承諾できない
「はい、センパイ、あ~~ん?」
「いや、その自分で食べれるから。」
俺は先日ハチマキを拾ってあげた女の子と一緒に弁当を食べている。
その女の子の名前は日下部裕子。
今年、入ってきた新入生だ。
今朝、登校するときに俺を待ち伏せしていてお昼にお弁当を作ってきたので一緒に食べようというのだ。
人の善意を無視することは俺にはできない。
御燭寺さんにちょっと冷たい態度をとった手前、後ろめたい気持ちもするが仕方ないだろう。
「なんでぇ~?いいじゃないですかぁ!あ~~~ん?」
「いや、マジでそういうのは困るから。」
「見られたら困る人でもいるんですかぁ?」
「...いるよ。」
「え?センパイ彼女いるんですか?」
「...彼女はいない。」
「じゃあ、私、センパイの彼女になります!」
そういうと日下部さんはぴょん!と立ち上がった。
「え!?いや、あの、ごめん。」
「え!?」
「俺、好きな人いるから。」
人の善意を無視することはできないと言ってもさすがにこれは承諾できない。
「もしかしてセンパイの隣に置いてあるお弁当を作ってきた人ですか?」
「...そうだよ。」
「どんな人ですか?」
「え?...別に、目立たない普通の人だけど?」
「...言い方を変えます!どんなところが好きなんですか!?」
「どんなところと言われても....いろいろ、あっていつのまにか好きになってしまったパターン。」
「へぇ~~。」
「...日下部さんはそんなに可愛いのだから俺じゃなくてもいい男が他にいると思うよ。」
「それって遠回しに私のことフッてます?」
「う~~ん、そうなるのかな?」
「私、納得できません!」
「納得できませんと言われてもね...。」
「だってその人、私より早くセンパイに出会っただけの人ですよね?」
「そうだけど、それって意外と人生においてすごく重要なことだよ?」
「どうしてですか?」
「例えば...極端だけど好きな人が結婚してたらキミはどうする?」
「...好きの度合いによりますね。もの凄く好きだったら奥さんと別れさせてでも...」
「おいおいおい、普通は『あきらめる』だろう?」
「そうなんですかねー。」
「早く出会っただけと言ってもその分いろいろ積み重ねてきたものがあるんだ。」
「...」
「だから簡単に奪い取れるなんて思わないほうがいいよ。」
「でもでも、センパイは結婚してませんよね?だから私はあきらめません。それに私と一緒にこれから積み重ねていけばいいじゃないですか?」
「...まあ、そうだけどさ。」
「だから試しに私とつきあいません?」
「...キミは昔の俺に似てるな。」
「え?そうなんですか?」
「そうやって自分の都合だけで人の気持ちを考えずに傷つけていく...」
「そんな深く考えなくていいじゃないですか?もっと気楽に...」
「もし、俺がキミのことすごく好きになってもキミが俺の事嫌いになったら...終わるんだよね?」
「私はセンパイのこと嫌いにはなりませんよ?」
「....」
正直信用できない。
なるほどこういうことなんだな。
俺が今までにしてきたことは。
我ながら本当にバカなことをしてきた。
御燭寺さんに怒る資格なんてない。
それをわざわざ弁当まで作らせて...。
これ以上、ここにいるのは俺にとっても御燭寺さんにとっても罪だ。
そしてこの子にとっても。
「...おいしかったよ。ありがとう。ごめん、俺はもう、行くね。」
俺は日下部さんが作った弁当を食べ終えるとそそくさとその場を去った。
「あ、センパ~~イ!」
その場を去った俺は裏庭へと向かう。
陽の当たらない冷たいベンチで御燭寺さんが作ってくれた弁当を食べる。
「...うまい、うまいよ、御燭寺さん。」
俺は泣きながら御燭寺さんの弁当を完食した。




