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誰が為に捧ぐ剣か  作者: 神戸 遊夜
第一章 ヴァンパイアの花嫁
35/36

ヴァンパイアの花嫁と紅き騎士

ページを開いて頂けて感謝します!!ご意見、ご感想などありましたらお願いします!!

m(__)m

いつもより、少し話が長くなってしまいました!!さて、一章の本編はこれで最終話です。残すはエピローグのみ♪

|д゜)

 二夜の月の夜の王の間に、灯りをともすシャンデリアや彫刻が施された燭台に置かれた蝋燭の火。

 焼け焦げ、大きく胸の開いた白いドレスを纏う、白に近い銀髪の髪の長い女――始祖ヴァンパイアのカーミラは、閉幕したはずの悲劇の幕を再び上げさせた。


 傀儡の魔眼の術にかかり、操られ、声だけは自身の意思で出せる様にされた、この悲劇の物語のヒロインであるハイエルフのマリアは、魔神ロキが作ったフェンリル殺しの豪華なエングレーブが施されたフリントロック式の銃を握らされ、不敵な笑みを浮かべるワインレッドのレザーコートを羽織った銀髪紫苑色の瞳の男――カインに銃口を強制的に向けさせられている。


「さて、カイン=ガーランド。貴方の血を私に捧げなさい」


 毒々しい赤い紅を引いた唇でカーミラは笑みを浮かべながら、マリアの後ろからゆっくりと対面にいるカインの元へと歩きはじめる。


「ふざけんじゃねぇ! カーミラ。おい、カイン! お前もお前だぞ、なんでこんなクソ女の言いなりになってやがる!?」


 一歩一歩ゆっくりとカインに近づいていくカーミラを見ながら、マリアは怒りと絶望が同居した感情を爆発させる。


「クッ! 動け。動きやがれよ! 何でアタシの身体なのにアタシの言うことを聞かねぇんだよ! クソッ!」


 傀儡の魔眼の術に抗い、必死に銃口をカインから憎いカーミラへと移そうとするマリアの手が震える。

 だが、無情にもマリアの願いを自身の身体が受け入れることはなかった。


「なぁ、カイン……これは何かの作戦だよなぁ? 昔みたいに人質を取るヤツの心理を読みとってんだよな? な? そうなんだろ?」


 やっとヴラドが死に、ヴァンパイアの花嫁の呪いが解け、カインへの恋心を認めることができたばかりのマリアが、切れ長で美しい蒼い目から恐怖を溢れさせ、涙となった雫を頬へと伝わせながら、必死にカインへと訴える。


「はぁ……そんなに心配するなよ? マリア。蚊に血を吸われるみたいなもんだ」


 わざとらしく大きな溜息を一つ吐くと、不敵な笑みでカーミラへと挑発的な言葉を口にし、肩を大きく竦めてみせてマリアを安心させようとするカインは、カーミラの指示に逆らう気配はみせない。

 この王の間の状況を誰よりも愉しんでいるカーミラは、二人のやり取りに対し、笑い声を堪えるのに苦労した。


「さて……もう別れの言葉は済んだかしら? 人間とハイエルフである異種族の美しい愛を見られて、私は感激で……」


 いつまでたっても軽い調子を崩さないカインの元へ辿り着いたカーミラは、抱擁する様にカインに抱き付くと、自身より背の高いカインの顎に手を伸ばして妖艶に撫でる。


「嗤いが止まらないわ」


 今も尚、涙を流しながら必死に傀儡の魔眼の術に抗い続けるマリアに、カーミラはカインの胸に寄せた顔を振り返らせ、嘲笑うかの様に毒々しい紅い唇で二人の愛を嗤う。


「さっさと血を吸うなら吸って欲しいんだが? アンタみたいな女は趣味じゃなくてね……それにマリアにヤキモチを焼かれて、いつ銃弾をぶっ放されるかとコッチはヒヤヒヤしてるんだ」


「あら? 私よりあのハイエルフの小娘の方が良いだなんて、貴方……女の趣味が悪いわね。私に抱かれた男は皆、幸せそうに鼻の下を伸ばしていたというのに」


 面倒くさげに首を傾け、首筋をわざわざ晒して吸血行為がしやすい様にするカインに、カーミラはゆっくりと間を持たせ、二人の反応を愉しむかの様にカインの首筋へと爪先を立てて甘い死の口づけを首筋にする。


