憐れな道化
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不死の森近くの廃村は、むせ返る様な血の臭いと村人の死体で満ちていた。
いくら夜の闇で隠そうとしても、空に浮かぶ二夜の月と、今は死体となった村人達が掲げていた松明の火が、それを許さない。
松明は廃村の地面のあちらこちらに落ちており、照らされた死体達は、ほとんどがカイン一人によって作り出されたものだ。
そんな死の世界に残るのは、カイン達と始祖ヴァンパイアの眷属、二人だけになってしまった。
「高貴な私を、たかが人間が、たかが蛆虫風情が、調子にのるな!」
闇夜の空の上で、蝙蝠の羽を背中から生やしたスカーレットがカインの言葉に激昂する。
が、カインは剣を肩で担ぎ、肩を竦ませて返すのみで終えた。
「もう、そろそろいいかな?」
黒いコートに長い金髪赤目のヴァイスと鍔迫り合いをしていたアベルがそう呟くと、聖剣エクスカリバーに込めていた力をフッと抜く。
虚を突かれ、いきなり剣を押し込む力を抜かれたヴァイスは、前にこけそうになったが、何とかその場に踏みとどまり、そのままバスタードソードを鋭く横に払う様にアベルの身体目掛けて斬り込んだ。
通常の人間の何倍もの力を持つヴァンパイアになったヴァイスの、その両手から放たれる斬撃は、暴風の様な恐ろしい風切り音を立てながらアベルに迫るが、それをアベルは涼しい顔で、難なく片手に持った聖剣で打ち払いにかかる。
剣と剣がぶつかり合い、その衝撃をヴァイスの持つ剣の刃から柄に伝達する様に打ち払ったアベルの一撃は、ヴァイスの手を痺れさせ、剣は柄をしっかりと握っていた手から弾けて地面に落ちる。
「どうしたの? さぁ、剣を拾いなよ?」
闇夜に無感情な氷の笑みを浮かべ、アベルはヴァイスに剣を拾う様促す。
「き、貴様、今まで手加減でもしていたというのか?」
薄々気付いていた事実を認めたくないヴァイスは、怒りでその感情を打ち消すかの様にアベルへと怒鳴る。
ヴァイスはアベルへの恐怖か、自身のプライドを傷付けられた怒りにか、それともその両方になのかはわからないが、屈辱的な感情に囚われ、身体をわなわなと震わせる。
「村人達はヴァンパイアの眷属になるのに失敗した存在の様だったし、あの数だ。いくら僕の部下達が優秀でも、数の戦いじゃ不利になる。手加減と言うよりは、君を抑えさせてもらっただけさ」
「なら、貴様が俺をさっさと倒して、仲間を助けに行けば良かっただろう!」
剣を拾わずに怒鳴り続けるヴァイスの言葉に、アベルは首を傾げた。
「うん。そうしても良かったんだけどね。そうすると君と、あちらの女性が警戒するでしょ? もしかしたらマリアンヌ……ヴァンパイアの花嫁のマリアさんを、君達が僕を無視して攫いにかかるかもしれない。だからかな? まぁ、そうしても結局シャロンちゃんに阻止されていただろうけどね」
「な、何でそんな面倒なことを……」
自分とひたすら剣を打ち合ったというのに、息一つ乱さず喋るアベル。
そんな彼がその気になれば、自身の渾身の一撃をも片手に持った剣で、いとも簡単に打ち払ってしまえる程の実力者だったと、やっと理解したヴァイス。
アベルは絶望の表情を浮かべるヴァイスに、更に冷淡に口を開いた。
「簡単な話だよ? 君達は自分がヴァンパイア化したことで僕達を軽く見ていた。油断してくれているなら、その方が勝つ確率は上がるからね。それに、半ヴァンパイア化した村人達は脅威だけど、うちの隊員なら上手く立ち回れる様、日頃から訓練を積ませてある。彼等なら持ちこたえると信頼していたんだよ。まぁ、危なくなれば、いつでも助けに行けばいいだけの話さ」
最後の方の言葉で、やっと感情を出して肩を竦めるアベルは、まるでヴァイスなど眼中にないといった口ぶりだった。
「な、舐めるなぁあ! ヴァンパイアの力を手に入れた俺は負けたこと等ないんだぞ!」
プライドを完全に傷付けられたヴァイスは、地面に落ちた剣を拾い、叫びながらアベルに向かっていき、怒りに任せてバスタードソードを両手で振り下ろす。
確かにその斬撃は強く、脅威的な一撃だった。
ただし、アベルが住んでいる強さの領域に居る者達、それ以外を除いてはと、但し書きが付くが。
