蒼空と暁
「海音!落ち着いて」
「オ...オレガ...ヤル...ゼンブ..マモル」
海音の優しい部分と宵闇の書の闇の部分、殺戮、破滅、破壊その他さまざまな感情が入り交じりほとんど自我を保ってはいなかった。宵闇の書の闇、昔その闇の力により多くの人がその命を落とした。声も届かぬその闇の前に敵うものは何もない。
「暁さん、なんで?」
「私は、私は...」
暁もまた自我を保ってはいなかった。感情すら今の暁には感じられない、目の前で同じ支部の人間が殺された...いや、やったのは暁だ。それなのに暁は何も感じていないようだった。その姿に蒼空は昔の自分を重ねていた。
「グロリアス・ネオン!貴様!どこまで!」
「こっちにばかりかまってると...ほら、後ろ」
振り向くとそこには暴走した海音の魔力がそこまで迫っていた。もはや避ける暇などない。
「しっまった...」
思わず目をつぶった。きっと闇にのまれた。目を開けばそこは光のない闇の世界...そう思いながら目を開ける。しかし
「大丈夫かい?蒼空君」
「アギトさん!?」
「僕がここに居ちゃ悪いかな?君を助けたんだけどね?」
魔導士協会地球支部局長、アギトネイルダー。この地球で一番魔法に優れている。自称イギリス人だがイギリスに籍はない。アギトが怪しいというわけではなく、魔導士協会地球支部の人間すべてが国籍や年齢、出生地などすべてが謎に包まれているのだ。
「さぁてと、ぼくは大人同士でお話があるから、暁君を頼めるかな?海斗君は...彼が何とかするだろ」
「彼?」
「海斗様!!!!」
宵闇の書のガーディアン、クロンデルス・ダークウィル、宵闇の書を管理、守護しているガーディアンシステムの一部だ。責任感が強く、書の所有者に忠実。きっと今の海音をどうにかできるのはクロンデルスしかいないだろう。しかし、闇を抑えることはできてもメンタル的にはどうにも出来ない...これはガーディアンとしての性だ。精神に干渉してしまえば魔導書が所有者を洗脳できてしまう。そんなことはあってはならないあくまでガーディアンは守ることだけしかできない。海音の心に作用できるのは...
「それじゃあ、行こうか。グロリアス・ネオン」
「いやだ、と言ったら?」
「あはは、もう無理」
「!?」
ネオンの返事を待つ前にアギトとネオンは姿を消した。大人のお話、いったいどんな話をするのだろうか?蒼空は少し気になったが、そんな暇はないことを即座に思い知らされた。首元に触れている小太刀、その冷たさと鋭さを肌で感じた。
「ッ!ディバイン起動、イプリクス、シールド展開」
「・・・」
「相手はディバインを使ってこない、なら、破壊の一閃シルヴァ!」
「・・・」
「ウソだろ...?」
蒼空の放った一閃は確かに暁にあった、はずだった。暁は避けたわけでも、逃げたわけでもない。蒼空が外したのだ、それも全く関係のない場所に。そこで初めて目の前の暁が幻影だと気ずく。暁は忍者だ、つまりこれは、
「忍術...」
「そう、これが私」
「でも、あなたは優しい!」
「何を言って」
「ほら、必ず答えてくれる」
蒼空の言葉に暁は返していた。つまり声のする方向に本物の暁がいる。いくら幻影が暁そっくりでも喋ることはない、さっきそれを知った。何を言っても答えなかったが、今は声がする、つまりここに居るのは本物の暁。蒼空は後ろから伸びてきた刀を躱し、暁の手を強く引いた。そして、
「オールパージ、全制御解除...ディバイン爆裂!」
「え?これは...」
「もう、大丈夫」
自然と涙がこぼれていた。そしてそのまま暁はゆっくりと目を閉じた。そしてそのまま、ゆっくりと深い眠りについた。ディバインの爆裂の威力で、暁にかかていたウイルスコードも一緒に消し飛んだ。しかし爆裂はディバインを1日以上使えなくしてしまう諸刃の剣。蒼空は海音をクロンデルスと一緒に止めることはできなくなってしまった。
「海音様!!」
「オレガ、トメ、トメ、トメル...ジャマ、ヲ、ジャマヲスルナ!!!」
「闇が強すぎる...なぜここまで...?ハッ、今は闇の書を海音様から離さないと」
海音の暴走の原因は闇の書の闇とローラン副局長を仲間に殺させた、グロリアス・ネオンへの憎悪にも近い怒り、この二つだとクロンデルスは考えていた。しかし、今の海音を見る限りそれだけではない気がしてならなかった。
「ス、スベテヲ、コワセ、デイルノート...」
「開け神なる闇の扉、ブラック・ゲート」
「ア゛ァ...ナゼダ...クロンデルス...」
「その声、まさか!?」
海音の声はクロンデルスには聞き覚えのある別の声に変っていた。その声の正体は...
「宵闇の書の闇の部分...」
「いやだなぁ、本当は知ってるくせに、お前は宵闇の書のガーディアン。でも宵闇の書はただのコピーだ。そしてオレが本当の闇の書のガーディアン、フォルティス・ダークウィル、お前の本体だ。」




