闇夜に降る雪の記憶
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――これは……雪か?
夜の空の闇と夜の海の闇が混ざり合い、深い漆黒が空と海の境界をあやふやにする世界。
そんな世界に浮かびマリアを照らす満月と星が輝く空からは、白く、ふわりとした冷たい雪が降っていた。
その冬の厳しい寒さを消すかの様にマリアが立つ船の船員達が、怒号を飛ばし合い、各自の持ち場に付く者や、慌ただしくガレオン船内を駆け巡っている者が皆、殺気立っている。
――この船は、昔の義母さんの海賊船だな。
漆黒の世界に白い花びらが舞い落ちる海賊船の甲板から、マリアは昔の夢の中で懐かし気に雪の花びらを浴びながら、満月が輝く夜空を見上げた。
――知ってる……アタシはこの月を……知ってる。何で今迄忘れてたんだ? これはアタシにとって大事な雪の降る夜だったハズだ。
夢の中で冷たいナイフの様な風が吹き、身体に切れる様な寒さが刻まれた。
その鋭い風に髪が靡いて視界を邪魔する自身のブロンドの髪を片手で抑える。
やがて風が止むと雪が舞い散る過去の世界に立つマリアは、無意識に手を胸元まで上げて、空から降って来た牡丹雪の一粒を掌で受け止めた。
その雪は粒がくっ付き合い、少し大きめになった雪の塊は、マリアの掌の温度で溶け、水に変わってしまった。
『敵船二隻! 駄目です! 振り切れません。追いつかれます!』
マストの上の見張り台から、喉が枯れんばかりの大声が聞こえてくる。
直後、離れた場所からでも聞こえる爆発音と閃光が数度、夜の海に光り響く。
『奴等、撃ってきました!』
船体が大きく揺れた。
砲弾を避ける為に舵を切ったのであろう。
が、それでは砲弾から逃げ切れなかったのか、船体に大きな衝撃音と、さっきまでとは違う大きな揺れが数度、海賊船を襲う。
外れた砲弾は数発海に落ち、ドボンと海に砲弾が沈む音と共に、高い水しぶきを上げた。
『船長! 奴等うちの船の両脇を抑える気です!』
船尾に砲弾を数発くらわされたアルビダの海賊船は速度が落ち、帝国からの追っ手の船が、みるみる迫って来る。
『アンタ等! 戦闘の時間だ! アイツ等に遠慮は要らない! どいつもこいつもクソ野郎ばかりだ! 容赦なく奪って殺して鮫の餌にしてやりな! 海でアタシ達に戦いを挑んだことを後悔させてやるんだよ!』
艶のある夜の様な黒く長い髪を靡かせ、黄金の目を細めた美しい女魔族の海賊船の船長アルビダは、艶めかしく大人の色気を纏う身体の腰に帯びていた剣――カトラスを抜き、船尾楼の上から手下の海賊共に激と指示を飛ばす。
海賊達は自身のキャプテンの言葉に心を奮い立たせ、仲間同士を鼓舞させる様に歓声を上げて答える。
――懐かしいアルビダ義母さんの激だ……やっぱりこれはあの日の夢だ。満月が浮かび、空と海が闇に染まった闇の世界で出会った……あのガキ、名前は……あん? 何だった? イテェ! 何だ!? 頭がイテェ! クソッ! 思い出せねぇ。
かつての海賊船で、そのキャプテンを務めていた義母アルビダの姿を見たマリアは、視界に広がる過去を見て、昔に出会った少年の名前を思い出そうとすると頭痛が襲い顔を顰める。
マリアが頭痛のせいで思考を中断させられ、片手でこめかみを抑え呻く中、アルビダの海賊船も閃光と爆発音を夜の海に上げさせて、帝国の船に向かって大砲を放つ。
アルビダの船の大砲も数発は当たった様だが、帝国の船に大きなダメージを与えることはできず、追っ手の二隻の船に両船側にまわられてしまう。
『ちっ。野郎ども! 敵が乗り込んでくるよ! 気合い入れな!』
夜の海のあちこちに松明の火が浮かびだす。