「そして君達の一番の間違いは、此処にカインが居る脅威を認識していなかったことだ。彼が一人居れば、半ヴァンパイア化した村人達を潰すのは簡単だからね。あとは君を僕が抑えていれば、油断しているスカーレットを警戒するだけでいい。ヴァンパイアの眷属になった二人を警戒させて自由にしなくて済めば、マリアさんの安全も、君達を確実に仕留める確率も、ぐんと上がるからね」
自身に迫りくるバスタードソードを簡単に聖剣で受け止め、冷静にアベルはヴァイスに自身の考えを告げ終わると、聖剣をズラして相手の剣の刃を自分の身体の横を通らせる。
力の行き場を失ったバスタードソードは地面を割って止まる。
ヴァイスは自身の剣を上手くズラされたことに舌打ちし、次の一撃を放とうとするが、アベルがそんな大きな隙を逃す訳もなく、聖剣を今迄ヴァイスに見せなかった鋭さで斜め上へと一閃させた。
結果、頭を強く打つ衝撃の後、ヴァイスの視界は、地面から村を横向きに見た風景に変わる。
「ちっ。俺をこかして又俺を虚仮にするつもりか! ふざけるなよ! さっきの一撃で殺しておくべきだったと後悔させてやる! ヴァンパイアになった俺は誰にも負けん! ハハハハハハハ!」
高笑いをするヴァイスをアベルは絶対零度の瞳で見つめると、興味を無くした様に背を向けて遠ざかる。
「ま、待て! 何処へ行く気だ!? まだ勝負は終わっていないぞ!」
唾を飛ばして必死に怒鳴るヴァイスを、アベルは肩越しに後ろへ振り向き足を止めた。
「君さ……もう死んでるよ? 僕は生首と喋る趣味はないんだ。特に、人の命を弄ぶ様な下衆とはね」
「な、何を言って!?」
アベルに言われたことがわからなかったヴァイスは、自分の身体を起こそうとしたが、起き上がらず、何処かダメージでも受けたのかと目で身体を確認すると、そこには地面に倒れた自分の身体が横たわっていた。
そう、首の断面から血を噴き出し、首から上のない自分の身体が。
ヴァイスは自分の首が刎ねられていることに気がつくと、いっきに意識を失い絶命した。
「ほんとは君みたいな下衆は法廷で裁いて、罪を償わせたかったんだけどね。残念ながら今は任務の途中だから、君が死ぬだけで赦してあげるよ」
ミズガルズ王国の剣聖はそう冷たく告げると、再び前を向き、死体になったヴァイスから離れていった。
「さて、後はそこの蝙蝠ババアだけになったな。それで? 気になってたんだが、お前のお姉さまってやつが、ヴラドの野郎をヴァンパイアにしたのか?」
空で、たかが人間ごときにヴァイスが殺された事実に、スカーレットは驚き、言葉を失っていた。
そんな所に、カインが軽い調子でスカーレットに尋ねる。
「バ、ババアですって!? 貴方、少し強いからと言って、調子に乗っているのではなくて?」
外見は艶のある長い黒髪がふわりとカールし、キツイ印象を人に与えるが、綺麗に整った顔立ちに真紅の瞳をした妖艶な大人の女性の姿をしているスカーレットは、ババアと侮辱したカインの言葉で、怒りに顔を歪ませる。
「たかが人間の蛆虫風情の分際で、第二のラグナロクを生き抜くことに選ばれた、高貴な私に向かって何て口を……いいわ。そんなに死にたいなら剣聖の前に貴方から殺してあげる!」
「ふん」
カインはスカーレットの言葉を鼻で笑うが、引っ掛かりを覚え、顎に手を当てて考える。
「第二のラグナロクを生き抜くことに選ばれたねぇ? その話はロキの野郎に教えてもらったのか? それともお前を噛んだヴァンパイアか?」
「貴方に教えて差し上げる義理はないわ」
「そうかい。高貴なわりにケチなババアだな」
カインは顎から手を離し、両手を広げて抗議する動作をする。
スカーレットは人間よりもヴァンパイアになった自身を高貴な存在だと思っている。
なのに先程からカインは、スカーレットの女としてのプライドも、ヴァンパイアとしてのプライドも侮辱する言葉ばかりを吐く。
そのことに、いい加減スカーレットは我慢がならなくなった。
「ふっ。いいわ。今からどちらが上なのか貴方に教えてあげる。カーミラお姉さまから頂いた私の身体に流れるノーブルブラッドの力を使ってね」
「カーミラだと? 始祖ヴァンパイアの一人の、あのカーミラか?」
一瞬カインにしては真剣味を帯びた表情と言葉になったのを見て、スカーレットは誤解する。
自分が始祖ヴァンパイアのカーミラの眷属だとわかり、カインが恐れ、恐怖したのだと。
そんな勘違いをしたスカーレットは、口にする呪文を唱え終え声高に嘲笑した。
そして自身が突き出した両手の前に、赤く光る魔法陣が描かれる。
「さぁ! 愚かな者の血を吸い尽くしなさい。シャドウスレイヴ!」