「わかっていると思いますが……迂闊な行動は慎んでください? 女王」


 首筋から毒々しい唇を離すと、カインから少し離れた位置の斜め後方で控えているシャロンにカーミラは忠告を入れた。


「わかっておるわ……」


 自身の主をいいようにされ、吸血される姿を黙って見ることしかできないシャロンの手は強く握られ、爪が皮膚を突き破り血が王の間の床に滴り落ちる。


 そしてとうとうカインの首筋にカーミラは毒々しい赤い唇から覗く牙を立てた。


「やめろぉおおおおおおおお!」


 必死に銃口をカーミラへと向け、引き金を引こうとするマリアの悲痛な叫び声を聞きながら、カーミラはカインの首筋に牙をゆっくりと沈ませていく。


 カインの血を吸い始めると、その味はあまりにも美味で、カーミラはケロイド塗れの顔を恍惚の表情に染めてしまう程だった。


「カイン! もうアタシのことなんてほっといて、そのクソババアを殺してくれ!」


 喉が枯れんばかりに訴えるマリアの願いに、カインは無言でカーミラに血を吸い続けられる。


 王の間に響く悲痛なハイエルフの乙女の願いも虚しく、カーミラは、ほくそ笑みながらカインの魂までも吸い取ろうとした。


 瞬間、ドクン! と心臓が痛む程大きく跳ねる。


 あまりの心臓の痛さと、神経を駆け巡る雷鳴に、カーミラは吸血していたカインの首から口を離してしまい身体が大きく仰け反った。


「ガハっ! な、何? 貴方……何をしたの?」


「はん。別に何も?」


 吸っていたカインの血を吐き出し、胸を襲う苦しみに、ケロイド塗れの顔を苦痛に歪ませるカーミラは、そのまま王の間の床に崩れ落ち両手両膝を着きながらカインへと問いかけるが、問いかけられたカインは不敵な笑みを悪ガキの笑みに変えて、皮肉気にひと笑いし、とぼけるだけだった。


「な、何なの? いったいこれわぁあ゛あ゛あ゛!」


 混乱し胃がひっくり返る様な吐き気と、激しく早鐘を打つ鼓動。

 身体の中で獣が暴れまわるが如く、絶え間なく襲う激痛にカーミラは叫び声を上げた。


「ひっ! ど、どうなっているの!?」


 次にカーミラの身体に起こった異常は片腕が、醜くぶくぶくと肉が盛り上がり膨らみ始めたことだった。


「ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」


 身体中の骨が軋み、盛り上がる腕の肉は自らの骨や腱を破壊し、更に大きく膨張をし始め、熱い激痛が襲う。

 膨張力に抗う皮膚はとっくに限界を超えており、カーミラのぶくぶくと盛り上がった片腕は破裂し、王の間に苦悶の声と共に腕の肉や骨が無残にも散らばり血飛沫が舞う。


「な、何故ぇえ゛え゛え゛え゛え゛! 私の身体に何をした!? カイン=ガーランドォオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!?」


 涙を流し、口からは涎を垂らし、胃の中の物を吐き出しながら、叫び、問いかけるカーミラの身体は、今度は片足がぶくぶくと肉が盛り上がり、醜く膨れ上がり始めたかと思うと、片足だけではなく全身や顔までも、ぶくぶくと肉が盛り上がり膨れ始めた。


「いやだぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛! いだい゛! だれが、だずげでぇえ゛え゛え゛え゛え゛え゛!」


 カーミラは自らの身に起きている異常事態に錯乱し、変貌していく自身の身体中を襲う激痛に絶叫する。


「何故? かじゃったかの? 何を当たり前なことを……」


 カーミラの疑問に答えたのはカインではなく、始祖ヴァンパイアの女王であるシャロンだった。


「な゛、何を、じ、知っでい゛る゛ぅう゛う゛う゛う゛!? じょ、女王よぉお゛お゛お゛お゛お゛お゛!」


 身体の全てがいつ破裂してもおかしくない程、肉が盛り上がり、醜くぶくぶくと膨れ上がったカーミラの身体は、既に人の姿は留めておらず、腫れた唇らしき場所から出た絶叫はくぐもってしまう。


