遠慮なくいただくとしよう
「全部、脱いでもらおうか。」
「え!...はい。」
私は御手洗くんに言われるがまま服を脱いだ。
「...うん、きれいな体だ。そこに横になれ。」
「...はい。」
「それでは遠慮なくいただくとしよう。」
そう言うなり御手洗くんは自分の服を脱いで私に覆いかぶさってくる。
「...」
がばっ!
...そりゃ、夢だよね。
時計を見ると午前5:00をちょっと過ぎたあたり。
でも、もしも夢みたいなことがおこっても私は御手洗くんに従おう。
私はそう決意を固める。
そうだ久しぶりにアレを使ってみるか。
(もし、朝ご飯がフレンチトーストだったら...)
いや、やめておこう。
せっかく、冴子やマキナ様が応援してくれてるのにここを自力で乗り越えなくてどうするの。
そうだ、お昼のお弁当を御手洗くんの分まで作ろう。
たとえ食べてもらえなくてもいい。
...あとは何かできることはないだろうか。
...何も思い浮かばない。
あとは精神誠意、謝るしかない。
とんとんとんと下へ降りていくと母が今日の朝食と私と父のお弁当の支度をしていた。
「ママ、おはよう。」
「あら、とこちゃん。今日は早いのね。」
「うん、今日はもう1人分お弁当作ろうと思って、いいかな?」
「あら、いいわよ。誰の分?」
「うん、お友達の分。」
「そう。」
「...ね、ママ。」
「なあに?」
「今のパパとはどうやって知り合ったの?」
「あら、そんなこと聞くなんて初めてね。ママの職場で一緒に働いてた人よ。」
「そうなんだ。」
「...あなたの名前を考えたらどうかと思ったんだけどどうしても御燭寺の名をかえることは難しくてね。本当にごめんなさい。」
「ううん、もういいよ。それに旧姓って『憩井』でしょ?同じようなものだもの。」
「...あなたに多くの人が集まり幸せになってくれるようそう名付けたんだけどねえ。」
「ママの名前は『素子』でしょ?いい感じだよね。」
「そうねえ。...とこちゃん、お弁当作ってあげるのって男の子?」
「...うん。」
「どんな人なの?」
「いい人だよ。他人に親切でとても優しくて。」
「あら、そう。好きなの?その人の事?」
「...うん、好き。」
「がんばってね。私の娘が選んだ人だもの。きっといい人ね。」
「うん。」
「仲良くなったらうちへ連れていらっしゃい。」
「うん、ありがとう、ママ。」
うちは私が小学2年生の時、最初の父をがんで亡くしている。
私が4年生の時に母は再婚した。
はじめは知らない人と一緒に住むことがとても怖く思えたが新しい父はとても優しくて私に怒ったこともない。
きっと私にどう接していいかとまどっているのだろう。
私も気楽に父とは未だに話せずにいる。
どこぞの世界では義父が娘に襲い掛かってくる話があるらしいがうちに限っては絶対そのようなことはないだろう。
今の父は人畜無害を人間にしたような人だ。
なにより私のママが選んだ人なのだから間違いないだろう。
「おや、ママにとこちゃん、おはよう。」
「パパ、おはよう。」
「おはようございます、あなた。」
そうこうしてるうちに父が起きてきた。
「とこちゃんもお弁当、作ってるんだ。」
「うん、たまにはね。あ、そうだ。パパにも明日から私が作るよ!」
「お!それは楽しみだな。」
「うん、それで感想を聞かせて?私に気にせずどんどん言ってもらいたいの、お料理上手になりたいから。」
「うん、わかった。」
御燭寺家の頭領は屈託のない笑顔でそう言った。
「おっは、ところ。」
「冴子、おはよう!」
「お!何か吹っ切れた顔してるじゃん?」
「うん、御手洗くんにね。お弁当作ってきたの。だから、もしかしたら今日、お昼別になるかもしれない。」
「お!そうなんだ。」
「うん、でもその確率は限りなく低いけどね。...もし余っちゃったら半人前、食べてくれる?」
「おう!まかせとけ!でも、御手洗、食べてくれるといいな!あ!」
「え!?」
冴子の視線の先には...御手洗くんがこないだの女の子と一緒に歩いていた。
しかも、2人は微笑み合いなんだか楽しそうだった。
ぐっ!!
「ところ?」
「あ、あはははー。...こたえますなー...。」
「がんばれ!砕けた骨は拾ってあげるから!」
「あはは、砕けたくはないけど。...でも、やれるだけのことはやるよ!」
「マジ、がんばれ!」
「うん!」
私は学校へ着くやいなや御手洗くんのクラスに向かった。
「御手洗くんお願いします!」
入口付近でだべっていた女子のグループにそう話しかけた。
「お~い、ミタ!お客さんだよ~」
今度はミタか。
家政婦さんかいな。
...つまらないダジャレを思いついている場合ではない。
そんなことを思いつくなら気の利いた言葉でも考えなければ。
「おはよう、御燭寺さん、何かな?」
「お、おはよう。あ、あのね、こないだのお詫びっていったらなんだけどお弁当一緒に作ってきたの。食べてくれないかな?」
「...え。」
「あ!迷惑だったらいいの!」
「...実は今日のお昼はお弁当、俺の分も作ってきてくれる人がいて一緒に食べる約束をしてしまったんだ。」
「...そう。」
「御燭寺さん、俺の分も作ってきてくれたんだよね?なら、もらっていいかな?食べるよ。」
「そんな無理しなくていいよ?」
「...言い方が悪かったな。御燭寺さんのお弁当を俺は食べたいんだ。」
「そぉ?多かったら残してもらって構わないからね?」
「...残さないよ。」
そういうやり取りをして私は教室へ戻った。
一緒に食べることはできなくても受け取ってもらえただけでもヨシとしよう。
御手洗くんとお昼を一緒に食べる子はきっとバスから見たあの女の子なんだろう。
突然でてきたぽっと出のモブキャラに負けるハズがない。
私の人生の主役は私なんだから。
この恋はこのままで終われない。




