開始
魔王城の地下の一室、石の壁の一部を押し込むことで道が開かれたその部屋は、むき出しの土で作られていた。
「まさか魔王城にこんな場所があったなんて……」
魔王な女の子が周囲を見回しながら言う。
「という態度でいようと思うのー」
「今度はなにごっこなんですか?」
訊ねたのは執事な男の子。ちょっと疲れた様子が見える。
魔王は執事に答えた。
「ルリエラちゃんが即席で地下ダンジョンを作ってくれたんだけど、魔王城に現魔王の知らないダンジョンがあったーって思ったほうが楽しいでしょー」
「なんのために作ったんですか」
「楽しいでしょー」
「そのうち牢屋と同じで物置になりそうですね、ここ」
「えー」
魔王は不満の声をあげながら、近くに備え付けられた木の扉をこんこんと叩く。
「とにかくこの扉からダンジョンに……」
「ふぉふぉふぉ、よく来おったな。盗賊どもめが」
「壁がしゃべったー!」
魔王は思わず声をあげた。
土の壁が変形し顔の形を作り出している。その土の顔の口が動くのと同時に、どこからか声が部屋に響いていた。土属性の魔術が得意なルリエラが作ったダンジョンなので、土の壁が顔になるぐらいは驚くようなことでもないのかもしれないが。
「貴様ら盗人どもの思い通りにいくと思うなよ。扉の先にある知恵、体力、勇気、そして強さの四つの試練が必ずや貴様たちを追い返してくれよう。その先にある財宝を貴様たちは目にすることもできんのじゃ!」
「説明が親切すぎてただのアトラクションですよね、これ」
執事がそんなことを感じる横で、魔王も言った。
「というかねー。説明を聞いてると、思ってたダンジョンとちょっと違うというかー、迷宮が広がってなさそう」
「そうですね……」
ふたりが話し合う中、壁の顔が叫んだ。
「さあ来るがいい、盗賊ども!」
その顔のくぼみやでっぱりがなくなりただの壁に戻ってから、ひとつうなずいて魔王は言った。
「録音してあるだけだから、あんまりこっちの雰囲気を読んでくれないねー」
「このまま待っていれば、また音声が始まるかもしれませんね」
「部屋に入りなおしたらかもしれないよー」
「なるほど」
ダンジョンな話。




