プロローグ
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――ああ!? 酒場ノースオブエデンの本当の顔を知りたいって? 何だエルフのネェチャン、あの男を探してるのか?
所々歯が抜けた老人の情報屋が顔を青くする。
――あの男を知らない? なるほどねぇ……教えてやってもいいが、な? わかるよな?
エルフの女は、情報屋に金貨二枚を握らせる。
――これは、あくまでも噂だぜ? いつも此処のスラムにある酒場で呑んだくれてる十七の小僧だよ。目立つワインレッドの革のコートを羽織ってるから嫌でもわかる。いつもおどけた調子の男らしいんだが。奴が呑んだくれてる酒場がネェチャンが知りたがってるノースオブエデンだ。確かに此処のスラムにある。だがよ、みんな道はわかってんのに、どうやっても辿り付けねぇ時があんだよ。なんでも、酒場で黒髪の女の子がチェンバロを弾いているメロディーが人を迷わすって噂さ……。
エルフの女は自身の胸元にある金のペンダントトップを手で掴んで見る。それは蓋を開けると羅針盤になっていた。
――ノースオブエデンの本当の顔の話だが。あの酒場には二つの顔がある。表の顔はタダの酒場なんだが、ある合言葉をマスターに言えば裏の顔を見せてくれる。始末屋の顔をな。困ってる奴の面倒事も始末してくれるらしいぜ? しかもこのミズガルズ王国のフレイヤ女王がバックについてるって噂だ。
――ん? さっき言ったその男の実力? なるほど、ネェチャンはソイツの腕が確かか気になる訳だ? まぁ、依頼をしたいならもっともな話だ。
――さっさと話せ? はいはい、わかったよネェチャン。戦場の≪紫苑の銀狼≫って話を知ってるかい? 紅い月が照らす晩の戦場に銀髪をなびかせ、紫苑色の二つの瞳が闇夜に軌跡を描く。その男が持つ剣はガラスの刀身、そいつを振るえば世界をも斬り裂く。血の色の様な紅いコートが舞えば、敵の首も宙を舞う。魔術を放てば地平線まで更地にしちまう。一万の軍勢相手に≪紫苑の銀狼≫一人で全員を斬り殺したっていう、一騎当千の男。現代のレイ=ガーランドって与太話だ。
――ネェチャンのその表情は信じてねぇな? まぁ与太話だよ与太話。ただな……敵にまわすと恐ろしい男って話は確からしいぜ? まぁ、そんな逸話ができる程には腕は確かなんだろうよ。
――その男はえらく気分屋らしくてな、どんな高額の報酬を提示しても気分がのらなきゃ依頼は引き受けねぇらしい。逆に気分がのりゃ安酒一杯の報酬額でも引き受けるって話だぜ。
――その男の名前? カイン。カイン=ガーランドさ。
古の時、まだ世界――神界・地上・魔界――が安定していなかった時代。魔帝マクスウェルの命により、地上を我が物にしようと魔族達が侵略を始めた。
その影響で地上には濃い瘴気が満ち、魔物や魔獣は活発化され。大地は痩せ、森は精気を失い枯れてしまい。人族や亜人族、妖精族、この地上に住み、生きる者すべての命達が、かつてない危機に晒された。
魔族との争いで各種族の中から幾度も現れては消えた名も無き英雄達。神の加護を授けられた者や、神の使いである天使達の力でさえ、完全に魔族を退ける事は出来なかった。
幾千もの朝に勝利を期するが、幾千もの夜に敗退を喫する。
そんな永劫とも思える戦いに終止符を打つ為、とある神々が一人の人間の剣士を地上に遣わした。
人の形をしたその者、レイ゠ガーランドの身体には竜の因子が宿され、背に六対十二枚の黒き竜の羽を生やし、戦場を駆け抜けた。その精悍な顔立ちにある紅い瞳は、闇の中で紅い二筋の軌跡を残す。瞳と同じ色をした紅く、ガラスの様な刃でできた剣で魔族や世界さえも次々と斬り裂き、彼が放つ魔術はまるで竜の咆哮