「簡単な話じゃよ……お主では主様に流れる強大な力、フェンリルの血は過ぎたものだっただけじゃ……取り込んだ血にお主の身体が拒絶反応を起こしておるのじゃ」


 獣の様な不敵な笑みを浮かべるカインとは違い、冷静で、呆れた様に首を振るシャロンの紅い瞳に宿るものは憐れみだった。


「そしての……そのフェンリルの血が更に厄介じゃ……そんな化け物の因子など取り入れてみろ? お主の様に器となる身体がもたず暴走し、フェンリルの因子に細胞が喰われ侵食し、壊れ始めてしまう」


「そ、そんな゛馬鹿なぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」


 説明を終えたシャロンは両の瞼を閉じ、残念そうに首を振る。

 その姿を見たカーミラの破裂しそうな紅い瞳は絶望に染まる。


「フハハハハハハ……いいわ゛……私が滅ぶどいうならば! カイン=ガーランド! 貴様も゛道連れに゛じでやる! ごれも、まだ、ヴァンバイア゛の花嫁の、呪いど知れ゛!」


 先にぶくぶくと肉が盛り上がり膨らんだ片足が限界をむかえ弾け飛ぶと、王の間に血と肉の雨を降らせた。

 カーミラは、もはや正気をなくし、狂った紅い眼で傀儡の魔眼の術にかけたマリアを見、命令する。


「グハ゛ァ! マリア゛……ぞの手にじだ……フェンリル殺じの……銃を゛……カイン=ガーランドへ……撃ち゛な゛ざい゛!」


 元のまるで人形の様だった美しい顔はそこにはもうなく、ただの肉塊にしか既に見えなくなってしまったカーミラが、ぶくぶくと膨れた唇で告げた。


「オ゛ェエ゛エ゛エ゛エ゛エ゛! も、もじ……ぞの男が銃を避げだり、女王が邪魔をじで、フェンリル殺じの弾丸が当だらなげれば、舌を噛み切り、自害なざい! グゥハ゛ッ!」


 「邪魔をして――」「当たらなければ」この二つの単語のせいでシャロンが転移などで、マリアの邪魔をすることも、カインの盾になることも叶わなくなる。

 そうするとは予想していたが、シャロンは憎々し気にカーミラであった肉塊を睨む。


 苦しげに呻きながら言い放ったカーミラの命令を聞いたマリアは、手にしたフリントロック式の銃の引き金を引こうとする指を、止めようと必死に逆らい指を震わせる。


「いやだ……いやだ! 止めろ! いやだ! ふざけるなよ! アタシの言うことを聞きやがれ! これはアタシの身体だろ!? なんで言うことをきかねぇだよ!」


 怯える様に首を振り、涙を流しながら必死に傀儡の魔眼の術に抗うマリアの唇は震えていた。


「ふざけんなよ! 止まれよ! 止まれって言ってんだろ! クソッ! アタシに逆らう指ならいらねぇよ! なぁ、シャロン! 今すぐアタシを殺してくれ! ……なぁ!? 頼むよ! シャロン……お願いだから」


 マリアは強気な顔を涙でぐしゃぐしゃにし、子供の様に泣きじゃくり、自分を殺してくれと必死にシャロンに頼むが、苦々しい顔のシャロンは瞼をきつく閉じ、首を数度振ることで、拒否の意を示す。


 それを見たマリアの蒼い瞳は絶望に染まり、唇は震え、とめどなく涙が溢れ出す。


「何でなんだよ……何でなんだよ!? 何でいつもアタシの大事なヤツは、アタシの前から消えてくんだよ! 何でだ? あ゛!? クソッ……頼むよ……頼むから止まってくれよ……なぁ!?」


