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 さて、ナナとハチが次に谷を越えて見えてきたのは、とても甘い香りのする暗い洞窟だった。


中を覗き込んでも真っ暗で、奥の方は何も見えなかった。ただとてもいい香りだけが奥の方から漂ってくる。

 一体何の匂いだろう。何か料理をしているのか、花でも咲いているのだろうか?

 ここに人が住めるだろうか、とナナは首をかしげた。おいしい料理とたくさんの花が咲いた庭のおうちなんて素敵じゃないか、とナナは想像をふくらませた。


「やめときな坊や」

 すると、突然後ろから声をかけられた。ナナが振り返ると、タバコを咥えた老婆が、いつの間にか後ろに立っていた。

「そこに入るには坊やにはまだはやいよ」

「じゃあどれだけ待てばいいんですか?」

 何となく、このお婆さんからも『あと七回がどうのこうの』言われるんだろうな、と思いながらナナは聞き返した。

「アンタがあと七回冬を越えるか、さもなきゃ七枚紙幣を用意するかさね」

 そらきた、と思ってナナはポケットを探った。

「……硬貨なら七枚あるんですけど。七十円」

「七十円!」


 老婆は目をひん剥くとそのままヒーヒー笑い出した。あんまり笑っているので、ナナはちょっと恥ずかしくなった。


「いやあ、久しぶりに笑わせてもらったよ、坊や。お礼に今夜はうちにおいで」

 散々笑ったあと、老婆が涙を拭いてナナに言った。

 案内された掘っ立て小屋の中には綺麗な一輪の花が飾ってあった。ハチが気持ちよさそうに鼻をクンクンさせて匂いを嗅いだ。

「名前はなんていうんですか?」

「もう忘れちまったよ」

 そう言って老婆は台所に引っ込んだ。しばらくして、とてもおいしそうな匂いを漂わせ、夕食が運ばれてきた。

「もちろんタダじゃないよ。お代はきっちりいただくからね」

「おいくら?」

「そうさなあ……材料費、調理代、もろもろ込みで七十円。どうだい、安くないだろう?」

 老婆はにやりと笑った。その夜ナナは軋む木の床の上で毛布に包まりながら、行ったこともないお花畑でハチと駆け回る夢を見た。


 次の日起きると老婆の姿はなかった。朝食がナナとハチの分用意されているのを見て、ナナは感謝の気持ちでいっぱいになった。お礼の書置きと七十円を残して、ナナとハチは小屋を出た。


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