すると帝国の海兵が小舟を出し、アルビダの海賊船に鉤の付いたロープを船側に引っ掛けて、それを登ってくる。
アルビダの海賊達は船を挟まれている為、二手に分かれ相手の小舟を利用し、カトラスと銃で激しい戦闘を繰り広げながらも帝国の船側に辿り着き、鉤の付いたロープを掛けると本格的に移乗攻撃が始まった。
帝国の海兵とアルビダの戦闘員達が、三隻の船の上で激しく剣を交わし合う。
刃から逃れた者達も時折爆発音を響かせる銃に倒れる。
そんな激しい戦闘の中、一人の海兵がアルビダの首を取ろうと横から忍び寄り、ニヤリと笑って剣を振りかざした瞬間、その海兵の腹からレイピアの刃が生える。
『義母さん。これは貸しだぜ?』
マリアは凶悪な笑みと共に、アルビダに忍び寄った海兵を背中からレイピアで刺し、勢いよく刃を引き抜く。
するとニヤリと笑った海兵の腹から血が噴出し、その場で膝を突き崩れ落ちた。
『ふん! アンタはいくらアタシに借りがあると思ってんだい?』
そう言いながら、アルビダはマリアの左頬すれすれにカトラスを突き出す。
今度はマリアの後ろから斬りかかろうとしていた海兵の喉をカトラスの切っ先で深く突き刺したアルビダは、マリアに借りをそく返してみせ愉快気に笑う。
『ふん。しかし、相手のこの人数は少しヤバイな。あんな男とガキを乗せたのは間違いだったんじゃねぇのか?』
義理の娘であるマリアにさえ、事情を詳しく教えなかったアルビダに、マリアは愚痴を吐く。
『まぁ、そう言うんじゃないよ……それにレイが居れば負けることはないさ』
義理の娘の愚痴に答えたアルビダは、少し離れた場所の激戦区の甲板の上を見る。
マリアも釣られてそちらを見ると、そこは地獄だった。
アルビダにレイと呼ばれた剣士の男は、夜に輝く月光に反射して揺れる紅い瞳は、夜の暗闇の中で残像を残しながら、四方八方から繰り出さられる斬撃を剣で受け、あるいはいなし、躱し、帝国の軍服を着た海兵共を、紅いガラスの刃の剣が描く軌跡によって全て切り伏せる。
彼には誰も傷一つ付けれず。
だが海兵達には死しかなかった。
彼の周りに広がる死体になった海兵達の切り裂かれた腹や胸からは、腸や内臓が身体の外に零れ落ちており、冬の寒さに湯気を立たせていた。
その湯気は降って来た雪を蒸発させる。
また、首だけになった海兵の表情は、斬られたことが信じられなかったのか、斬られたことさえわからなかったのか、身体から落ちた直後に甲板に転がった顔は、目を見開き、混乱した表情を浮かべていた。
『な、なんなんだよ……あの男は』
暗闇の雪が降る船の中、月の光と松明のみで照らされた船上を、返り血塗れでひたすらに敵を斬り殺し続ける姿は、マリアには美しくも儚い獣の様に感じた。
が、同時にレイを見ているだけで、湧いてくるものは恐怖の二文字だった。
今は敵と戦闘中だというのに、レイにあてられたマリアは身体が恐怖で言うことを聞かなくなり動けない。
彼から発せられる殺気は異常過ぎて、ある程度の強さがないと恐怖が麻痺してしまい、簡単にレイに斬りかかってしまうのだろう。
その証拠にレイに斬りかかる海兵とは真反対に、船側付近で腰を抜かしている者が数名居る。
海なのに騎士の鎧を着た者達が腰を抜かし、恐怖で震え、周りに居る海兵達に、ひたすらレイに攻撃をするよう怒鳴り声で必死に命令していた。
マリアもずいぶんと離れているのに、レイの放つ殺気でジトリとレイピアを握る掌が、冷や汗で濡れる。
少しでも気を抜けばレイの放つ殺気に気圧されてしまい、意識を刈り取られそうだった。
そんな地獄の戦場の船側を、銀髪の子供がフラフラと彷徨っているのをマリアの目がとらえた。
その子供――少年の珍しい紫苑色の宝石の様な綺麗な瞳には、感情も生気も宿ってはいない。
