雪降る記憶の運命の出逢い
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二人とも冬の海に落ち、ずぶ濡れで寒さに小舟の上で震える中、銀髪紫苑色の瞳の少年がハイエルフのマリアを口説きだした。
しかも、海賊と海兵の移乗攻撃の戦闘中にである。
マリアが混乱していると少年は首を傾げた。
『何か間違っているのでしょうか? エルフのお姉さんの長い綺麗な金髪と、その整った顔は、ドワーフが作った女神像よりも繊細で美しく。森の可憐な永遠の乙女と言われる妖精なのに、海の海水で濡れたお姉さんの瞳は、人魚の様に潤んでいて、まるで輝く宝せ――』
『ワー! ワー! もうわかったから! それ以上言うんじゃねぇ!』
銀髪の少年の口から次々と出る褒め言葉は、感情がまるで籠っていないが、逆に事実だけを淡々と述べている。
マリアは羞恥心に耐えられなくなって慌てて声を上げ、少年の口に両手を当ててそれを止める。
『それ以上は言うなよ』ときつく言い、少年に頷かせると、マリアは少年の口を抑えていた両手を放した。
『僕は何か間違えたでしょうか? 僕はまずは思ったことを口に出すことから始めろと教えられたのですが。やはり僕はおかしいのでしょうか? 僕は――』
『僕、僕、ウルセェよ! ガキ! って、テメェの名前をまだ聞いてなかったな……アタシはマリアだ。んで、お前は?』
褒めることを止めさせた意味を理解していないであろう少年に、マリアは話を逸らそうと、まだ、聞いていなかった少年の名前の話にすり替える。
『僕の名前は666番です』
少年の答えにマリアの思考が止まる。
そして義母から軽く聞かされていた、この少年の今迄の境遇を思い出し、顔を顰めた。
何故この少年がこんなにも表情が乏しいのか、何故目が死んでしまっているのかが≪番号≫が名前だという事実を聞かされた瞬間、マリアは頭だけでなく、心までも、それがどういうことなのかを理解してしまった。
この少年には、実験室という籠から出た世界はどう映っているのだろう。
実験台にされ、人間扱いされずに過ごしてきたこの少年は、今、必死に人間になろうとしているのだろうかとマリアは考える。
人が生む闇に触れたマリアは、急激に胸が締め付けられた。
そして気がつくと、マリアは少年を包み込む様に優しく抱きしめてしまっていた。
その時、少年は何故かマリアに抱きしめられた瞬間、心がざわつき苦しい表情を浮かべてしまう。
マリアも抱きしめた瞬間、心がざわつき、苦しみが溢れた。
この互いに触れ合った瞬間に起こった“ざわつき”が、運命の女神に祝福された出逢いであるということを二人は知らない。
『あの……何か僕はお姉さんを悲しませる様なことを言ってしまいましたか? 女は泣かせるなと、あの人に教えられたばかりなのですが……すみません』
少年を抱きしめるマリアの頬に、マリアの意思とは関係なく涙が伝った。
少年は初めて触れる感情の籠った女性の温もりに、自身の鼓動が早くなっていることを感じている。
この時、少年の心に何かが芽生え、それに動揺し、何故か混乱する自分を落ち着かそうと努力するが、その何かは落ち着くことはなかった。
『ちげぇよ。お前が寒さで震えてるから、ただ温めてやってるだけだよ』
『ありがとうございます。でも、このくらいの体温低下でも、活動に問題はありません』
自分の意思とは関係なく引きずり込まれる境遇で、傷付き苦しむことをマリアは誰よりも理解してしまう。
そして今は自分がその周りに居る人なんだと理解すると悲しくなった。
『問題なくても、温かい方がいいだろ? なぁお前。アタシと一緒に来ねぇか? お前が見たことねぇもん、アタシがいっぱい見してやる。お前が今迄見て、知って、味わってきたことは嘘じゃねぇよ。事実だ……だけどこの海じゃ、世界じゃ、それは一部でしかないんだってアタシが教えてやる』
マリアは少年に同情しそう言った訳ではない。同情して、人の、世界の、汚い部分を嘘だと思わせる気もない。
マリアは今、少年にとっての周りだと、世界の一部なんだと理解している。
だから、自分が手を差し伸べるんだと強く想った。
『お姉さんも……あの人と同じで、変わった方ですね? 僕の様な兵器に……温かいものを教えてくれようとしている』
