フェンリル殺しの魔弾
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廃城の王の間は、かつての主、漆黒の王にではなく始祖ヴァンパイアのカーミラによって支配されていた。
「フフ、賢い選択だわ」
「賢い選択……ね。それで? アンタの目的ってのは何なんだ?」
得物をカーミラの方へと捨てたことで、カーミラの笑みは深まり、そんなカーミラの言葉を聞き、カインは軽い調子で両手を軽く広げ、首を傾げるとカーミラに尋ねる。
「私はね、ヴラドがヴァンパイアの花嫁の儀を済ませ、更に強くなったあの男の血を吸って私も上の次元の存在になるつもりだったの……まぁ、見事に貴方に台無しにされたけどね」
腕を組みながら話を聞いていたカインは、マリアのこめかみに銃口を当てながら語るカーミラの言葉と皮肉を聞き、大げさに肩を竦めてみせる。
「愚か者め、過ぎた力は不幸しか招かぬぞ……お主は何の為にそこまで力を欲するのじゃ?」
話を聞いていたシャロンは人形の様に美しい顔を険しくさせ、ここからは自分ではなく主であるカインが行うことに全てを委ね、自らが動く時はいざという時のみマリアの命を最優先に行動すると決意する。
「第二のラグナロクを生き抜き、始祖の女王になる為ですわ。それに先達の始祖ヴァンパイア達にはもうウンザリなんですの。我々、最後に生まれた世代を蔑ろにし、侮辱するあの方々に私は教えて差し上げるのですよ……真に優秀なのは誰か」
憎々し気にケロイドの跡が残る顔を憎しみと憎悪で歪めるカーミラは、怒りで指が震えだし、今にもマリアに向けている銃の引き金を間違えて引いてしまいそうだった。
「はん。ここでも第二のラグナロクか……どいつもこいつもロキの野郎にのせられやがって」
「なるほどのう……確かに始祖ヴァンパイア共は、生まれた時期が遅ければ遅い程力が弱かったのう……それに独自の貴族社会――階級制度で生きておる……やはりお主のことは始祖ヴァンパイアの女王であるわらわが解決すべきなのじゃが……お妃様に手を出してしまった以上、これは主様が決める問題になってしもうた……残念じゃ」
くだらないと一度笑うと、カインは組んでいた腕の片方の二の腕を人差し指で叩きながら、ロキの名と第二のラグナロクという言葉を聞き不機嫌に言葉を零す。
同族の女王であるシャロンは、本来ならば自分が解決すべき問題だったと後悔を顔に滲ませていた。
「女王よ、そんな憐れみなど私はいらないのですよ……さて、話がズレてしまいましたわね。ということで、カイン=ガーランド。おとなしく貴方の血を吸わせなさい? そして貴方もヴァンパイアに! 私の眷属にしてあげる。そして未来永劫、私の生ける血袋の家畜として血を提供なさい!」
カーミラのすべきこととは、死んだヴラドの代わりにカインの血を吸い、カインをヴァンパイア化させ自身の眷属にすることだった。
確かにそうすればいつでも血を吸えるうえ、吸った者の力を取り込むことができる。
「あぁ、なるほど。アンタの予定では此処に俺じゃなく、アベルのヤツが来るハズだったのか……ヴラド制御するのは手に余るし、血を吸っても、ただ吸うだけじゃ一時的にしか自分の力にはならないからな。協力する代価に血を吸わせてもらってもヴラドに勝てるかどうか微妙なラインだろうからな」
組んでいた腕を解き、カインはずっと引っかかっていた疑問が解けてスッキリすると、上機嫌に指を鳴らし、人指し指をカーミラへ向けて不敵に笑う。
「ふむ、なるほどのぅ……ヴァンパイアが血を吸い、自身の力にする為には二パターンある。一つは血を吸い、吸った者の力を一時的に取り込み力を上げる。もう一つは魂にまで干渉し、その者の命ごと吸い切り、自身に吸った者の力を完全に取り込むことじゃ」
カインの言葉を聞き、シャロンもずっと引っかかっていた疑問が解消し紅い目を細めた。
「ヴラドはもう既にお主の眷属ではあるまい? ならば花嫁の儀が終われば貴様に血を与えることはないじゃろう。そんなことは百も承知しておるお主の第一の目的は、ここに本来辿り着く予定だった男の血を吸うこと、ミズガルズ王国と事を構えれば出てくる男……剣聖アベルの血を吸い血袋にし、眷属として駒を増やすか、完全に取り込み……その後に花嫁の儀を終わらせたヴラドの血を吸い切るつもりじゃったという訳か……」
シャロンによってカーミラの計画は全て暴かれ、それを聞いたカーミラは口角を更に上げ勝ち誇った笑みを浮かべる。