まさに一騎当千の剣士。
延々と屠る魔族の返り血を浴びた漆黒の黒髪と身体は、赤黒く染まっていく。
そしてついに地上の英雄達とレイ=ガーランドは魔族や魔帝達を魔界へ追い返し、今度は自身達が魔界へと侵攻した。そしてついにレイ゠ガーランド達は、この争いの元凶たる魔族を束ねる魔帝マクスウェルを討ち取ったのだった。
しかし、魔帝マクスウェルは完全に死んではいなかった。魔帝マクスウェルは何とか神々に気付かれぬ様、魔界の奥深くへと逃げ込んだ。そして傷付いた身体を癒やす為に自らを封印し眠りについたのだった。
魔帝が眠りについたことにより、地上の瘴気は減り、再び大地は肥え始め、森は精気を取り戻した。
魔帝の眠りにより地上は一時の安寧を迎えたのだった。
竜の因子を宿しし剣士の伝説より二千年後。
人間の女王フレイヤが治めるミズガルズ王国の王都アース、そこの北にあるスラム街の深夜の路地に、薄暗く人が住んでいるであろう部屋の窓から漏れる灯りと月明かりを頼りに、金で作られ、髑髏のエンブレムが付いた海賊帽が落ちない様に片手で抑え、黒革のビスチェに黒革でできた丈の短いパンツ、そして黒革のニーハイブーツという出で立ちで必死に走る、歳は十七、八頃の小柄な女海賊の姿があった。
彼女は腰まで伸ばした金髪をなびかせ、口からはゼエゼエと息を切らせながら、今、自分が走って来た道を振り返る。
すると路地の暗闇から、まるで生まれ出てくる様に、黒いローブのフードを被った骸骨共がわらわらと彼女を追いかけていた。
死神の使いとされる低級悪魔のアンクーだ。
アンクーは両目に青い火の玉の様なものを宿し、手にした大鎌の刃を月明かりで鈍色に光らせ、カタカタカタカタと歯を鳴らしながら、まるで彼女を笑い、そして遊ぶ様に追いかけてくる。
そのうちの一匹が路地の横壁を足場にし、彼女の真上に跳躍すると、月を背に大鎌を振り下ろそうとしてきていた。
それを目にした彼女は急激にターンする為、自分の前に出ている方の足――右足の爪先にグッと力を入れ、石畳の地面を踏みしめると、シルフに頼み風の精霊魔法を足元に発生させ器用にバランスをとり後ろに残っている左足を地面に滑らせて後方へ向く。
「ったく、いい加減にしやがれよ」
苛立ちながら美しく切れ長な碧い瞳を細め、小柄で細身ながらも女性らしいラインをしている自身の腰に帯びていたレイピアを鞘から素早く右の手で抜き放つ。
状況は今まさにアンクーが自身に大鎌を振り下ろし、骨の足が地面に着く寸前の所、彼女は手にしたレイピアの刃でビュンと風切り音を立てさせ、アンクーの青く燃える左目に突き刺した。
するとびくりと一瞬動きを止めたアンクーだったが、再びカタカタと歯を鳴らしながら動き出し、鎌を振り下ろそうとする。
バンっと深夜の路地に光と大きな爆発音が響く。
再度彼女に鎌を振り下ろそうとしていたアンクーは、髑髏の骨が飛び散りグシャっと音を立てて地面に崩れ落ちた。
「鉛の味はどうだよ?」
妖艶に笑みを浮かべながら訊く彼女の左手には、短いフリントロック式銃が握られており、銃から煙が上がっていた。
「テメー等は何度言えばわかんだよ? 誰でもいい。帰ってツェペシュの蝙蝠ヤローに伝えな。しつこい野郎は嫌われるってな……テメーの嫁になる気なんざ永遠にねぇんだよ!」
戦闘で乱れてしまった前髪を、銃を持った左手の指で耳にかきあげながら、乱暴な口調と強い意志を持った声音でそう告げる。その耳は人間よりも長く尖った形をしていた。
今日中にもう一話投稿します!!(`・ω・´)ゞ