兵器――少年が発した単語にマリアは反応し、どういう意味なのか聞こうとしたが聞けなかった。
何故なら抱きしめていた腕を緩め、マリアが少年の顔を見た時、自分を兵器だと言葉にした少年は初めて僅かにだが悲しそうな表情をしたからだ。
その時、マリア達の背後からミシっと音がする。
『おーおー、闘いの真っ最中だってのに、こいつら抱き合ってるぜ? 自分達の未来でも悲観してるのかねぇ? まぁ、海賊が辿り着く先なんて縛り首だけだからな』
『ヒュー! 一人はガキだが、もう一人はエルフのいい女じゃん? どうせ縛り首になるならよ? 俺等で先に楽しまねぇか?』
『おい、エルフの女。変な真似は止めろよ? こんな小舟の上じゃ、足場が悪くてついこのガキを刺しちまうかもしれねぇからな。ほら、ガキから離れて後ろに下がれ』
少年の話で周りへの集中力を欠いていたマリアは舌打ちをする。
いつの間にか、帝国の船からアルビダの船までを渡る橋代わりになってしまっていた小舟を、この三人組の海兵は歩いてきたのだろう。
帝国の軍服を纏った男の海兵達は少年の背後に立ち、下品な笑みを浮かべ、その内の一人がナイフの切っ先を少年の首の後ろに当てていた。
『おい、帝国の犬ども……このガキを少しでも傷付けてみろ、テメェらの息子をミンチにしてやる』
マリアは帝国の海兵達の目を鋭く細めた目で睨みながら海兵の指示通り、抱きしめていた少年から手を離し、後ろへとゆっくり下がっていく。
すると、少年にナイフを当てていた海兵が、少年の首を後ろから片方の腕で締め、もう片方の手に持っていたナイフの刃を、少年の首筋に当てた。
少年の顔は夜の闇と男の陰で見えなくなる。
『よしよし、いい子だなエルフの女。海賊狩りなんて面倒な仕事だと思ってたが、こういうことがあるから止められねぇ』
残った二人の海兵がマリアに近寄り、喋る片方の兵士がマリアの肩を触ろうとした瞬間、その男の頬に平手を打つ。
『このアマ! 変な真似すんなって言っただろうが!』
『おっと、ワリィな、お前に平手をくれてやるのが、変な真似だと思わなかったんだよ』
平手を打たれた男が怒鳴る中、もう片方の海兵がマリアの手を後ろにまわし掴んで拘束する。
対するマリアは凶悪な笑みを浮かべて、悪びれもせず、とぼけた言葉と顔面に唾を吐きかける。
『こ、このアマぁ!』
顔にかかった唾を腕で拭い、海兵はマリアの顔面を殴る。
『へっ。見かけ通り頼りねぇ拳だな? これじゃアッチの方もさぞ頼りねぇんだろうなぁ?』
殴られても強気にふるまうマリアを見た瞬間、少年は感じたことのない衝撃が心を襲う。
――やめろ。
少年の脳裏はその言葉一色に染まる。
『てめぇ!』
馬鹿にされた海兵はもう一度マリアの顔面を殴り、膝を腹に入れ、衝撃で息を吐き出し前かがみになったマリアの背中に肘を落とす。
――やめろ……やめろ。
『ガッ! カハッ! ハァハァハァ』
暴行されるマリアの苦しむ声と、酸素を求め、息を吸おうと必死に浅く早い呼吸をする。
少年は自分を守る為に、暴力を甘んじて受けるマリアを見て、突如胸の底から突き上がってくる感情を持て余す。
マリアを殴り、嗤う男の声が、少年には酷く耳障りに感じる。
『……やめろ』
自身の中を暴れまわり行き場を無くした少年の初めての感情が声に漏れた。
その声に殴っていた海兵の手が止まり、少年に振り返る。
『はぁ? おいガキ? てめぇは自分が置かれてる状況を、わかってんのか!?』
首筋にナイフを当てている海兵が仲間の言葉と共に刃を引く。
死ぬ程深く切った訳ではないが、少年の首筋から紅い血が流れた。
『や、やめろお前等! わかった! アタシのことは好きにしろ! だからソイツには手をだすな! お前も、アタシは大丈夫だ! だからおとなしくしてろ。いいな?』
首筋に流れる血を見てマリアは身体の痛みも息が苦しいことも忘れ、必死に頼み込む。
そして、少年にこれ以上なにもしなくていいという想いを込めて優しく言い聞かせた。
『勝手に喋るな!』
そのマリアの態度が面白くなかったのか、海兵はもう一度マリアの顔面を殴った。
殴られた衝撃に、マリアの口から痛みを堪えるくぐもった声が出た。
――殺す。殺す。殺す。殺す。
レイとの約束を守る為、戦わずに激しく暴れまわる何かを必死に抑えつける少年。