スカーレットの力ある言葉と共に、赤い魔法陣から次々と黒い蝙蝠が翼を羽ばたかせ、赤い目を光らせながらカインに向かって飛んでいく。
「ハッハハハハハハ! 痛みに苦しみ、自分の愚かさを呪って死になさい!」
勝利を確信しきったスカーレットが、魔術で作られた、おびただしい数の蝙蝠に群がられるカインの姿を見て、声高に嘲笑を続ける。
だが次の瞬間、カインが持つ透明な刃をもつガラスの剣が月光により反射し、幾重も描かれた剣閃によって黒い蝙蝠達を斬り裂き、この世から消滅させた。
「はん。で? お次は何だ?」
ヴァンパイアにとって上位の魔術を瞬く間に消し去ったカインは、鼻で笑い、肩で剣を担ぎ、人差し指一本を立て、クイクイと二度手前に引く動作をすると、不敵な笑みで次を催促する。
「ば、馬鹿な! 私の高位の魔術なのよ! たかが人間ごときに!」
驚きに目を見開き、今の事態が信じられないとばかりに、スカーレットは叫ぶ。
「ふっ。いいでしょう。私を本気にさせたことを後悔しながら死になさい!」
苦い顔をしたスカーレットが次の呪文を唱えだす。
獰猛な笑みを浮かべたカインは、片手で持ったガラスの剣の刃を肩に担いだまま、楽し気に次の魔術が放たれるまで待つ。
「暗くとも甘美な死よ。彼の者を冥府へ誘いなさい! デットリーレイン!」
両手を天に掲げ、再び赤い魔法陣を手の前に描いたスカーレットは、力ある言葉を唱えた。
すると、魔法陣から飛び出す黒く鋭い無数の水の塊が、カインに向かって雨の様に降り注ぎだす。
カインは獰猛で不敵な笑みを一層深め、自身に降り注ぐ黒く鋭い無数の水の塊の中を、まるで踊る様に躱すか、一つ一つを剣で斬り捨てていった。
「月夜にダンスを所望されるとは思わなかったな。なかなか良かったぜ? さぁ、お次は何だ?」
魔術を斬るという常識外れなことをやってのけたカインは、ガラスの剣を一度斜め下へ振り払い、危険な笑みを増していく。
一方スカーレットは、自身が放った上位魔法を、遊ぶかの様に防がれ、唖然とするしかなかった。
だが、カインの挑発的な態度と言葉に、又もや自身のヴァンパイアとしてのプライドを傷付けられ、我に返り怒りに震えた。
「馬鹿な! 馬鹿な……馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な! 魔術を斬るなんて常識外れだわ! 何故? 何故なの? 私は高貴な存在のはず、それがたかが人間一人に、蛆虫ごときに負けるなどあってはならないわ!」
自身が見下す下等な人間に遊ばれる様に挑発され続け、二度も高位の魔術を消し去られた事実に、スカーレットは狼狽え、怒り、ヒステリックに叫び出す。
そして彼女の中で何かがキレた。
「フハハハハハハ。もういいわ。そんなに死にたいなら、今直ぐ私の前から消してあげる! 高貴な私を侮辱したことを後悔させてやるわ!」
「はん。それは今度は期待してもいいってことか?」
狂った様に嗤い、何かを決断したスカーレットは新たな呪文を唱えだす、それをカインはいつも通りの軽い調子で、ガラスの剣を片手に持ちながら、両手を軽く広げて上げ、肩を竦めた。
そんな二人のやり取りを見ながら、アベルは溜息を一つ吐く。
怨嗟が籠ったスカーレットの声音の呪文に対し、それに呼応するかの様に、今度は地面に赤く巨大な魔法陣が描かれ出す。
「私に震えなさい! 跪きなさい! 泣いて赦しを乞いなさい! さぁ、私の命に従い、地獄の門よ開け! フフフフフ、ハハハハハ、アーッハハハハ!」
実に愉快気にスカーレットは嗤い、手にした赤い液体が入った小瓶を空から魔法陣に落とす。
小瓶は魔法陣が描かれた地面にぶつかって砕け、中に入っていた液体――カーミラの血を捧げた。
「はん。確かに今迄よりは期待できるんだが……超え過ぎだ馬鹿が。軽々しく地獄の門なんてもんを呼ぶとわな」
溜息と共に愚痴を吐くカインは、ふざけた調子を消して、鋭い目で魔法陣を睨む。
「さぁ、後悔しなさい! 自分の運命を呪いなさい! そして下等な自分を卑下しなさい!」
二夜の月を背に蝙蝠の羽を広げ、美しい顔に醜い笑みを浮かべ、両手を広げるスカーレットは、天に吠える様にカインを罵り暗い空を仰ぎ見る。
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貪欲な自分が憎いぃいいいいい!!(笑)
_(:3」∠)_




