戦友
「なぜ、意識を保っていられる!?」
「ガーディアン如きの魔法が届くかよ!」
「あれほどの魔法を放ったのだから、反動は大きいはず。次で決める」
「いちいち声に出てるんだよ!」
クロンデルスを超えるほどの速度で攻撃をくりかえりてくるクルウの手には武器は握られていなかった。つまりは拳での一撃。機をつかめば止められないことはない。しかしクロンデルスが構える前にクルウの攻撃が目前に迫る。避けるので精一杯だった。
「お前の攻撃は早くて重い。だったらそれを繰り出させなけなければいい。簡単なことだろ?」
「しかしそれでは、倒せはしない!!」
「それでいいのさ、お前は俺の相手するだけで大事な海音様のところには駆け付けられない!!」
「時間稼ぎか!」
クロンデルスが本気を出せばクルウのことを止めるのは他愛ないことだが、それをすれば契約者である海音の魔力に影響してくる。クロンデルスが放つ魔法のすべは海音の魔力を消費している。クロンデルスが本気になれば間違えなく海音の魔力は底をつく。そうなればグロリアス・ネオンを捕らえることができなくなる。
「出来損ないの主をもつとガーディアンは大変だなぁ」
「私は海音様のために存在している!それが大変なものか」
「くちだけだろッ!」
「やっと見つけた」
「まさか...!?」
クロンデルスはクルウの腕をつかんでいた。クルウの攻撃を避ける中で、どこでスキが生まれるか、パターンはあるかなど様々なものを探っていた。そして、確実に当てる攻撃を放とうとするとき、数秒のスキが生まれる。そこをチャンスに動けば、必ずつかめる。クロンデルスはそう確信していた。
「放て、ソクリウス!!」
ゼロ距離から放たれる魔法はどんなに弱い魔法でもけがでは済まない。ソクリウスは光線系魔法の中でも下に近い威力だが、ゼロ距離からでは上位の光線魔法と同等の威力になっているだろう。
「やる...じゃん...でも...まだまだ...だよ!」
「まだやれるのか!?ならば、漆黒の帳」
「空間魔法...解除するにはお前を完全に倒すか、お前が自ら解除するかの二択だな...」
「倒される気も解除する気もない」
「でも、俺は倒す。まぁ、あの出来損ない君がネオン様に勝てるはずがないけどな」
「出来損ないはお前だろ?それにその傷では不可能だ」
クロンデルスが魔力を使わないで、クルウを止めておく方法は数少ない。また、これ以上戦えば海音の魔力に影響が出てくる。だとすらなら残された方法はただ一つ、クルウを完全に別空間に移すことだ。クロンデルスの使った漆黒の帳は今いる場所に別の空間を作り出し、外と中からの物理的な攻撃や魔法を一切受け付けなくする。魔法で本来はガードや緊急回避として使われる。
「ここで大人しく待とうじゃないか、すべてが終わるまで」
「いかなくていいのかい?大事な主様のところに」
「私は海音様を信じている。すべて終わらせるとな」
「俺は...」
グロリアス・ネオンはクルウが現れたと同時に姿を消した。支部局の周りには建物など隠れられそうな場所はない。残させる移動場所は一つ、支部局の内部だ。確かめるために暁さんに連絡を取っているが応答がない。つまりはそういうことだ。
「局の中が静かすぎる...コンピューターが動いてる音すらしないってことはやっぱりグロリアス・ネオンはこの中にいる」
外では激しい戦いが続いている。それに反して局の中は物音ひとつしない、つまり魔導士協会地球支部は完全にその機能を失い停止している。そしてそれを行った犯人はグロリアス・ネオン。
「海音君、聞こえるかい?海音君」
「はい、海音です。あなたは?」
「僕だよ。アギトだ」
「アギトさん!?よかった、今支部局が大変なことに」
「分かってる。僕も今全速でそっちに向かっている。状況は?」
「現在、支部局上空及びその周辺で局員とグロリアス・ネオンの部下たちによる戦闘が発生。また、支部局内にグロリアス・ネオンの侵入を許してしまい、支部局のメインシステムが完全停止いています」
話しながら海音はメインシステムがある指令室まで来た。部屋は電気すらついておらず完全な真っ暗闇だった。
「暁たちは?」
「アギトさんたちの代わりに指揮を執っていたはずなんですが、戦闘が始まって以来一切連絡が取れません」
「分かった。とにかく今は無理をしないこと。絶対にだよ」
「はい!」
「また何かあったら連絡して」
海音がアギトとの通信を切ったその直後、海音の口は後ろからふさがれた。
「ンンッ!!」
「シーっ」
「んあッ、蒼空!?」
「声が大きいよ。いるんでしょ?あの人が」
「来るなって、言っただろ!?」
「俺は海音に助けられただけじゃない、局の人たちにだって助けられたんだ。それにこの事件は俺のせいで起きてる。だったら俺が責任を取らないと」
蒼空はこの半年間で大きな成長と新たな感情、心を手に入れた。グロリアス・ネオンのもとで戦いの道具として扱われていた時にはなかった温かな心だ。そして海音との仲もほんの少しだが深まった。今までは生まれたての小鳥の様に海音にすがってくっついているだけだった。しかし今は友達として一緒にいる。そしてこの場においては戦友だ。何があろうと裏切ったり、逃げたりすることない力ず良い見方だ。




