女海賊アルビダの願いと羅針盤
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流れ着いた港町でマリアは生きる為に堅気以外の人に対しては何でもやった……ゴミを漁り、ゴロツキ共からは何でも盗み、取り上げ、ストリートチルドレンになった。
スリに失敗して捕まれば殴り殺されかけた。謂れのない暴力にもあった。突然暴行され犯されそうにもなった。
しかし、彼女の純潔だけはツェペシュ公の使いの魔神や悪魔達によって守られた。
彼女が港街に居る事で、街には次々と災厄が起きる。その度に魔神や悪魔がマリアを責め立てた。
だが彼女は死ぬ道を選ばなかった――仮に選んだとしても、魔神や悪魔共がそれを許さなかっただろうが。
そして五年の月日が流れ、マリアは港町に居たことで、生活と稼ぎの場を海の上に移し、海賊のボスになっていた。
相変わらず堅気には手をさだず、商船を襲ったとしても腐った奴等を襲う。
それでも広がるのは悪名だ。
だが、町に災いが起きれば部下達を使い、防げることは防ぎ、防げないことは、最小限にとどめれる様に力を尽くした。
自分に訪れる悪魔共を独学の精霊魔法や剣術で蹴散らし、追い返すこともやってのけれる様になり、使いの悪魔共にこう言い続けた。
――ヴラド=ツェペシュ。アタシはアンタの思い通りにも妻にもならねぇ。かならずテメーのイチモツをテメーのケツの穴に突っ込んでやる!
と、そんな荒んだ彼女の港町の海域に、ある日、女海賊アルビダが現れた。
アルビダはマリアと同じで堅気を襲わない。あくどい貴族や商人等の船や、同業の海賊しか襲わず。稼ぎの何割かを孤児院を通して貧民に撒く、義賊の様な女海賊の船長として知られていた。
アルビダとマリアは当たり前の様に海の上で出会う。
二人は船を体当たりさせ、互いの舷側に鉤付きのロープを引っ掛け合い、移乗攻撃が始まった。
激しい交戦が両船の至る所で繰り広げられる。だが、アルビダの船員とマリアの船員には海賊としての戦力に差があり過ぎた。
マリアの船員がどんどんと押されていく。
そこでマリアは賭けに出た。アルビダに一騎打ちを申し込んだのだ。
最後の最後まで食らいついてやるとマリアはアルビダに挑む。が、結果はあえなくマリアの完敗に終わった。
だがマリアの海賊船はアルビダに略奪行為をされなかった。それどころかマリアがアルビダに気に入られ、やがて二人は義親子になる。
それは百年後には、すっかりひねくれてしまった金髪碧眼の絶世の美女のハイエルフと、銀髪に紫苑色の瞳をした。呑んだくれで気分屋な、駄目人間の剣士。そんな二人が紡ぐ新たな神話へと導く為の運命の出逢いだった。
「どうしました? 昔のことでも思い出して絶望でもしていましたか?」
敵を前にしているにもかかわらず。義眼を付けた司祭の男の言葉で、長く記憶の海を彷徨い、義母アルビダの名で痛みを伴う過去へと返らされていた自分に舌打ちをするマリア。
「絶望? するとすりゃあ花嫁とか勝手にほざき。とりまきを使ってしつこくつきまとうくせに。口説きたい女をテメー自身で口説けない、ダセぇ腰抜けヤローに股を開かされることだよ!!」
「強気な言葉を使っていても、貴方が恐怖に囚われているのが透けて見えますよ? 大丈夫ですか?」
「ハッ! お気遣いどうも」
義眼を付けた司祭の男と軽口を交わしながら、マリアは今、自身の置かれている状況を把握する。
――義眼のクソ野郎と話してる間に、前にいたアンクー達が後ろに回り込んで道を塞ぎやがったか……。アンクー共はともかく、義眼のクソ野郎はハデスの司祭だけあって魔法がやっかいだ。
剣と精霊魔法、この世を生き抜く術、そして意地の張り方は、アルビダから教わったマリア。
彼女はこの窮地を脱する為に頭をフル回転させていた。
そんな思考の中に義母アルビダのかつての言葉が聞こえだす。
――どんなけクズに成り下がろうと、自分自身が女として貫くべき義理と矜持だけは汚すんじゃないよ?
