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誰が為に捧ぐ剣か  作者: 神戸 遊夜
第一章 ヴァンパイアの花嫁
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記憶を彷徨う

ページを開いてくれた事に感謝します♪ご意見、ご感想などあればよろしくお願いいたします。m(__)m

「困った口の悪いお姫様だ。あの方の妻に選ばれるなど、これほど光栄なことは無いと言うのに」


 唐突にアンクー達がおとなしくなり、動きを止める。そして先程の言葉を発した主がアンクー達の奥から彼女の方へと歩いてくる。


 髪は剃髪され頬はこけ、ハデス教の司祭服を着た壮年の男の左目は義眼で、何かの魔法陣が赤く描かれていた。


 義眼は動く事無く虚空を見つめ続けるが、彼のもう片方の左目がギョロリと彼女に向ける。


「さぁ、時がきたのです。ハイエルフのマリアよ。おとなしく私と共にツェペシュ公の元へ。それともまだわかりませんか? 貴方のせいなのですよ? 貴方の帰るべき場所、貴方の海賊船団が潰れ……あの愚かな人間共が死んだのは貴方のせいだ……貴方は周りの者達に不幸を呼ぶ」


 マリアと呼ばれた女海賊のハイエルフは義眼を付けた司祭の言葉に悲しみと怒り、悔しさ後悔……そして何処か諦め等をないまぜにした表情で唇を噛む。


「うるせえよ……黙りやがれよ」


 やっとの思いで絞り出した様に――それでも強気な自分が消えてしまわない様、言葉を返す。

 マリアのその言葉と態度を嘲笑う様に、義眼を付けた司祭の男は言葉で畳み掛ける。


「貴方が生まれ落ちた時からそれは変わらなかったはずだ。貴方の故郷の森のハイエルフ共はどうでした? 貴方の心の臓の上に刻まれた呪われた呪印を見て両親は貴方を守ってくれましたか? 森の仲間たちは?」


「るせぇつってんだろうが! テメーの下の毛で口を縫い付けるぞ! あぁ!?」


 レイピアを横に振り、マリアはヒステリックに叫んだ。


「迫害され、疎まれ、恐れられ、そして貴方を捨てた……幼い貴方は故郷の森を追放され、その後に待ち受けていた事は? 妖精王オーベロンは? 世界は? 誰かが貴方に救いの手をさしのべたのですか? 世界は貴方に優しかったですか?」


 義眼を付けた司祭の男の言葉でどんどんと強気な力が抜けてゆき、過去の出来事が頭を駆け巡り、マリアの身体を縛った……。

 だらりとレイピアと銃を手にしていた両手を下げ、地面を見つめる。


「しかしまぁ、例外はいましたね。先代の船長……アルビダ。ですがそのアルビダもとんだ災難を拾ってしまったものです」


 アルビダ――マリアに救いの手を差し伸べ、母代わりになってくれた女性の名前を出され、身体がビクリと跳ねた。


 マリアは、アルビダに出逢う前の記憶を思い出す。


 呪いの刻印が刻まれていたマリアは忌子だと迫害され、同族の仲間意識の強い森のハイエルフ達どころか、実の両親でさえ自分を守ってはくれず。疎み、嫌っていた当時の事を思い出す。


 森で災厄が起きる度、森の仲間はマリアを責めた。災厄が訪れる度に、災厄が原因としか思えない仲間の死に、やがて森の仲間達は耐えられなくなったのか、ハイエルフの長老達が幼いマリアを故郷の森から追放したのだ。


 追放された後に待っていたのは人間で言うと十歳程でしかないマリアにとっては過酷な状況と言う他無かった。


 ろくに知識も無く、闘い方も知らない、エルフの得意とする精霊魔法すら精霊がマリアを怖がって避ける為に使えない。


 そんなマリアが魔物や獣がうろつく森を生きて抜けるなど無謀でしかなく、人里に傷だらけの身体で辿り着けた事すら奇跡だっただろう。


 村の近くの森で傷だらけで倒れていたマリアを見つけたお爺さんは、急いで家にマリアを連れ帰り傷の手当てをした。


 マリアを助けたお爺さん――老夫婦は意識が戻り、泣きながらお礼を言い、一時でも早く老夫婦の家から出て行こうとするマリアに温かいスープを飲ませる。


 何か事情があると察した老夫婦は若い頃に流行り病で娘を失った為か、どうしてもマリアを放っておけなかった。

 だから何も喋らなくとも良いと、辛い事はもう独りで耐えなくとも良いと必死に抱きしめ家にひきとめたのだった。


 村は裕福では無かったが、のどかで人の温かみを感じる村だった。が、なにぶん田舎な村だ、最初は田舎独特の閉鎖的な部分とマリアが珍しい他種族のエルフだということも相まって、マリアにそっけない所もあった。


 だがマリアが老夫婦の支えになったり、村の手伝いを一生懸命に頑張った為か、徐々に受け入れ、仲間に迎え入れてくれたのだ。


――そんな温かい村を苦しめ、滅ぼした奴がいる……それは自分自身だった……。


 ある災厄が立て続けに起こり村を苦しめていた日の夜、突然彼女の元へ現れたのは、ツェペシュ公の使いだと言う魔神……。


――お初にお目にかかります我が主の姫君よ、我が名はヴラド=ツェペシュ様に仕えし魔神、ロキと申します。

今日はツェペシュ様の使いでマリア様に会いに来ました。知っておられるかは存じませんが、今日は貴方様の左胸に刻まれし刻印の件でまいった次第です。

早速で申し訳ありませんが、要件にうつらせて頂きます。貴方は大変特別な御方、貴方様のその左胸に刻まれた刻印は、我が主ヴラド=ツェペシュ様の……ヴァンパイアの花嫁の印なのです。

