聖母たちはバイバイ
「おら!立てよ!」
「もう、やめなよ!冴子!」
ディスティニーランドの帰りに冴子と私は御手洗くんの家に行き御手洗くんの家の近くの公園で話をしていたのだけれど...
というか、御手洗くんの家って冴子んちのすぐ近くだったんだ。
冴子は御手洗くんをボコボコにしていた。
「...これは、悩みに悩んで勇気をだして告白したのに振られてしまった良子の分!」
どかっ!
「これはショックのあまり10キロもやせてしまった、たか子の分!」
ばきっ!
「そしてこれは、いつもいつもあんたに振り回されるあたしの怒りだァー!!」
どすんぼこっ!
「やめなって!」
私はたまらず二人の間に割って入る。
「っ!...いいんだ御燭寺さん。こいつの気の済むまで止めないでやってくれ...」
「だって、これ以上は死ぬかもしれないよ?」
「...ところ、どいて。」
「だめだよ、冴子!...どうして別れたか理由を言おうよ?御手洗くん!」
「...ダメだ、言えない。」
「どうせ、こいつの我儘なんだろ?つきあってみてやっぱり合わなかったとかさ!!」
「...それでいいよ....」
ハタっ
御手洗くんは気を失ってその場で倒れてしまった。
「冴子!やりすぎだよ!これじゃ犯罪者だよ!」
なんてことだ、私がいながらこんなことになるなんて。
やっぱり事情を説明して市ケ瀬くんあたりに来てもらったほうが良かった。
「...ハァー....ハァー...ごめん、ところ、後は頼む。」
「え?ちょ、ちょっと、冴子?」
冴子はそう言い残しヨロヨロと歩いてどこかに行ってしまった。
ひどすぎでしょ!
私はとりあえず御手洗くんを肩でかつぎ御手洗くんの家に帰ることにした。
ご家族の方は誰もいなかったし不用心なことに玄関の鍵まで開いていたので勝手に入った。
そして私は御手洗くんをひきずってリビングのソファーにどさっと彼を寝かせた。
「...んんん。」
「あ!御手洗くん!気が付いた?」
「...ここは?」
「御手洗くんのおうちだよ!」
「...そうか...京本は?」
「...帰ちゃった。」
「...そうか。」
「体は大丈夫?」
「あちこち痛いが...どこも折れたりとかはしていないと思う。」
「そう、良かった。」
「...御燭寺さん、すまない。」
「ん?」
「こんなことに巻き込んでしまって。」
「ううん、いいの。....あの、マキナ様と別れたことなんだけど。」
「...ごめん。俺からは何も言えない。」
とりつくしまもない言い方をされたが私は構わず話を続ける。
「マキナ様って性転換手術したの?」
「...えっ!...御燭寺さんは知ってたのか。」
「多分、御手洗くんと別れた後だと思うけどマキナ様が私の家に来たの『性転換手術はどう思われますの?』って。」
「そうか。」
「で、私はちょっと引くかな。とか言っちゃったよ。」
「...」
「で、もしかしてそうなのかなーと思って。」
「そのことを知ったらもう以前のように北条さんを見ることはできないかい?」
「んー、ちょっと自信ないけど絶対に奇異の目で見ることはしないよ。」
「うん」
「冴子たちにも話すつもりはないし。」
「そうだね。それがいい。」
「...事実を私たちが知っちゃうとマキナ様を見る目が変わるかもしれないと思ったから黙っていたんだね。」
「ああ、俺は変わっちゃったからね。」
「...そうかー。」
「今は完全に女の体らしいけど...ちょっと俺には無理だよ。」
「そうなんだ。」
「...ひどい男だと思うかい?」
「...ううん、それは仕方がないことだと思うよ。」
「でもさ、これほどまでに好きになったことは初めてなんだよ!それが...なんで...どうしていつもこうなんだ。」
御手洗くんは大粒の涙をポタリポタリと床に落としていた。
...私はそれをただ見つめることしかできなかった。
私の胸の中で眠りなさいとか私にはまだそんな甲斐性はなかった。