頭には口癖の様に言っていたアルビダの言葉。
視界には魔術を放つ為だろう義眼を付けた司祭の男が、祈りの言葉を唱え始める。
アンクー達は指示が無いからなのか、マリアから少し距離をとった位置で、路地の前と後ろで待ち構えている。
向こうから攻撃を仕掛けてくる気配はまだ無い。
――いいかい? アンタが本当に困った時、この羅針盤の指す方へ向かいな。いいね? これだけは意地を張らずに、言うことを聞いておくれ。アタシへの一生で一度だけの親孝行だと思って。
アルビダの死に際に彼女から受け取ったものがある。それは願いと自身の首から下げているペンダント。
頭に響くアルビダの言葉につられ、戦闘中だというのにそのペンダントトップの蓋を開けてしまう。
そのペンダントトップは小さな羅針盤になっていた。
羅針図は無く、ただ針があるだけの羅針盤。
――ハハハハハッ、どこぞの馬鹿公爵がヴァンパイアの花嫁を育ててるって聞いたが……アンタ、そこまで濁った瞳をしてるくせに、矜持を失った下衆には成り下がってないとは恐れ入ったね。
そしてその針は背後のアンクー達の方角、暗闇へ続く路地を指し示していた。
義眼を付けた司祭の男の祈りの言葉は終わり、此方に手を掲げる。
――小娘の分際で、もう世界を知った風な口をきくのかい? ハハハハハ、若いねぇ。
マリアは決断し、背後のアンクー達に向かい全力で走り始める。
「シルフ。アタシの前を塞ぐ愚か者どもを切り裂きな」
シルフへの言霊をのせた言葉を発し、マリアの行く道を塞いでいたアンクー達がシルフの風によって身体が切り裂かれた。
――災厄? そんなもんアタシも仲間も気にしないね。どいつもこいつも世の中から外れても、人の矜持は捨てきれない馬鹿ばかりなのさ。
シルフの鋭い風により、大鎌を持っていた手を切り飛ばされ、仰向けに仰け反って倒れかけていたアンクーの顔面を、マリアは砕く様にして踏み台にする。
直後、先程のシルフの風ではダメージが少なかったのであろうアンクーが、此方へ跳躍し大鎌で上から大鎌の刃の切っ先で刺そうと振り下ろしてくる。
――アンタがもし世界一の不幸者なら、世界一の幸せ者にもなれるはずさ。
マリアは大鎌の刃のすぐ下あたりの柄をレイピアを使い、空中で受け止める。
更に流れる様な動作で自身が地面へ落ちてゆく力を利用し、レイピアの刃を大鎌の長い柄を伝う様に滑らせた。
レイピアの刃は大鎌を握っていたアンクーの、骨の量指を切断した。
――アタシは綺麗事が大っ嫌いさ。綺麗事を言う奴は大概、現実を知らない苦労知らずの馬鹿か、汚い部分を見ないで生きてる奴等なんだろうからね。だからアタシは綺麗事をぶち壊して綺麗にしてやるのさ。
そのまま屈む様に地面に着地し、骨の指を切断され、大鎌を地面にガランっと大きな音を立てさせて落としたアンクーの、青い炎の片目をレイピアで鋭く突く。
――アンタにこの意味がわかるかい? わかったらチョコラテをあげるよ。
後ろを振り向くと、義眼を付けた司祭の男の手から放たれた魔術は、無数の暗闇色の鎖。
その鎖がマリアを捕えようと迫って来ていた。
――いいかい? ミズガルズ王国の王都、アースの北にあるスラムに、ノースオブエデンって酒場がある。そこのマスターに、とびきりの蒸留酒を頼みな。そしたらマスターがストレートで? って訊いてくるから、悪魔の涙で割ってくれって言うんだ。
闇色の鎖に捕らわれぬ様、追ってくる使者達に捕らわれぬ様、月の光が照らす路地から月の光が届かない暗闇の路地へとマリアは駆け込んでいく。
――そしたらガーランドの人間に……アンタを助けてくれる人に出逢えるから……。
マリアは道なりにひたすら走る。先程羅針盤が指していた方へと。
――あ、ありがとうね……アタシなんかを……母さんなんて呼んでくれて……。
月の薄明りが再び照らす道の先に、古びた石造りの建物の窓から、ロウソクの灯りが漏れ出ていた。
羅針盤を確かめると、針はその建物の方を指している。
木の看板にはノースオブエデンと書かれてあった。マリアは激しく鼓動する自分の心臓の音を聞きながら、店に飛び込む。
急激なロウソクの強い光で目が眩んだ。次に耳にチェンバロの音が聴こえる。
少しして視界が回復すると、マリアは店内を見渡す。そこには酒場のカウンターで白いシャツに黒いネクタイを締め、黒いジレをスマートに着こなした、白髪の壮年の男性が高価なグラスを拭いていた。
木製のカウンターテーブルには、ワインレッドのコートを羽織り、カウンターに剣を立て掛け、髪は銀髪で歳は十七、八歳ぐらいの人間の青年が、顔をテーブルに突っ伏させて酔い潰れていた。
そしてこの空間をさっきまで居た場所と切り離す様に感じさせている者がいた。歳は幼く、十歳くらいの幼女。
顔は人形の様に美しいが、細長い紫の布で目隠しをしており。長く黒い髪の前髪は眉辺りで切り揃えられ、真っ黒なドレス姿で店の隅にあるチェンバロの、白鍵と黒鍵を使い、切ない旋律を奏でているのだ。
天使と悪魔を合わせた様な幼女は、自身の指から奏でられる音で、この酒場の世界を外の現世と切り離し、別の世界を構築しているかの様だった。
読んで楽しんでもらえていたら幸いです。次の投稿は明日の夕方過ぎに出来たら良いかと思ってます。小説書くのって難しいです……。
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