「ヴラドはアベルを倒し差し出す。その代わりに、お主はヴァンパイの花嫁の儀を教える……これが本当のヴラドとお主が協力関係を結んだ理由か……まぁ、ヴラドもお主が自身まで取り込もうとしておることぐらいは気付いておったろうがのう……」
裏で糸を引いていたのはカーミラなのだと悟ったシャロンは、今迄この事実に気付けなかった自身の思慮の浅さを悔やみ、手を強く握る。
同族である自分がもっと早くこの企みに気付いていれば、自身の主をこんな窮地に追い込むことはなかったのかもしれないと悔やむ。
「フフフフフ、女王様も案外抜けていらっしゃるのね? さて、ネタバレもしたことだし、カイン=ガーランド……貴方の血を頂くわよ? いいわね」
「はん。食あたりになっても文句は言うなよ?」
自身の欲望が目の前にあることに、喜びで心を高ぶらせ、虚ろな蒼い瞳のマリアのこめかみに銃口を当てながら毒々しく凶悪な笑みを浮かべるカミーラに対し、馬鹿にした様にひと笑いを入れた後に、首筋がよく見える様に首を傾け、片手でその首筋を二度ほど掌で軽く叩くと、カインは不敵な笑みで皮肉気な言葉を口にし挑発的な態度をとる。
「そうやって調子にのっていられるのも今の内よ? さぁマリア、この銃を受け取り、あそこにいる貴方の愛しい人に銃口を向けなさい」
カーミラのその言葉にシャロンは驚愕し目を見開き、カインは紫苑色の瞳を一瞬細めたが不敵な笑みは崩れない。
シャロンが目を見開いて驚愕するのも当たり前だろう、何故ならフリントロック式の銃ごときで、フェンリルの因子が覚醒した状態のカインの命を絶つことなどできないことはわかり切っているからだ。
そんなことはカーミラも承知しているはず。
だが、意味ありげに毒々しく笑みを浮かべるカーミラは、マリアの手にフリントロック式の銃を握らせると、マリアは自分の意思とは関係なくカーミラの指示通り虚ろな蒼い瞳で銃口をカインへと向けた。
「流石魔神ロキといった所なのかしらね……」
「ロキが何だって?」
カーミラの意味深な呟きに、カインは片手を耳に当てて、聞こえているのにワザと「何か言ったか?」といったジェスチャーでカーミラを挑発する。
「フフフフフフ、余裕を見せていられるのも今の内よ……この銃はね、あの魔神ロキが作った銃なのよ。そしてこの銃に詰められているのはスヴィティという素材で作られた弾丸に、グレイプニルの呪印を施したものらしいわよ? フェンリルの因子を持つ貴方が喰らえばただじゃすまないわよね? 最悪フェンリルの因子は滅び、貴方は死に至ると聞いているわ」
ここにきてカーミラが切ってきた切り札は、ロキが作ったフリントロック式の銃とフェンリル殺しの弾丸だった。
それを傀儡の魔眼の術に縛られ、操られているマリアが握っているのだ。
こんな最悪な状況はないと、シャロンは焦り、この状況を何とか打破する手段を考える。
焦るシャロンの顔とは対照的に、カインは銃の事実を聞いても不敵な笑みは崩さなかった。
むしろロキの名とロキが作ったフェンリル殺しの銃を向けられたことにより、今迄浮かべていた不敵な笑みに獰猛さが加わり出し、犬歯を剥き出しにして笑うカインは、より挑発的に紫苑色の凶悪な目付きでカーミラを睨み愉しそうに笑う。
傀儡の魔眼の術にかかっているマリアは、カーミラが言った事実に呆然とし、今自分が手にしている銃は、カインを殺せる銃なのだと理解すると、銃口と身体が、小刻みに震えだす。
「いいわぁ! いいわよ貴方。傀儡の魔眼すら上回る悲しみと絶望と恐怖を感じるわよ? 元ヴァンパイアの花嫁さん。結局ヴラドが死んでヴァンパイアの花嫁の呪印は消えたのでしょうけど、貴方の呪いは消えなかったわね?」
マリアの首筋に舌を這わせながら残酷に嗤うカーミラ。
「そんな可哀想な貴方に、慈悲をあげるわ」
舌を首筋に這わすのを止めると、カーミラは毒々しく嗜虐的な笑みで指を鳴らす。
「テメェの慈悲なんかクソ喰らえだ! ……あれ? アタシ……声が出る」
虚ろな蒼い瞳に意志の光が戻り出し、マリアは胸中で言おうとしていた文句が急に声帯と唇が動き出したことにより、それが声となって王の間に響いた。
驚き混乱しているマリアを見つめながら、シャロンはカーミラの悪趣味さに「下衆が」と小さく呟き、これから起こるであろう悲劇に桃色の唇を噛み締める。
シャロンの唇から流れ落ちる血は、もしかしたら未来の誰かの涙なのかもしれない。
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一章も残すところエピローグを含め後二話だぁああああああ!!
_(:3」∠)_