 だが、悲痛なマリアの願いも、言葉も虚しく、引き金にかかった指は無慈悲に引かれる。


 王の間に、マリアの絶望の閃光と破裂音響かせ、フェンリル殺しの銃弾はカインの胸のど真ん中を撃ち抜く。


「ガッ! ハッ……」


 胸を襲う鈍い衝撃にカインは苦悶の声を上げ、それを見届けたカーミラは狂った様な笑い声を王の間に響かせると、醜くぶくぶくと膨れ上がった全身がとうとう破裂した。


 二夜の月の晩、王の間に肉片と血の雨を降らせ、ついに始祖ヴァンパイア――カーミラはこの世から消滅した。


 胸にロキが作りしフェンリル殺しの銃弾が撃ち込まれ、カインの身体は撃たれた衝撃から一拍置いて、血が沸騰した様に熱くなった。


 そして身体中のフェンリルの因子が宿った細胞が壊れ始める。


 自分の身体がどんどんと破壊されていくことを感じながら、胸に空いた銃創からはドロリと赤黒い血が流れ出す。


「ちっ。ロキのクソ野郎が……厄介なもん作りやがって」


 口から血を吐き出すと、急激に膝から下の力が抜け、王の間の床に一度膝を着く様に力なく崩れ落ち、仰向けになって倒れたカインは舌打ちを一つ打ち、毒ずく。


「はぁ、はぁ、はぁ……嫌だ……嫌だ……アタシが……カインを撃ち殺すなんて……そんなの嫌だ……そんなの……耐え切れない」


 フェンリル殺しの銃を手の中で震わせていたマリアは、浅く早い息をしながら呆然とし、王の間の床にガシャンと鈍い金属音を立てさせて銃を落とすと、弾かれた様に倒れたカインの元へと駆け寄る。


「ごめん……ごめん……ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん……嫌だぁ、嫌だぁ……アタシを……一人にしないでくれよ」


 フェンリル殺しの銃に撃たれ、夥しい程の血が流れるカインの胸に両手を当てて、必死に止血しようと試みるマリアは、両手をカインの血で血塗れにしながら壊れた人形の様に謝り続けた。

 するとマリアは不意に思い出したかの様に、何度も何度も回復魔法をかけ始めるが、その甲斐もなく一向にカインの胸に空いた銃創は塞がらなかった。


 マリアは狂った様に回復魔法をひたすらかけ続けるが、やはりカインの銃創は塞がらない。


 その様子を痛ましく暫く見ていたシャロンだったが、マリアの回復行為をもういい加減止めなければマリアの身体に障ってしまうと、声をかけようとするが、それをできずにいた。

 シャロンは悔し気に目を瞑り顔を顰め、またもや唇を強く噛む。

 自分はなき主にマリアを託されたのだ、だから今は悲しんでいる場合ではないと、再びマリアに声をかけようとした時だった。


「おい……俺を勝手に殺すなよ?」


「カイン! まだ、生きて……」


 意識を取り戻し、いつもの軽い口調で言葉を口にした後、カインは泣きながら必死に自分の血を止めようとするマリアの手に一度触れる。

 回復魔法を止めさそうとするが、マリアはカインが意識を取り戻し、声をかけたことにより、より一層強い力で一心不乱に回復魔法をかけ始めてしまった。


 確実に死に向かって進む自分の身体のことを自覚しているカインは「しかたないなと」胸中で温かい笑みを漏らし、いつも通りの不敵な笑みで自身の血で塗れた片手をマリアの頬に当てる。

 すると、ハッとこちらを見たマリアの蒼い瞳から零れ落ちる、大粒の涙がカインの顔にかかる。


「なぁ……マリア。人はいつ死ぬと思う?」


 死の淵に立たされて尚、カインは不敵で悪ガキな笑みを浮かべた。


「なに言って……」


 唐突で、ショッキングなカインの質問の意図が理解できないマリアは、続けていた回復魔法が止まってしまい、呆然としながら言葉を返す。


「お前が撃った弾丸は、ロキの野郎が作ったものだ……効果もこの通りだ……俺は死ぬんだろう」


 口元を血で汚したカインの口角が、皮肉気につり上がって語り出す。


「だがな……俺はまだ生きてる。俺はまだ死んでねぇ」


 血塗れの手でカインはマリアの涙を指で拭う。


「お前に撃たれた先に死が待っていようが、まだ死んでない……まだ俺は生きてる。殺そうと思えば誰かの命だって奪えるし……お前の涙だってこうして指で拭ってやれる……な? 俺はまだ生きてるだろ?」


 優し気な目でマリアの悲しみに染まった蒼い瞳を見つめながら、自身の考えを訴える様にマリアに語るカインは、胸に置かれたマリアの血塗れの手をどかせると、必死に立ち上がろうと王の間の床に腕を着く。


「何やってんだ!? じっとしてろ!」


 瀕死の怪我を負っているにも関わらず、立ち上がろうとするカインに、ヒステリックに叫ぶマリア。


――ちっ……まだだ……まだ死ぬんじゃねぇぞ俺の身体! まだやるべきことが残ってんだ。こんな所でくたばるんじゃねぇ!


