樹
ナナとハチが次にトンネルを抜けて見えてきたのは、七本の大きな樹の群だった。七回建てのビルよりも大きなその樹は、地面に大きな影を作っていた。
「ちょうどよかった」
ナナとハチは歩き疲れていたところだったので、その木陰で休ませてもらうことにした。とても涼しく、ひんやりとした地面が心地よかった。ナナは我慢できずに、そのままウトウトと眠りはじめてしまった。
「おいお前!」
鋭い声が耳に飛び込んできて、ナナが目を覚ました。いつの間にか身体を紐か何かでぐるぐるに縛られてしまっている。
「えー!?」
あまりに突然の出来事にナナは思わず声をあげた。ピクリとも身体が動かない。そして眠ったままの格好で縛られたナナに群がっているのは……見たこともない七人の小人だった。
「な……なんだお前ら!」
「『なんだ』じゃねえ! 俺たちの家の玄関の前に居座りやがって!」
「入れないじゃないか!」
そうだそうだ、と七人が一斉に騒ぎ出した。その五月蝿さが耳に響いて、ナナは頭がクラクラしてきた。
「家?」
「そうだよ! 家だ」
右側にいた青い帽子の小人が叫んだ。
「樹じゃないか」
ナナは首から上を動かして空を見上げた。いつの間にか夜になっていて、真っ暗な空には小さな星がたくさん輝いていた。
「そりゃ樹だよ! その樹に住んでいるんだ我々は」
左側にいた赤い帽子の小人も真っ赤になって怒った。
「君みたいな小さな子供がココに住むのはまだ早いな。樹の上にも七年、それくらい我慢できたらまたおいで」
「小さな子供だって?」
思わずナナは笑ってしまった。目の前の小人の方が、ナナの七分の一は小さかった。
「なんだと!」
「このやろう!」
「やっちまえ!」
ナナの言葉に怒った小人たちが一斉にナナ目掛けて襲いかかってきた。
「うわぁ! ……痛え!」
小人たちは持っていた小さな針でナナを何度も何度も突き刺した。一つ一つは小さな痛みでも、それが七人いるから大変だ。
「痛……やめろぉ!」
ナナは無我夢中で藻搔いた。それでも、キツく縛られた身体は全く動かなかった。ナナの身体の上を、七人の小人たちは縦横無人に駆け回った。このままだと全身ハンコ注射みたいな痣だらけになって死んでしまう……ナナがそう悟ったその時だった。
「バウッ!」
遠くの方からハチが駆けつけてくれた。
「ハチ!」
「ワン!」
ハチはもう一度吼えると、ナナに張り付いた七人の小人達をその牙で一蹴していった。
途中、小人との戦いになったハチが思いっきりナナに乗っかってきた。ハチは思ったよりも重く、思ったよりも温かかった。ハチの尖った牙が、小人の体を貫かんと星の光に照らされて妖しく輝いた……。
ハッ、とそこでナナは目が覚めた。
どうやら木陰で居眠りをしてしまったらしい。ナナの腹の上にはハチが寝そべって気持ちよさそうに眠っていた。
ハチのせいであんな夢を見てしまったのだろうか。
ナナが身体を起こすと地面に蟻の巣穴が見えた。どうやらナナが入り口を塞いでいたらしかった。
「……ありがとうな、ハチ」
熟睡している大きな友達を一度だけ優しく撫で、ナナは出かける準備を始めた。




