンデルスが駆けつけてきた。しかしあたりは眩い光に包まれ、人気のないビルや民家は跡形もなく姿を消した。
「あッ...」
蒼空は糸が切れたかのように空から落ちてきた。リミッターを解除して魔力のすべてを使い放ったため立っていることはおろか、呼吸をするのもやっとの状況だろう。
「海音様!しっかりしてください」
「クロンデルス...あの子...蒼空は?」
「一様生きています。ご安心ください」
「そっか...よかった...」
そのまま海音は意識を失った。クロンデルスのシールドは間に合わず、海音は蒼空の放った光線をまともに食らってしまった。ディバインジャケットを身に着けていなかった、海音は大きなダメージを受けた。幸いにも命はあるが体は酷い傷を負っている。命があるのは自分で展開したシールドが功をなしたのだろう。
「おやおや、酷いありさまだ」
「何者だ?」
「初めまして、君は宵闇の書のガーディアン、クロンデルス・ダークウィルだね?僕は魔導士協会局長、アギト・ネルダー。よろしくね」
「魔導士協会?なんだそれは?」
「全世界の魔導士の集まりで、魔導書の管理をしているところさ。君と君の主が所持している宵闇の書を保護しに来たのさ、もちろん君たち二人のこともね」
魔導士協会、そこがどんなところで何をしているのかは今のクロンデルスには分からないが、海音が助かるなら、アギトについていくしかないことは確かだった。海音の傷でこの世界の病院に行けば事件になりかねないし、何より今のクロンデルスは他人に姿が見えない。
「海音様に手を出したら、殺す」
「大丈夫だって、僕たちは敵じゃないから。今はね」
クロンデルスに耳に最後の言葉は聞こえていなかった。クロンデルスの意識は消えた蒼空のほうに行っていた。さっきまでそこで寝ていたはずなのにいない。あの様子では移動するなんてできるはずがない。
「どうしたんだい?」
「そこにいた少年を知っているか?ちょうど海音様と同年代くらいの男だ」
「いや見てないけど?とにかく今は君の主様を運ばないと」
「あぁ、そうだな」