雲
ナナとハチが次に雲を見送って見えてきたのは、七色に光る虹でできた映画館だった。雨上がりの雲の隙間にほんの少しの間だけ現れるその映画館は、どうやら知る人ぞ知る幻の映画館だった。だけど、そんなことを七歳のナナが知る由もなかった。
雲の絨毯にハチといっしょに寝そべって、夜通し映画を楽しんだ。次々に映し出される見たこともない画面の向こうの世界に、ナナはこんなところに住んでみたいと何度も強く願った。だけど夜が明けると同時に、虹の映画館は霧のように消えてしまった。フィルムを回していたおじさんが帰り際に小さな飴玉を七つだけくれた。その飴玉はナナの大好きな味で、舐めるだけで疲れも眠気も吹っ飛んでいった。
「七回寝ても忘れられない夢を見たら、その時また見においで」
そう言っておじさんは優しく手を振った。
もう一度雲を抜けると、ナナは大きな友達とまた歩きだした。歩き続ければあの映画のような七色の世界に着けるかもしれない、と思うと何だかワクワクが止まらなくなった。
ナナとハチが次に門を潜って見えてきたのは、古ぼけた鍵工場だった。さすがにここには住めないかもしれないとナナは思った。こっそり中を覗いていると、ヘルメットを被った工事現場のおじさんがナナを見つけて、特別に中を見学させてくれた。
見た目の古さとは対照的に、中ではたくさんの人が働いて活気に溢れていた。この工場は毎日機械をフル稼働させても一日七個しか鍵を作れず、しかも『肝心の鍵穴のほうがまだ見つかっていないので、会社的には作れば作るほど大赤字じゃ。ワッハッハ』と、ヘルメットのおじさんに言われた。
「もし七回試しても開かない扉を見つけたら、この鍵を使ってみてくれないか」
ベルトコンベアから流れてくる鍵を見ていたナナは、おじさんから出来立ての鍵を受け取った。日が暮れるまでぼんやりと見学していたナナとハチだったが、鍵穴のない工場にはやっぱり住めそうもなかった。
ふとナナは、古いおうちの鍵をちゃんと閉めて出てきただろうかと不安になった。