『あのガキ。何でこんなとこに!?』
マリアは驚きの声を上げる。
あの少年はアルビダの男の部下を一人護衛につけて、船内に隠れている様、命令していたはずだったのだ。
急いでマリアは少年に駆け寄ろうとするが、レイの殺気で動けず、焦っていると、海兵に斬り飛ばされた海賊が少年に当たり、少年は船から海へと落ちてしまう。
『あの、バカっ!』
マリアは少年に罵声を口にしたかと思うと、殺気にあてられて動かなかった身体が何故か急に動き、甲板を全速力で駆け抜けて船側から海へと飛び込んだ。
着水し、海水の辛みが鼻を通り抜けると、マリアは水面に顔を出して松明で照らされた夜の海を見渡す。
移乗攻撃の際に木で造られた小舟達が海面に浮かぶ中、マリアは何とか海で溺れてもがく銀髪の少年を見つけた。
急いで少年の元へ泳いで行くと、少年を抱え誰も乗っていない近くの木の小舟まで泳ぐと小舟に上がる。
雪の降る冬の冷たい海の水から一刻も早く少年を救う為、マリアは急いで少年の両手を掴み、冷たい海面から引き上げた。
『何やってんだテメェ! 死にてぇのかこの馬鹿!』
ずぶ濡れになった少年の白い布地のシャツとボトムスのせいで、上手く泳げなかった少年は飲んだ水を吐き出し咳き込む。
マリアは海賊である為、服を着たままでもある程度は泳ぐ訓練はしていた為、何とか助けることができた。
『エルフのお姉さん。何をやっているかというと。僕が隠れていた倉庫に三人の男達が入って来て、僕を守ってくれていた男性は戦いましたが劣勢になったので、僕に逃げろと叫びました。僕はその命令に従いました』
冬の海の海水で銀髪の髪を濡らし、その濡れた髪に空から降る雪が当たる。
今降る雪を思わせる様な銀髪と白い肌に綺麗な顔立ちをした少年は、寒さのせいで身体と唇を震わせながら、感情の籠っていない口調で、淡々とマリアに今に至った経緯を説明した。
『テメェを守ってくれた奴を一人残して逃げてきたのか!?』
仲間の危機と、それを無感情に話す少年にマリアは苛立ち、少年のシャツの胸倉を掴んだ。
『はい。僕は戦ってはいけない。死んではいけないと、あの人に言われていたのでそうしました。それに僕は彼の指示に従えとも言われていました。なので僕が出来ることは逃走のみでした』
少年の瞳には罪悪感というものは浮かんでいなかった。
それどころか、今の現状やこの戦闘で自身の命が危険だというのに、怯えも浮かんでいない。
マリアはこの少年のことで、軽く説明された部分を思い出す。
この少年は帝国で人体実験をされていたということ。
その環境上に問題があり、普通の子供と発想と思考が違うということ。
『ちっ』
マリアは人間共がこの少年にした胸糞悪いことを思い出し舌打ちをする。
『助けて頂き、ありがとうございます。エルフの美人のお姉さん。お礼に今度お食事でもどうですか?』
『――は?』
少年の寒さで震える唇から出た言葉は、感情は込められていないが、マリアに対しての口説き文句だった。
『オマっ! この状況で今なんつった!?』
驚き掴んでいたシャツの胸倉を放すマリア。
『綺麗な女性や、美人のお姉さんに出会ったら、素直に褒めろと。できれば食事にも誘えとあの人に教わったのですが。何かおかしかったでしょうか?』
あのレイとかいう男は、こんなガキにいったい何を教えているんだとマリアは胸中で呆れ果て、止む気配のない雪が降る闇の中で輝く月を見上げた。
――カイン……そうだ、アタシは子供の頃のカインに会ってるんだ。あの……胸糞悪い人間共に弄ばれて、こんなに心を殺されたカインに。
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(`・ω・´)ゞ