そして時がくれば、ツェペシュ様の使いの者がマリア様を迎えに来ます。それまでに貴方様にはしては頂けない事がございます。

その刻印を刻まれた花嫁は、周りに不幸を呼びます。何故か? その刻印はある種の果実。更に気高く、汚れなき乙女の心に刻むと負の感情を栄養にし、甘く甘く熟してゆくのです……そして貴方は永遠の乙女ハイエルフ。


 幼いマリアの前に現れた魔神ロキは教えた。

 故郷の森でマリアが産まれた時、ヴァンパイアの花嫁の呪いの刻印を封じる魔法をかけたが、無駄だった為にハイエルフ達は森からマリアを追放したこと。


 そして故郷の森でも彼女を大事にしてくれている老夫婦が住むこの村でも起きている不幸、災いは、マリアの呪の刻印の力が災厄をもたらしているのだと告げる。


 今村は自然災害等で荒れ、田畑だけでなく村そのものに被害が出ていた。

 疫病が流行り、死者が続出し、噂ではこの村を救う為、近く、国の騎士団が村に訪れると耳にしていた。


 そう、これ以上疫病が広がらない為に、この村人達を、国民を、国を救う為に、村ごと焼き払いに。


 魔神ロキから語られる数々の事にマリアは呆然としてしまう。

 その時だった、村に馬の嘶きが響いたかと思うと、田畑や家屋が炎に包まれ村に火の海が押し寄せて来る様だった。


――な、何? 何が起きているの? お爺さん! お婆さん!


 ロキを置き去りにし必死に老夫婦の家に向かって走り出す。その道すがら、村の人達や友人が血まみれで地面に倒れていた。ヒッと息を吸う様な小さな悲鳴をあげる。


 一時身体をこわばらせた後、急いで友人の一人に駆け寄り屈んで友人に触れながら声を掛けるが返事はなく、息をしていなかった。


――まだ生き残りがいたのか。


 友人の死にショックを受けていたマリアの後ろから、甲冑姿の騎士が現れ槍を屈んでいるマリアの背中に突き刺そうとした。


――マリア!


 マリアの背中に伸びてきている槍の穂先から庇う為、お爺さんがマリアを後ろから抱きしめる。

 ゴボッっと口から血を吐きながらお爺さんがマリアを自分の方へ向け優しく喋りかけた。


――け、怪我は……ない……かい? マリア。


――ええい! 邪魔だどけ!


 騎士は苛つきながらもう一度お爺さんを槍で突き刺す。


 お爺さんは、いつもと変わらない優しい笑みを顔に浮かべたまま自分に倒れてきた。

 マリアはお爺さんの肩越しに騎士の顔をみる。特に嘲ている訳でも、憎悪に染まっている訳でも無かった。


 ただ、普通にちょっとした苛立ち、何処にでも見かける事ができる表情をしているだけ。


 なのにマリアはその顔を見た瞬間、今迄自身に起こって来たこと、故郷の森を追放されたことや、魔神ロキから聞かされたこと、死にかけていた自分を助けてくれた老夫婦へのこと、この村が火の海であることが、暗い暗いマリアの感情が身体中を、脳を支配し暴れ出した。


――うぁあああああああああ!!


 血塗れのお爺さんを抱きしめ、マリアは月を見上げ涙を流しながら吠える。


――どうして私は生まれてきてしまったの?


 数少ないマリアの精霊の友人である風の精霊シルフが彼女に集まり出す。


――何で皆私のことを嫌うの?


 風が守る様にマリアの周りを回り出す。


――何で私はここに居てしまったの?


 シルフの風がお爺さんを刺した騎士へと襲い掛かり、甲冑ごと騎士の身体を切り裂き四肢を切断させた。


――ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい……。


 風が勢いを増し、大きな竜巻へと変わる。村に押し寄せていた騎士団員達が次々と暴風に捕らえられ、身体がねじり切れてゆく。


――ヴァンパイアの花嫁ってなんなのよ! 呪いの刻印なんて消えてよ! こんなの嫌だよ……誰か私を殺して……誰か私を助けてよ……誰かそばに居てよ……誰か私を見つけてよ!


 マリアはぐちゃぐちゃになった想いを喉から血が出るほど叫んだ。

 そんな想いに影響されたのか、シルフの風の精霊魔法は暴走し、村全体をのみ込んでゆく。


 その後のマリアの記憶はとびとびだった。村があった場所に自身がただ呆然と立ちすくみ、瞳から光は消えてしまっていた。


 どうして私はお爺さんとお婆さんの所に留まってしまったのだろうと、私が皆を殺してしまったんだと自分を責め続ける。


 しかし、親や同族からも傷付けられ続け、孤独の中に居た幼いマリアにとって、そんな模範的な回答など出せるはずは無かったのだ。


 彼女はこの日、自ら命を絶つ選択肢を消した……そんな甘えなど許される訳が無いと……。


 彼女はうつろな目で村から歩きだした。この自ら歩む道が地獄だと知りながらも。


 マリアは何日も何日も歩き続けた。眠ることも忘れ、雨を飲み、草だろうが何だろうが食べれるモノは口にした。眠ることも忘れ歩き続けた。やがて、彼女は港町に流れ着く。

次の投稿は早くて明日の夕方以降になるかと思います。皆さんに楽しんでもらえる様に頑張ります♪

(`・ω・´)ゞ

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