クロンデルスを戻すために
地球支部の受けた被害は思っていた以上に深刻なものであった。副局長であるローラン・スコルの死。月島暁の魔導士協会地総局への強制出向。地球支部メインコンピューターシステムの停止など上げていくときりがなかった。
「あ、あの?」
「おや?どうしたのかな蒼空君」
「いや、僕はこれからどうすれば...?」
「あぁ、そうだよね支部がこれじゃあねぇ、直すには時間がかかりそうだしねぇ」
魔導士協会地球支部局長、アギト・ネイルダーは支部の復旧作業の連日あたっていた。アギトの的確過ぎる指示により支部のシステムの60%は治っていたがメインコンピューターは今だ沈黙したままだ。このメインコンピューターを治すには総局にあるシステムキーが必要なのだが、アギトはあの事件の日から総局との連絡を取っていなかった。報告書がどうとか責任がどうとか言って連絡することを極力避けていた。
「そういえばあれから海音君はどうしているのかな」
「学校にも来ていないです...やっぱりクロンデルスのことが大きいみたいです」
あの事件の後蒼空の保護責任者としてアギトが名乗りを上げ、学校にも通うことになった地球支部から近い学校に通うことになるはずだったが、蒼空の希望から海音とおなじ高校に通うことになった。保護責任者の件から魔導士協会が地球の警察組織と連携が取れていることが分かった。死者が数名出た大事件となったが記者への対応や捜査など至って問題なく事が済んだのだ。いったいどういう仕組みなのかわからないが実は名のある組織なんだと蒼空は思った。
「そうか...残念ながら内には魔導書クラスの魔導士はいないからなぁ...」
「魔導書クラス?」
「あれ?話していなかったっけ?魔導士にはそのランクによってクラス分けされるんだ」
「なんですか?初めて聞きました」
「じゃあ今話すね。まず、魔導士は扱う魔法によって6のランクに分けられるんだ。ディバインを使ったディバイン魔法。ディバインを装備せずにディバイン魔法を使うN装備魔法。基礎詠唱による基礎魔法。基礎魔法の詠唱を省いた無詠唱魔法。魔導書を用いた魔導書魔法。そして、魔導書に記載された魔法を魔導書を見ずに扱う、魔法。これらを基本としクラス分けする。ここから長いけどまだ聞く?」
「あ~...なるべく手短に...」
「それぞれの魔法を上級、下級に分けている。このクラス分けの最上位が魔導書クラス上級。海音は正式な局員じゃないからクラス分けはされてないけど、正式に局入りしたら魔導書クラス下級になるかな?」
「局長はどのクラスなんですか?魔法クラス上級かな?」
魔導士協会で一番重要視されているのはどんな魔法が使えるからしい。このクラス分けを基にするなら蒼空はディバイン魔法下級だろう。もしこのまま魔導士協会に加入するのであれば海音とは別の場所に行くことになるかもしれない、そんなことを考えながらアギトの話を聞いていた。
「で、どうすればいいと思いますか?」
「そうだねぇ...あ、そうだ!君たち二人で総局に行っておいでよ!」
「え!?」
「よし、じゃあさっそく文書を渡すね」
「え?え?ちょっと、海音にも言わないと!」
「伝えといて!!」
そう言ってアギトは部屋から出て行ってしまった。しかなく蒼空も支部を出て海音の家へ向かった。
「海音!開けるよ?」
「ごめんね、蒼空君。海音ったらこの間からずっとこうなの」
「・・・」
クロンデルスが消えてから1週間、海音は学校はおろか部屋からも出ていない。海音のお母さんが心配するのも無理はない、海音は真面目で優しくて...とにかくいいやつだ。そんな海音に救われた蒼空は海音の役に立ちたかった。だからこそ、今ここに居る。
〝ガチャ〝
「海音!」
「・・・」
「いつまでこんなことやってるんだよ?」
「・・・」
「聞こえてるだろ?」
「・・・ほっといてよ...」
海音にしたら大切な友達以上の人を失った。だからと言ってずっと心を閉ざしていていいわけがない。変わってほしい、戻ってきてほしい。そう思うからこそ蒼空は少しきつめなこと言う。
「海音!クロンデルスが居なくなってから何かした?ずっとそこでいじけて動かないで、そんなんでクロンデルスが取り戻せるわけないだろッ?いい加減にしなよ!」
「分かってるよッ!でもどうしようもないじゃないか!俺たちには何もできないんだよ...」
「なにもやってないのに諦めんなよ!誰が何をしたって海音が動かなきゃ何も始まらないじゃないか...」
「蒼空...」
蒼空の目からは涙がこぼれていた。海音を大切に思っているから、きつく言うことがない蒼空が声を上げた。そうでもしないと変わらないから、前に進まないから。そしてその想いは海音に確かに届いた。
「アギトさんが総局に行ってみろって」
「総局に?なんで?」
「地球支部には魔導書クラスの魔導士は居ないから詳しいことはそっちで聞いてみろって」
「総局に行けば何かわかるかっもしれないってことか...」
「どうする?」
「もちろん」
「「行く」」
二人の声は重なった。海音は少し元気がなさそうだったけど、目は確かにさっきまでとは違っていた。
「今アギトさんが書類を作ってくれているから、支部でまとう」
「分かった。すぐに準備する」
海音は何日か分の服と宵闇の書などを持って蒼空と一緒に家を出た。