『ハァハァ……い、いいか? グッ、ハッ! 男ならな……ゴホッ! そんなシケた面してねぇでよ……ングッ! どんな危機も笑って切り抜けれる……そんな強い男になってみせな? こんなクソで玉無し野郎どもなんて……大したことなんざできねぇよ』
『ハッ! ご高説痛み入るね! テメェは今からそんな野郎にブチ込まれてよがらせられんぜ? お前がどんな声と表情で俺達に犯されるのか楽しみでしょうがねぇ!』
下品に笑う三人の海兵は、マリアに暴行を続ける。
必死に少年に想いを伝える唇は切れ、瞼や頬に痣が出る程強く殴る。
海兵達は、今から極上のエルフを犯せる支配欲に塗れているのだろう。
『せめて……グゥ……惚れた女を守れるぐらいにはな』
海兵の男は愉快気に綺麗なマリアの顔や腹を殴るが、マリアは少年を気遣い、乱暴な言葉ながらも優しい言葉を紡ぐ。
自身が傷付き苦しむことで少年を守ることを選ぶマリア。
『ちっ』
マリアがなかなか暴力に屈しないのに苛立ったのか、海兵の男はマリアの着ていたビスチェを引き裂く。
『ヒュー。エルフは細っこいから、大した乳は期待してなかったんだが、そこそこのボリュームでいい形してるじゃねぇか?』
海兵は剥き出しになったマリアの美しい二つの乳房の片方を手で揉み、感触と弾力を楽しみながら嘲笑う。
マリアは声を上げず腫れた瞼から見える碧い瞳を憎悪に染め、悔し気に自身の胸を揉む海兵の顔に再び唾を吐きかける。
例えどんなことをされても屈しないという意思を込めて。
『またやりやがったなテメェ!』
『ハッ! 犯すことでしか女とやれねぇ、情けない、ふにゃチン野郎が……軽々しくアタシの胸に触ってんじゃねぇよ』
唾を顔に吐かれ、馬鹿にされた海兵はマリアの胸を揉むのを止め、顔にかかった唾を腕で拭うと、力の限りマリアの鳩尾に拳を打ち込む。
『グゥ! ハッ! ゲェエエエ』
鳩尾を殴られたことで腹腔神経叢が激しい痛みを感じさせ、その衝撃で息を吐き横隔膜が瞬間的に止まる。
息ができなくなったマリアは自身を襲う激しい痛みと吐き気に必死に耐えながら、空気を求め口をパクパクさせた。
そして、その口から吐き気に負けたマリアの胃からこみ上げてきたものを嘔吐してしまう。
『あ~あ。キタねぇなぁ? お前やりすぎだろ? ゲロ塗れの女を抱くなんてごめんだぞ?』
苦しみ嘔吐する姿を見たマリアを後ろから抑えている海兵が、嗤いながら文句を言う。
自分を守る為にマリアが傷付き苦しんでいる姿を、少年はただ見ていることしかできなかった。
何故なら戦うなとレイと固く約束していたからである。
だがしかし、理性を凶悪な何かが侵食しだし、支配しようとしてくるのを少年は感じていた。
そんな中、男達はこの優位な状況に笑い声を上げる。
その笑い声を耳にした瞬間、少年は自分を見失う程の感情で何かのたがが外れた。
『……うん。あの人の言う通り、女性は殴るもんじゃないよね? 今はなんだか彼の言うことが、凄く理解できてしまうよ』
夜の海に広がる男共の下衆な笑い声に、少年は淡々とした口調で、自分が感じている激情を発する。
その声に三人の海兵が眉を寄せ、ナイフを当てている男が少年に何か言葉を発しようとした瞬間。
『グハッ!』
ナイフを当てていた兵士の口から血と苦悶の声がでる。
少年は首筋に当てられているナイフの刃を左手で握りしめると、後ろから自分を取り押さえている海兵の鳩尾に、右肘を後ろに向かって叩き込む。
海兵は海の上ということで鎧を着ていない。
更に少年の放った肘打ちは発勁だ。
腹の筋肉を衝撃が通り過ぎ、そのまま内臓にダメージを与える技である。それによって少年の首を腕で拘束し、ナイフを当てていた海兵の男は、口から血を吐き出した。
『あと、多少は切れるけど、刃物は引かなきゃ切れないから、握られるのは注意した方がいいよ? お兄さんたち』
淡々とした口調とは正反対に、瞳孔が大きく開き狂気が浮かぶ紫苑色の目と、片方の口の端が、ゆっくりとつり上がってゆく少年の不気味な表情を、雪の降る闇夜の海の上で、海兵二人とマリアは少年の放つ殺気に気圧されながら見つめていた。
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