 カインは胸中で舌打ちをすると、自身の身体が怠く、さっきまでは燃える様に熱かった身体が、今は寒く感じ出したことで自分自身に発破をかけた。


 撃たれた胸の銃創の痛みも薄れた身体を、必死に立ち上がらせるカイン。


 そんなカインのとる行動と言葉が理解できず、呆然と涙を流しながら、マリアはただただカインの行動を目で追った。


 カインは苦し気に立ち上がると、ゆっくりと歩き始める。

 王の間に血の跡を残し、ふらつきながらも必死に歩く。


 そして、鉛の様に重い足でカインが辿り着いた場所は、不死の竜――ドラゴンゾンビが横たわる場所だった。

 目的の場所まで辿り着いたカインの視界は白み、身体から力がどんどんと抜けていく。


 何度も「生きている」と口にしたカインの言葉とは裏腹に、身体は確実に死に向かっていた。

 カインは不敵に笑いながら不死の竜を登り足元の不死の竜を何故か憎々し気に一度片足で踏みつけ、そして王の間に空いた穴を背にする。


 カインは今からとる行動の意味を言葉にする為に此処に立った。

 それはもう愛しい人の涙を拭えなくなる男の、最後の見栄。最後の意地。


 まだ若い彼の独りよがりな自己満足なのだろう……こんなことで彼女は救われないことなどわかっているのに。

 もしかしたら、もっと彼女を傷付けるのかもしれないと考えるのに。


 今から発する言葉も行動も、ただの屁理屈で……意味は虚しい……でも、それが自分にできる精一杯なのだからカインは止められないのだ。


 理屈じゃないのだから。


「人間いつかは死ぬさ……寿命で死ぬか、病で死ぬか、戦って戦場で死ぬか……こうやってお前に撃たれて死ぬかの違いだけさ」


 カインはとびきり不敵に笑う。

 この結末に反逆する為に。


「だがな、俺はまだ死んでない……生きてる。生きてるってことは何かこの世に関与できるってことさ……例えばここで俺がお前の銃弾で命が尽きる前に、ここから飛び降りて、お前の銃弾で死ぬより先に俺が死んだとしたら? それはお前が俺を殺したことになるのか? 俺はまだ生きてるのに? 死ぬのはもう少し先だったハズなのに? 戦いで死ぬのも、病で死ぬのも、寿命前に死んだらそれが結末だろうが」


 外から流れ込んでくる風が気持ちいいとカインは感じた。


 使い魔であるシャロンは、主のしたいこと、言いたいことを悟り、カインの行動を黙って見守っている。


「死の結果はまだ決まってない」


 呆然とカインの言葉を聞き、涙を流し続けるマリアにカインは不敵に笑う。


「決まってるのはマリア……お前を愛してることだけだ」


 そう言うとカインは両手を大きく広げ、体重を背中に預けだし、ワインレッドのレザーコートを風に靡かせて、二夜の月の夜の空に身を投げ出した。


「ロキのクソ野郎が……テメェの思い通りに進んで満足か? はん」


 背中からゆっくりと不死の森の廃城の最上階から落ちていくカインは、重力に身をまかせ、猛スピードで二夜の月の景色が過ぎていく中、天に中指を立てて不敵に笑う。

楽しんで頂けていたら幸いです♪感想、ブクマ、評価など励みになるので、どうかお願いします!!

(`・ω・´)ゞ

さて、カインとマリアの運命はいかに!? それは次のエピローグで明かされます。

そして次のエピローグを終えると二章の幕が上がりますよん!!

皆様エピローグと第二章も、よろしくお願いいたします!!

m(__)m

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