山
ナナの七回目の誕生日に、ナナは旅に出た。ナナ達が次に住む新しいおうちを決めようと思ったのだ。ナナは一人では寂しかったので、愛犬のハチも連れて行くことにした。
ナナとハチは狭くなった古いおうちにさよならを告げ、二人でのんびり旅に出た。
さて、ナナとハチが最初に山を越えて見えてきたのは、七回建ての大きな大きな鋼鉄のビルだった。
鉄の壁は丁寧に磨かれており、その美しさはナナとハチの顔が写って見えるほどだった。ビルはナナが見たこともないくらい巨大だった。ナナとハチがどれだけ首をたてに曲げてもよこに曲げても、このビルの全部は目に入らなかった。ナナは、ここならハチがあと七十匹は飼えるだろう、と思った。
「すみません。この家をください」
ナナは、自分の七倍はあろうかという大きな玄関の呼び鈴を鳴らした。
「ここに住みたいのかい?」
すると、中からメガネをかけたスーツの男が出てきた。スーツの男はナナを見下ろすと、残念そうな顔をしてやんわりと断った。
「申し訳ないけれど、この家は売れないよ。君みたいな子にはにはもったいないよ」
「もったいない? お金が足りないということですか?」
ナナは困った。お金はたくさん持っているほうじゃなかった。
「それはわからないけれど。お金ではこの家は売れないよ」
「ならどうすれば?」
首をかしげるナナに、スーツの男がメガネをクイッとあげながら答えた。
「君があと七回誕生日を迎えて、今の七倍自分の事を好きになってくれたなら、この家をゆずってもいいよ」
「そんなに待てないや」
ナナはがっかりした。こんなに大きなおうちなら、中でハチと鬼ごっこができると思っていたのに。
「今夜はもう遅い。泊まっていくといいよ」
そう言ってスーツの男はナナ達を中に招き入れた。鋼鉄のビルの中はやっぱり鋼鉄で、中は思ったよりも’がらんどう’だった。
「ここに一人で住んでて、寂しくないの?」
あまりにも高い天井に口をあんぐり開け、ナナは思わず聞いてしまった。
「そうだね。僕みたいなものが住むには、もったいないかもしれない」
男は静かに呟いた。
その日ナナは、旅の疲れをヒンヤリとした鋼鉄のベッドで癒しながら、ハチとかくれんぼをして遊ぶ夢を見た。次の日、朝早くスーツの男に別れを告げ、ナナは再びおうちを探す旅に出た。




